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201 聖女の宴


 暗い廊下から、案内された広間に入ると、光に包まれた。

 いや、燭台の灯りの量はあまり変わらない。真っ白の布が壁にも、テーブルにも掛けてあるんだ。

 うむ、白い。なかなかこの白はどこでも出せる白じゃない。郷土愛心が頭をもたげる。爺ややジュニアにはわからないみたいだけれど、ヤクタはわかるでしょ。

 当然、他にも花や名品のタペストリーとかでじゅうぶん見られた感じ(我ながら偉そう☆)になっている。ヤクタ、盗んじゃダメだよ。


 手から腰に貼り付いていた新人女騎士ラナちゃん8歳がパパさんに呼ばれて、しぶしぶ離れていく。この隙に、仲間うちでは賢そうなロスタム爺やに聞いておきたいことがある。


「このご時世に、あんな子供に位を譲るってどういうことなんだろう? わかる?」


「まあ、これが正解だとは申せませんが、思い当たるフシならありますな。」


 頼れる爺やが勿体(モッタイ)をつける。思うところがあるなら言ってよ。


「あの城主は既にオーク軍と通じていて、陰に日向に協力しておったんでしょう。

 それが台無しになったので、あれは先代のやったことなので当代は知らぬ存ぜぬ。バレて追求された時にはそう言い張るつもりではないですかな。」


 ホントに? そんなことってある?

 じゃあ、わたしが頑張らなくても町は無事だったわけ?


「さあ、それは。敵の、あの司令官次第でしたでしょうな。」


 あ、そりゃあダメだ。頑張っててよかった。それにしてもイヤな話だねぇ。


「その上で、サディク殿下と特別に親しい姫様が予告もなしに現れたものですから怯えておるのでしょう。今なら、何でも申し付ければ言うことを聞かせられますぞ。」

 

 ひどいなぁ。あんな女の子をいじめたりしないって。それも相手の計算のうちかな。

「わたしもチョロいなぁ。」


「アイシャはチョロくていいんだよ、せせこましいのは似合わねェ。デーンと構えてろ。」

 ヤクタの言うことも、褒められてるのかどうなのかわかんない。

 でも、今日は勝負をしに来たわけじゃない。ご飯いただいて帰ろう。



 わたしの側にはラナちゃんが再びやってきて、特になんでもない身の回りのことを話している。かわいいから、もう何でもいい。

 ご飯は、まあ普通でした。わたしの舌も肥えたものだね。でも先日の庶民の屋台ご飯はおいしかったから、気持ち次第なのかもしれない。


 ヤクタたちは、お酒があれば何でもよくて上機嫌みたいだ。

 向こうの男性陣は特にジュニアの機嫌をとろうと集まっている。ジュニアの偉大さはわからないけれど、彼の実家はこの中の誰と比べても雲の上なので仕方がない。

 おじさんたちにチヤホヤされながら差し出されるお酒をがぶ飲みしてゲラゲラ笑っている、そのジュニアの目は虚無を写していて、心は何の気も放っていない。なんだか見てはいけないものを見てしまったようで、あわてて目をそらした。



「お姉様、わたくしにもオークとの戦いのお話を聞かせてくださいませ!」


 食事も一段落して、多少落ち着いたところで新・妹ちゃんが切り出してきた。わたしの食事中は遠慮してたんだね、賢い子だ。

 もう語り飽きたところではあるけれど、キラキラの目の期待に押されたのと、ジュニアを囲んでいたおじさん連中もこちらに移ってきたので、つい、また語ってしまった。



 町で語ったときと違って個人的なことは必要ないだろうと、十字軍の件に絞って話す。

 以前は“気”で映像を伝えるには相手の手をつなぐ必要があったのだけれど、慣れてきたのか、いつからか遠隔で多人数相手にもできるようになっていた。やはり喋って伝えられることには限界があるから、これができるのはとても助かる。


 王女様と話した王宮の部屋、海の船の様子など、なるべくラナちゃんの教育に悪くない場面重視で、おじさんたちには悪いけれど殺伐とした場面はあまり見せたくないのよ。

 戦場の花の舞台をサッちゃんと並んで見ていた場面なんかは「うわぁ、お姉様、オトナだ、羨ましぃ……」なんて声も漏れていて、いやぁ、小さいのにモノのわかる姫騎士ちゃんだね。

「夜ふかし……」って、羨ましいのはそっち?


 若干盛り上がりには欠けつつ、ド級戦車の大爆発から怪我人の治療まで、説明を入れつつ映して、おしまい。お粗末様でした。

 あーぁ、静まり返っちゃったよ。どうしようかな、この空気。


 シンと静寂に包まれたなか、妹ちゃんがガバっと寄ってきて叫ぶように尋ねてくる。



「聖女様、聖女お姉様は病気を治せるんですか!」


 そういえば、町ではこの部分は語ってなかった。地味だし、半端に終わったからね。自慢できる芸じゃない。でも、考えてみれば珍しい特技だよね。話題になるかも。そんなこといいながら聖女だったら誰でもできるんじゃないの?


「もしそうなら、聖女は国中ひっぱりダコだぜ。って、立派な奇跡を一芸扱いかよ。」


 へえ、王都っ子のジュニアが言うならそうなのか。そうね、百人とかに押しかけられたら困るよね。でも、妹ちゃんには尊敬されたい。

「誰か治して欲しい人がいるの?」


「お母様を! お母様を助けてあげて!」



 あぁ、そうだよね、聞けなかったけれど、先に気を回してあげてもよかった。

「じゃ、行きましょう。案内してくれる?」


 そうと知っては、このまま優雅にデザートを(たの)しむのも気が引ける。ラナちゃんの手をとって席を立つ。


「お、お待ちくだされ。そんなことが、出来るのですか、今から!? いや、礼物の準備も何もかも不足しておりまして、あの、」


 パパさんは何やらまごついているけれど、この家の当主はラナちゃんだ。


「どうする?」

「お願いしますっ! お礼なら、この城でも町でも差し上げます!」


 おっと、豪傑の判断力だね。騎士に向いてるよ、この娘。

 でも、妹の母親なら当然、姉の母親でもある。そんな思い詰めるものじゃないよ。行きましょ。


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