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193 解散


「余は引き継ぎを済ませ次第、今夜にも出立する。妙な言いがかりを避けなければならんからな。

 ここには宰相が直々に来て、敵との交渉に当たると言ってる。奴は非戦派だったからな、戦勝が公表されたら立場が悪くなるだろうし、ほとぼりを冷ますのと和平の功績を積むためだろう。

アイシャも、鉢合わせしたくなかったら10日以内に離れたほうがいい。」


「そんなに、急に⁉️ せめて、晩ごはんくらい一緒に……」


「…!! ……!…………断腸の思いだ…! さっきの“頼み”は無理と判断したら放棄して、とにかく無事で。それで、王都に来てくれ。その頃には、俺だっていくらでも遊びに付き合えるはずだ!」


 引き続き、サッちゃん殿下とのお話中。

 戦が終わって、その日のうちに報告の早馬を王都に向けて走らせていた。おおいに急いで片道5日、往復10日は返事待ちでのんびりできるかと期待していたが、なんと翌日には状況を把握した王都からの知らせが届いた。

 半ば犯罪者のような扱いで王都に呼びつけられているのだという。

 全然納得できないが、本人が受け入れている以上、まわりが騒ぎ過ぎでもよくないだろう。

 それはそれとして、わたしも特別任務「革命の動きを止めろ」を仰せつかったので、そのご褒美の相談なども必要だ。



「あぁー、いいですねえ。サッちゃんの“解禁”も済んでるだろうから、そのお祝いもしよう!」


「…いや、せっかくだからアイシャと再会するまで禁欲は続けよう。」

「じゃあ、まる1日、いや、3日以上かけて、2人で禁欲の解禁式をしましょうね。」

「なら、それまでにヤクタにでも“男の禁欲”の内容について聞いておいてくれ、頼む。」



 頭巾からはみ出たわたしの短くなった髪を丁寧に撫でながら、子守唄でも歌うようにサッちゃんがささやく。王子様というイメージには遠い、ゴツゴツした大きな手だ。

 それは悪くないけれど、気になることがある。


「サッちゃんが、ヤクタと仲良くなってる……」

「仲良くはない、敵だ。…そうだ、この指輪を持っていてくれ。王家の者だと保証する指輪だ、便利なこともあるだろう。諸々、頼んだぞ。」



 そうして、わたしとナムヴァル将軍だけの見送りで、振り向きもせずに彼は行ってしまった。両手で握りしめた指輪が温かい。言葉にできない感情が胸に溢れては、言葉を結ばないまま風に吹かれて溶けていく。


 背中が夜闇に消えて見えなくなったら、さて、もうわたしはこの場に用がなくなった。

 ナムヴァル将軍とも軽く挨拶を交わして別れる。彼はサルーマン宰相の到着まではここに残ってハーフェイズと一緒に軍の面倒を見て、それから単独で王都の屋敷に戻って無断出撃の責をとって謹慎、それも済んだら新しい任地に派遣されるだろう。自分は遊んでいる暇は与えられないのではないか、と笑っていた。


 わたしは、まず食べそびれていた夕食だ。それから明日、十字軍を招集して今後の報告と連絡と相談。もう、なるべく早く出発しちゃおう。


 しばらくお休みしたい気持ちはあったけれども、ここじゃちょっと気持ちが休まらない。次はイルビースに行くんだったら、その前に故郷・ヤーンスの町に寄って、実家で数日ゴロゴロしよう。うん、それがいい。ヤクタは来てくれるだろう。彼氏ができそうなシーリンちゃんはどうだろう。

 ゲンコツちゃんはハーさんと一緒にいたらいい。爺やはどうかな。爺やを続行してくれたら嬉しい。けれど、彼次第かな。一度、ちゃんと頭を下げてお願いしよう。



 翌日。

 朝から後方拠点・戦場ヶ原に移動し、十字軍総勢66名が集った。戦場ではぐれた人、足を怪我して帰還に時間がかかった人などで、生き残り人数が6人増えたことは素直に嬉しい。

 まずは未帰還の34名、ついでに誰ひとり帰らなかったジュニア・アーラマンの憂国隊92名にも祈りを捧げる。一人でも多く、実は生きていますように。亡くなった人には、魂よ安かれと。



 で、発表。

 王国の秘密道具で司令がでたことに関しては口止めされてなかったけれど、念のため、黙っててあげよう。と、なると少々状況が不自然だ。でも、姫聖女さまを疑うことは許しません。


「われわれの任務は最高の結果を生んで達成されました。ハイ、みんなで天を衝く勝鬨(かちどき)の声! ワー。

 なので、ここからは政治家さんの仕事になります。


\そいつらに任せられないから我らが戦ったんじゃないのかー!/


 ハイそこ、いい質問だけれど不規則発言は後でハーさんと個人面談の刑です。

 ……政治家の人も、それぞれに立場とかがあるから意見が合わなかっただけで、ここまでお膳立てをしてやってしまえば、後はいいようにやってくれることでしょう。


 で、ですね。これから、こちらの“天剣”ハーフェズさんが王子様に代わって正規兵の軍団長になることが内定しています。これはハーさんも承知済みでした。拍手。パチパチ。

 なので、皆さんもわたしも、この先どうするか、というターンになりました。


 本当なら全軍で王都に華々しく凱旋できたら格好良かったんですけれどもね、そもそもそういうアレじゃなかったですしね。

 ここに残って国防の仕事を続けたい人は正規兵に編入されてハーさんの下で働くことができます。そうでなければ、ここで特別報酬をもらって、現地解散になります。

 ちなみにわたしはココだけの話、重要な単独潜入任務を預かっていますのでお別れになっちゃいます。

\えぇー!/


 えぇー、じゃない。皆さんは、急ぎじゃないのでじっくり考えて決めてください。帰る人は、帰り道で十字軍の名を出して暴れたりして悪い評判にならないように。神罰を与えますよ。家に帰るまでが十字軍です。ホントにね。


 ……皆さん、数ならぬ身のわたしを助けてここまで来てくれて、本当にありがとうございました。(ぐすっ)…最後までバタバタと急なことで申し訳ない終わり方になりましたが、ここで解散してもわたしたちは十字軍です!また元気に会いましょう!」



「なンだよ、あの挨拶。」

「いいじゃないの、ちょっとは格好がついた感じだし。わたし、案外演説が得意なのかも。…ヤクタは、ついてきてくれるよね。シーリンちゃんは?」


「私は、十字軍の各種事務手続きを済ませてからアイちゃんを追いかけるわ。イルビースでいいのよね。…事務方の団員さんにお任せしてもいいんだけど、実は私が発端なんだし、そこまでは私にやらせて。メガネ…ユーくんも一緒でいいでしょ?」


 おぉぅ、もう、好きにして。


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