189 戦勝パレード
「鉄王子! サディク殿下、バンザイ‼️」
「奇跡のサディク!ありがとう!ありがとう!」
「聖女さま!聖女さまカワイイ!こっち向いて!」
「天剣! われらの天剣!」
「あれが奇跡の娘シーリンだって!」
「勇士アーラーマン!すごいぞ!」
「無敵のナスリーン様! 智将・ナムヴァル将軍!」
解放された街の中央通りを、群衆の歓呼がこだまするなか進んでいきます。
つい数日前、オーク軍占領下の同じ道を歩いたけれど、同じ町とは思えない。なんというか、晴れ晴れとした空気感。異臭は残ってるけれど。
花吹雪に撒くべき花もない、疲れ果てた街。でも、きっとこれから良くなるはず。沿道の人々の目がそう言ってる。さぁ、それはどうだろう。
*
昨日の戦で敵が去っていって、残されたこの街にわたしたちは入ってきた。治安維持は必須だし、食料の援助も必要だろう。城壁などの再建はまだまだ先の話になるだろうが、政庁や宿舎がどれほど使える状態か、見てみないことには今後の予定も立たない。
それに加えて、こうやって姿を見せる儀式が何よりも必要だ。ってサッちゃんが言ってた。続けて、
「この街と、王都と故郷の広場にアイシャの銅像が建つんじゃないか。好きなポーズを考えておけばいい。」
「えぇっ、おヌード?」
「それが希望なら、それでも?いや、ダメだ。ダメダメ!」
すごいことを言うね、サッちゃん。でも、本当にそんなことあるの? 実感が全然ない。
行列は、美々しい女騎士団を先頭に、近衛兵団、そしてサッちゃんとわたし、例の磔刑台を掲げた十字軍の元気な人達、サッちゃん軍の元気な人達が続いていく。
わたしとサッちゃんは2人で昨日の戦車に乗っていて、御者は今日もヤクタ。
ドレスは昨日でビリビリのボロになっちゃったので、新しい、戦闘用じゃないドレスになった。デコルテも背中もガバッと出た青いワンピのドレス。オトナだ。
それにヴェールをかぶる感じだけれど、暑いので顔は出しておく。髪が斬られてバサバサになっちゃったので、頭巾でごまかす意味もある。これだけは時間が立つほど泣きそうになってくる。
戦犯と呼ばれたハイヒールはそのまま履く。ドレスと色が合わなくても戦車の外からは見えないし、7センチは重大だ。
みんな軍装なのでわたしだけ手ぶらもどうかと思って、まだ持ってた昨日の旗竿を装備していく。もし暗殺者や暴漢がいてもこれで安心だ。でも、ちょっとチグハグな見た目かもしれない。
隣の王子様は、自分だけ持参してきたいちばんの礼装を着て、キラキラ、シュッとしている。
なんていうか、歓呼の声を浴びる姿が映えてる。さすが、自称の姫じゃない本物の王子様。昨夜カーレンちゃんと話して「彼氏としては80点」って言ったけれど、これなら83点、いや、87点あげてもいい。
戦車もお馬さんも、昨日の飾りつけは汚れちゃったから取り払った。不満だけれど、新作のためにさらに一着のドレスを解体するのもイヤだ。サッちゃんもヤクタも胸をなでおろしている。昨日はナッちゃんもゲンコツちゃんも喜んでたのに。
いまだけで「お美しい聖女さま」「うるわしの歌姫さま(ここまで聞こえてたの⁉️)」「凛々しくもお可愛らしい我らが女神」みたいに呼び名が増えていく。わたしも、そういう声が聞こえると優先的にそちらに手を振ったりするので、観衆の皆さんもいろいろ考えて叫んでくれる。
サッちゃんはサービス悪いけれども、そちら側も“鉄のサディク”以外にもいろんな呼ばれ方をしているみたいだ。
そんな呼ばれ方も、いつしかひとつに収束していく。
「聖王、サディク万歳!」 「聖王妃アイシャ万歳!」
まぁっ!
*
「なァ、あれ言わせておいていいのか?」
特に名が呼ばれていない雷獣ヤクタは不機嫌だ。御者さんに徹してんだから仕方ないよ。決闘のひとつでもしていれば。「病み上がりなんだ、無茶を言うな」って、そうでした。じゃあ、本当に仕方ないじゃないの。
わたしはヤクタの良いところいっぱい知ってるから怒ることないよ。…そういう問題じゃない?
「ああ、確かに大問題だ。いつまでも呼ぶなら厳しく処罰せねばなるまい。……ただ、今…今日だけは言わせておけばよかろう。栄光の日、喜びに水を指すのも野暮だ。」
サッちゃんがクールにあしらう。でも、そのお顔は見たこともないくらい満足げ、誇らしげだ。王様って呼ばれて嬉しいんだね、かわいいところあるじゃん。
空いた手でそのほっぺたをひとなでして、わたしからも言ってあげよう!
「聖王サディク陛下万歳!」
喧騒にかき消されないようにちょっと大きめの声で言ってみたのが、妙に響いたみたい。一瞬だけ静まって、爆発的な歓声。
「聖王サディク陛下万歳!」 「聖王妃アイシャ陛下万歳!」
騎士団も、十字軍も、群衆も一緒に、熱狂して叫ぶ。みんな目に涙を浮かべて、ゲンコツちゃんさえ顔を真赤にして。
あ、これ、絶対ヤバいやつ。
そうか、王様も王太子さんも普通にいるんだから、サディク王国を作るのかよって話になっちゃう。
まぁ、いまだけ、ちょっと浮かれポンチたちの泡沫の夢だ。明日には忘れて、みんな真面目に働こうね。ちょっとビビって気で気持ちを送ったけれど、余計に油を注いだかもしれない。足を踏み鳴らす音、言葉をなさない大声が天に轟くよう。
もう、粛々と目的地への道を急ぎましょう。なんか、ごめんね。