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198 相談


 革命家らしき青年にコンタクトを取り、立ち話する内容でもないということで彼と仲間が泊まっている宿にお邪魔することにした。

 知り合いの町人たちは危ぶんだけれども、聖女のお仕事だと言って納得してもらう。ロスタム爺やも、一般人の中ではすごく風格がある老豪傑の(おもむき)(かも)し出していて、ひと(にら)みで皆を静かにさせる。


 悪人?の巣窟となっている宿は、昔から知ってるおなじみのところだ。もちろんわたしは用がないので入ったことがないけれど、宿の主人は町のお祭りのときとかの顔役でもあるので有名人だ。悪さに関わる人じゃない。

 昔から興味があった地元の宿に入れたのは嬉しくもありながら、知り合いばかりの町で無茶はし辛いなぁと思うと面倒を感じたりもする。サッちゃん風に言えば、高度な柔軟性をもって臨機応変に対応しないといけないね。 



 男たちの部屋に通された。数人が寝泊まりする広めの部屋で、窓からは川湊(みなと)も見える素敵な部屋だけれど、どことなく戦場の男たちのテントと同じ匂いが漂う。むさい。ガマンが必要。


 革命青年の名はザンドというらしい。特に男前でも不細工でもなく、これといって特徴のない中肉中背の、強いていえば賢そうと言ってあげてもいい、あと10年もすれば立派な田舎紳士の出来上がり、みたいな男だ。

 部屋の奥の間仕切りの向こうから「お茶っ葉、これでいいでしょうか⁉️」「いいわけないだろ、買ってこい!走れ!」なんて声も聞こえてくる。

「お構いなくー!」



「君は、この国の政治をどう思う? もっと良くしたいとは思わないかい? 僕はこう思うんだが……」


 そんな、いかにもな出だしでザンド青年は語りだした。

 返事をしないでも、相槌を打たなくても、ひとりで語る、語る。話の内容は、まるでわからないわけでもないけれども、わからないのはこの青年だ。


 わたしは、チヤホヤされたくて頑張ってる。知り合いやそうでない人、いろんな人から褒められて甘やかされたくて、それが実現するとたまらなく嬉しい。

 彼は、どうやら自分が自分をチヤホヤして、いろんな言葉を使って自分のなかで自分を褒めそやして喜んでる。なるほど、そういうのもあるのか。


 だけれども、話が全然ピンとこない。どうも、彼らの相手をしても得るものはなさそうだ。あっさり見切りをつけたので、もうどう言って帰ろうかを考えよう。

 と思っていると、隣のロスタム爺やが目配せしてきた。わかってる、宿の周りを十数人に包囲されてる。友好的ではない。敵意だ。それも、義務感でダラダラやってるタイプの仕事だ。



 つまり、お尋ね者の彼らを逮捕するべく町の衛兵さんたちが包囲してるんじゃないか。これは、ボーッとしてたらわたしたちまで関係者として逮捕されかねない。

 今からやるべきこと、できることは限られている。さあやるか、と腰を上げようとしたとき、お茶っ葉の件で怒られていた男があわてて飛び込んできた。


「やべぇ、マッポに囲まれて……」

 言わせないよ。パッと跳ねて、ガっと叩いて、バタリと倒す。武器は、お茶のカップ。叩いて良し、投げて良しのスグレモノ武器だ。


 オーク戦士たちを相手にしてきたわたしには、革命家青年たちでは敵役に不足もいいところで、部屋の奥にいたもう一人も素早く制圧する。

 あとは、彼らを衛兵さんたちに突き出せばひとまず問題解決だ。その辺は、ロスタム爺、お願いね☆



 それにしても、これはちょっとマズかったかな。場合によってはサッちゃんの兵隊になるかもしれなかった人を先回って倒してしまって、敵か味方かもわからない城主さま側につくことになってしまった。

「ダメかな?」

「このザンドとやらが頼むに足りぬというご判断でしょう。文句を言う奴はこのロスタムも、サディク殿下も許しはしませぬ。

 姫様、面倒事はこちらで始末しますので、あとは旧友への挨拶なり、お好きにお過ごしください。」


 この爺やの有能っぷり。ありがたくて涙が出そう。

 じゃあ、申し訳ないけれど、任すね。そう言って敬礼を残してこの場を離れる。衛兵さんは何か言いたげだったけれど、彼らも彼らで面倒事を避けたいらしい。()いて、追ってはこなかった。



「アイシャちゃん。思いつきを実行に移す前に、誰かに相談した?しなよ。なにそれ。怒ってないよ、呆れてるんだよ。」


 …そろそろ奴らも起きているかと思ってお家に寄ってみたところ、ちょうど起きて夕刻前の朝食をとっていたところに出くわしたのだけれども、なぜかわたしが説教されている。

「どこ行ってたんだー?」と問われてさっきの出来事を話したところ、ジュニアが妙な表情を浮かべて、


「ちょっと、そこ座んなよ」ときたもんだ。



「いや、俺が言えることじゃないよ?無いがね。メンツが“面白がりクソ女”と“イエスマシーン”なら、俺がやるしかないじゃない。

 こういう目的のためにこういうことをしたいから知恵を出せ、って言われたら、喜んでそうするからね。キミ、そもそもその行動で結果に納得してないんだよね。何が悪かったか、わかる?」


「言い返せ! 言い返せ!」ってヤジが飛んでくるけれど、図星なのが辛いところ。それにあなたも流れ矢で酷いこと言われてるのよ。


「だって。いっつも、自分がやりたいことは自分で決めろって言われるから。あと、関係ないけどヤクタをクソ女なんて言っていいの?」


「いンだよ、クソ女に人生めちゃめちゃにされるのは男の夢で、憧れで、甲斐性だ。女のアイシャちゃんはそうじゃないだろ。あと、自分でやりたいこと決めたあとで他人の意見を聞くのは、普通のことだ。俺も昔よく怒鳴られた。」


「いいじゃねェかよ。アタシの人生はアイシャがめちゃめちゃにしたんだ、今からアイシャがクソ女になっても辻褄が合うってもんだぜ。」


 ヤクタ、それ、フォローになってないし。


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