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197 革命家の夜


 宴はなおも続いているけれど、自宅に引っ込ませてもらう。場のフォローはジュニアとヤクタでやっててくれるだろうと思いたい。

 ロスタム爺やが護衛で送ってくれている。誰かに襲われるなんてありえないけれどもね。


 などと思ったら大間違い。柱の裏とかちょっとした物陰に、そういうものは潜んでいる。


「ベ太郎じゃん。勝手に人ん家に入らないでよ。なにか用でも?」


 油断ならない男だ。わたしはこの男のヘッポコなところしか見ていないが、どうもわたし以外はこの男に一目置いているようだ。最近、そのわからなさが不気味さも感じさせる。

 そして、気まぐれにしか顔を出さない、この企みの多そうな男には、彼の命を賭けて聞いておかねばならないことがある。


「そうだ、サっちゃんについて魔法道具で宰相さんに告げ口したのって、あなた?」


「魔法道具だと? 何のことだ、話してみろ。俺がやってるのは、お前の監視だ。」


 なんで、わたしを監視するのよ。ひょっとして、あなたの趣味? …微塵ほども心が温まらない言い訳を聞きながら、これだけあらわに動揺するなら犯人は彼ではなさそうだと、“魔法道具”について教えてあげる。


「それは、秘中の秘だ。俺も聞いたことがない。が、記録を漁ったときに、そういうものでもないと説明できないことが稀にあった。もちろん、俺の仕業ではない。

 お前、義勇兵どもには言ってないだろうな。言ってたら、後々そいつらが不審死するぞ。」


 してないよ。でも、そこまでとは知らなかった。今日も、言わなくてよかった。

 で。あなたは何をしに来たのさ。監視なら顔を出さなくていいでしょうに。



「集まっていた若い男の中に革命関係の活動家が数人混ざってるぞ。あいつらに関して、知っていることを話せ。」


「…男の子グループには詳しくないから。」

「わかった好きにやらせてもらう。」


 食い気味に、言うが早いか出ていこうとする背中に。

「待ちなさい。あなたは誰の味方なの?」


「今の俺は、俺のためだけに動いている。勝ちそうな方に売る情報を仕入れてるところさ。」


 つまり、領都の情報ヤクザ・ナヴィドさんの同類か。

 イヤだな。あんまり妙なものとは関わりたくないし、関わりのある人が妙なものに後から変わってしまうのも厄介だ。

 この人間関係、無かったことにならないかなぁ。後でヤクタに相談しよう。



 寝床でつらつら思う。革命って、身分社会がどうこうとかの話を聞いたことがあるけれど。王子様の1番目と3番目を取り替えるのは革命? それ以外にも企みごとがあるんだろうか?

 頼まれたのは叔父さんを思いとどまらせることだけなんだけれども、討論して論破して屈服させられるなんて想像もできない。結局、叩いて言うことをきかせることになるんだろう。


 イヤだなぁ。それじゃ、逆に暴力女だ。わたしも、政治の話ができるようになるべきだろうか。

 でも、どうやって勉強しよう。手習いの先生はまっ先にこの町から避難していった。爺ややジュニアはどうだ。ちょっと頼りない。


 そうだ、せっかく知らない革命家がいるんだったら直接聞いてみよう。そうだそれがいい。べ太郎は鬱陶しいけれど、いつも情報は有用なんだよな。

 明日、町を歩いて革命家を探してみよう!



 ひとり意気込んだところで、騒がしいのが帰ってきた。


「だからテメーェはダメなんだよ、■棒と■玉逆についてんのかぁってんだゲヒャヒャヒャ」

「どう使うんだよそれ!ってヌッヒヒヒ! ちょーっとヤッタ、アイシャちゃんに聞こえる!ダメ。メッでしょ。」


 酔っ払いだ。もとい、ヤクタとジュニアだ。この2人、わたしは結局なんにもしてないのに勝手に仲良くなってるのか。


 思い返せばジュニアと初対面のとき、ヤクタのことが好きだというので彼に手を貸そうと考えた。それは、キラキラにときめくヤクタが見たかったのであって、断じてダメ男に構う姉さん女房でもなければ、ああいうノリでもない。

 やっぱりヤクタはわたしのお姉ちゃんで家来で、将来的なばあやなので、そんな簡単に譲り渡すとか考えるべきではなかった。彼女は、わたしのだ。

 あと、ナッちゃんとの友情もあるので、ジュニアは女騎士ナスリーンと結ばれるのがいいだろう。そうあるべき。


 ひとこと言ってやろうと起き出してみたら、ふたりとも玄関で酔いつぶれて寝ていた。ふぅ。平和っていいなぁ。

「姫様、こんなものを見てはなりません。」


 ロスタム爺。そうだね、説得力あるね。



 翌朝、というか昼。2人は玄関からなんとか居間まで這ってきて、そのまま倒れている。聞きたいことがあったから起こそうとしたら「あとで……全てを」だって。

 治してあげてもいいけれど、頼まれなかったから、いいや。


 そういうわけで、今日は質素な服で町に出て革命家を探す。質素な服といっても王都製なので垢抜けている。見せびらかし欲も、目的の3分の1ほどはある。

 お供の爺やは正直いらないけれど、残してきてもやることなくてかわいそうだから、ついてきてもいいよって感じ。



 さて、怪しいよそ者の若い男について聞き込み調査だ。

 とりあえず市場方面に歩いていくと、特に何を考える間もなくたくさんの人に囲まれて、何も言わないのにお菓子やお茶を渡される。

 ゆうべのは良かったよ、とか、今日はやらないのかい、また聞かせておくれよ、なんて言われて。みんな昨日、夜遅かったのに元気だね。


「ところで、革命家の、他所から来た若い男はいないかしら? サッちゃんは迷惑だっていうけれど、わたしは一度お話を聞きたいなって思ってて。」


 わたしはいつだって直球勝負。言いたいことは誤解されないよう、言った・言わないで後からモメないようハッキリ言う。


 囲みのみんなの目線が動く。それらの行き着く先は……若い男。昨夜、サッちゃんを推してた男たちの1人だ。いきなりビンゴ。

 さあ、お話させてもらいましょう。罰したりはしないから。たぶん。


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