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199 寝る


 やるべきことを、人と相談する。単純なことだけれど、考えたこともなかった。 

「じゃあ、わたしはこれからどうしたらいいと思う?」


「だから、どうしたいか!までは自分で考えなよ。それを言ってもらえたら、何をしたらいいのかの知恵は出してやるから。」


「優しくないー。」

「そんな優しいヤツ、いないよ。…でも、まあ、いいか。真面目にやったってしょうがないしな。そんなことより遊びに行こうぜ。なぁヤクタ。」


「イェー!」「ヤホー!」

「こォのバカどもがァーッ!!!」



 あ、おかえりなさい爺や。お役人さんとのやり取りご苦労さま。これはね、えーっとね。ごめんなさい。誰だ、彼をイエスマシンとか言ったジュニアは。


 で、ロスタム爺を怒らせてしまったので、わたしが彼にお酒を飲ませたり肩をもんだり腰をもんだり、ご機嫌取りをせねばならぬことに。

 元凶の2人は今夜も遊びに出かけた。奴らのカップリング成立は阻止せねばならぬのに。しかし、この町で夜遊びすることなんてあるんだろうか。


 ヤキモキする気持ちは強いけれども、ヤクタたちのことを口に出すと良くなっていた爺やの機嫌がまた悪くなるから言い出しにくい。なんてウダウダしてる間に夜は更け、2人は帰ってこない。

 なるほど、こんな時、他人を気にせずさっさとひとりで飛び出すのは、楽だ。それに、こんなことを他人に相談するのはとても恥ずかしい。でも、ここはやはり相談することを試してみよう。


「あの2人ですか?ふむ。雰囲気はお似合いだから、(まか)り間違って一時期付き合うこともあるかもしれません。が、10日とは続かんでしょう。放っておけばよいのでは。」


 そうか。告って付き合っても、ハッピーエンドで世界は終わらないんだ。続かなくて終わることもあるんだ。そうだよね。でも、その前提はひどくない? 説得力はあったけれど。いいのかな?



 そうは言われても、なんだかオマエは要らないと態度で示されたような気がして、寝転ぶ気にもなれずベッドの上に三角座りしながらまんじりともせずに過ごす。

 夜も明けようという頃、2人が帰ってきた。遠くから気配で近づいてくるのはわかっている。その楽しげな気配に、頭のなかで何か、フツフツと弾ける音がするようだ。

 嫉妬。やっぱりこれは嫉妬だろうね。イヤだな。そんなこと、考えたくないのに。


……「うわっ、アイシャ、オマエ起きてたのか。どうしたんだ、もう寝るところか?

 アタシがどこ行ってたのかって? 革命家の情報を仕入れにな。悪たれの相手はアタシに任せとけ。事務仕事はシーリンに任せるみたいにさ。」


「ヤクタ、好き!」

「アイシャちゃん、俺も! 俺、俺、ジュニアも活躍したんだぜ!」


「?……ヤクタ、愛してる!」


「おーい!」

「ウハハハ、アタシも愛してるよ、アイシャ。(良い声)」


 ひっしと抱きあう。よかった、やっぱりヤクタはお姉ちゃんだ。余計な心配をしちゃったじゃないかジュニア。

 なんだ、わたしには帰るところも守りたい人もいるじゃないか。これでいいんだ、満足、幸せ。


 酒場の匂いと汗の匂いと、薄い香水が混ざったヤクタの匂いで脳がしびれる。抱き合っているけれど、わたしの頭はヤクタの胸の下あたりに収まってしまうので、なんというか湿度が高い。

 背に回された彼女の両手が、ちょっと余って脇腹のほうまで…うヒッ!



「そう、そう! 革命家さん。どんな情報があったの?」


 なぜかくすぐられるので身をもぎ離しながら、本題に入る。ヤクタはがっかりした顔をしているけれど、心が痛むからそんな顔するくらいなら普通にしていてほしい。


「革命家にも種類がいろいろあってな。今日アイシャが会ったのは没落弱小グループ・ザンデ組だ。気にしなくていい。

 ケイヴァーン、オマエの叔父さんは2番目に大きい組のボスだが、上手く立ち回ってて勢力が増してるらしい。そのザンデ組からも、少し前に7割ほどのメンバーを吸収してるそうだ。

 だから叔父さんを倒すなら、泳がせてまとめさせて、1番になったのを叩いたほうが革命家連中まとめて倒せるから手っ取り早いな。

 つまり、まだ待ちだよ。さ、夜ふかししてないで寝な。」



 本当かしら。ヤクタってせっかちそうに見えて待つの好きだよね。疑いの目を向けていると、

「どうした、添い寝がいるか?」

 なんて言うので、脇腹の感触がよみがえって急に恥ずかしくなってきた。いいから、寝る!



 強い西日を浴びて目を覚ます。あぁ、よく眠れた。やっぱり旅路や戦場じゃ眠れても浅い眠りにしかならないもの。実家のベッド、サイコー。

 おや、玄関の方で爺やと誰かが話してる。大あくびを一つしてノソノソと起き出す。せめて顔を洗おう。おや、ヤクタ、おはよう。


「ずいぶん良く眠れたみたいだな。オマエ、丸一日半も寝てたぜ。」


 え、うそ。三度寝か四度寝してた覚えはあるけれど、そんなに寝てた?


「いま、城からの迎えが来てるぞ。なんか約束してたんだって? ロスタムが相手してるけど、アイツは町の城主なんかよりアイシャの睡眠のほうが大事だからな、追い払う構えだ。どうする? まだ寝るか?」


 待って。意地悪いわないで。行くよ、行きます。

 ちゃんと思い出した。町に帰ってきた日の夕方に、お城へ招待の使いの人が来てたんだった。今日だっけ? ちょっと待っててもらって。

 お城に行くなら、ドレスどうしよう。戦勝パレードの時のでいいかな。洗濯してもらっててよかった。


 あ、ヤクタとジュニアも行くんだよ。留守番するつもりだったでしょ。逃がさない。

 あなた達用のちょっといい服、持ってる?


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