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190 新しい環境


 パレードは、いちおう無事に目的地、数日前にわたしたちが押しかけたオーク軍の臨時本部、東フィロンタ領第二政庁に到着。


 十字架を光らせる奇跡はやっぱり使えないままだった。なんだろう、実際にどうかよりも、頑張ったのに怒られて否定されて、そのままなのが気持ちに重くのしかかる。

 サッちゃんは「大聖女を引退する良い言い訳になるじゃないか」って、たしかにそう考えればありがたいけれど、なに、それって慰めてくれてるの?



 問題の政庁は先日の姿のままで、オークさんたちは壊さなかったようだ。よほど慌てて逃げたのか、余裕で立ち去っていったのか、判断しにくい。

 でも私が壁をぶち抜いた跡はまだ、雑に板を打ち付けた応急処置だけ。癒えない戦争の傷跡が残っている。ということにしておこう。


 サッちゃん軍は到着するなりダッシュで建物内の調査にかかり、わたしたち十字軍はパレードの賑やかし要員なので特にやることがない。

 カーレンちゃんは事務員枠で参加したほうがいいんじゃないの?って聞いたら「世の中には知らないほうがいいこともあるのよ」だって。なにか、違わないかなぁ。



 仕方ないので、我々は中庭で昼食の準備をしながら待つことしばし。

 サッちゃんがプリプリ怒りながらやって来た。「やはりアイツらは蛮族だ! 税収の記録も過去の議事録も残らず焼き払いやがった!」


 わたしは興味がないけれど、そういう書類がないのと復興が数年は遅れるらしい。それは、大変だ。でも怒鳴る人は嫌いだよ。

 この調子ではサディク王国の建国は遠そうだ。でも、怒りながらわたしも手伝った香草チキンサンドを頬張る姿は見ていて和んだので、機嫌が治るように頭をなでてあげる。

 カーレンちゃんは「ヒュー!」って、口笛じゃなく、口で言ってる。この娘、口笛吹けないからね。ヤクタはまだ機嫌が悪い。こっちも、後でなでてあげよう。



 などとのんびりしていると、伝令の人が現れた。そして、見てはいけないものを見たかのように回れ右して、直立不動で主命を待つ。


「何事だ、報告せよ!」


 だから怒鳴るのは嫌いだって。と言うのもどうかと思ったので、邪魔をしないよう部屋の隅っこに控えよう。頭巾を深くかぶり直して、自分の気配を薄める。

 伝令さんが照れながら言うには、元領主の人が挨拶に来たと。サッちゃんの機嫌はますます悪い。


「まったく、戦の前に顔を出しておけば少しは印象が変わったものを。今頃来られても公開処刑ではなく服毒自殺させてやるくらいしかしてやれんぞ。おっと、カーレンには身内だったか?」


「お気遣い無用ですぅ。むしろ、ざまーみろと指さしてやりたい気持ちで一杯で。見学させていただいても?」


「…ほどほどにな。アイシャはどうする? 見て気持ちの良いものではないだろうが。」


 見なくてもいいなら辞退します。その間、どうしよう。陣に戻って小生先生の手伝いを再開しようか。昨夜は、本当に死にそうな人だけ治療して、今日はこっちはこっちで必要なことだから、って連れ出されてきたんだ。

 あの治療をすると小生先生は言葉と態度で感謝しながら実に嫌そうな顔をする。それがちょっとだけ楽しみでもある。


「すまんが、先に聖女だけ戻ったら何事かと民に心配される。負傷兵にも申し訳ないが今日中は、この街にいてくれないか。やることがなければ……」


 いいよ、昨日もほとんど寝れてないし、庭先でお昼寝だ。サッちゃんも程々に切り上げてお昼寝しな? またひどい目元になってるよ。



 夕方、目を覚ますと夕食の支度の匂いがする。食べて、寝て、また食べて、寝る。素晴らしい生活。残りの一生、こうでありたい。

 ヤクタは起きてたの?なにか変わったことは?


「ハーフェイズだけ陣に引き返してる。例の捕虜が目を覚まして、暴れて手が付けられないらしい。

 それからシーリンが十字軍を指揮してサディクっちの仕事を手伝ってる。崩れた城跡を掘り返して資料を拾い集めてるらしい。」


 ヤクタは?


「アァそう、シーリンな、部下のメガネと最近いい感じなんだぜ。メガネの方も「戦争から生きて帰れたら告白する」みたいなノリでよ。」


 まさか、そんな。え、うそ。それで、どうなの、どうなったの。


「落ち着け。もったいねぇよな、いくらでもイイ男よりどりみどりだろうに。

 で、さ。最後にアイシャが生き返らせた瀕死のうちの1人がそいつだったんだよ。メガネがなかったからアタシもわからんかった。

 だからさ、戦争からは生きて帰れたんだが、メガネが壊れたからもう何の役にも立たんの。そんなザマだから告るに告れなくてよ。煮えきらない具合がひでぇ。」


 そんな、ひどい。街に眼鏡屋さんはないの? そりゃあ、営業はできてないと思うけれどさ。今からでも街に出て探してこようよ。



「というわけで。カーレンちゃん、街で聞き込みをしたら、メガネの寄付がたくさん集まりました。使えるの、あるかな?」


「あのさぁ、アイちゃん。お気遣いはありがたいけどぉ。使えないやつはどうするのよ。」


 予備と思って持っておこうよ。それに、売ればお金になるんじゃないかな。あ、このメガネカーレンちゃんに似合わない?

 なんて言いながら噂のメガネくんを尋ねる。こんにちは。


 カーレンちゃんのお眼鏡に叶ったこの人物は、ユーバフさん。理知的な風貌で、美貌とはいえないまでも、だんだん思い出してきた、血祭りのときにも居た、メガネが似合う面長でさっぱりした顔立ちの人だ。髪は短く刈り詰めていて、体はゴツいけれど締まっている。


 さて、この男がわが年上の親友、カーレンちゃんに相応(ふさわ)しいか、見極めてあげないといけない。


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