188 顛末 2
それで、これからどうするんですかサディク殿下さま。やっぱり死ぬとか言わないよね。
「わかってる、余も、死にたいわけじゃない。ちょっと長い話になるが、聞いてくれるか。
……あぁ、疲れてるだろうから、なんとなくで聞いてくれていて構わない。アイシャにも頼みがあるが、いつでも説明するから。……で、だな。」
サッちゃんの話によると、敵さんが行儀よく逃げてくれたので助かった。
負けを認めず暴れられたら、正直負けていた。なにせ、オーク軍は数で3倍以上いたんだけれど、指揮系統の乱れで前3分の1しか戦えていなくて、後ろ3分の2は渋滞してのんびり遊んでいたそうなものなんだったんだって。
これは大将のイライーダがダメだったんじゃなくて、既存の軍に頭だけすげ替えるように赴任してきて3日じゃ、どの道ろくな指揮なんかとれやしない。
しかも、旧司令官のメレイとの不仲は有名で、昔から「腰抜け爺の下の弱卒」みたいな悪口を軍全体に言っていたのも知られた話だったから、自分が最前線で叱咤するしか戦争のやりようがなかったそうだ。
だから、イライーダの人望がなくてダメだったのは本当。
それでも普通ならじゅうぶん楽勝できる兵力差だったんだけれど、アイシャ(わたし⁉️)やハーフェイズみたいなイレギュラーがいたことが、その戦術との相性の悪さがヤツの敗因だったらしい。
まぁ、ここまでは済んだ話。
捕まえたイライーダは、マリアムちゃんと一緒に王都までご案内して、これからは残ったオーク軍の代表との外交で何らかの決着を付けなきゃいけない。
それも、サルーマン宰相はじめ王都の政治家さんたちのお仕事。
敵さんはとりあえず占領していた東フィロンタからも撤退していった。
どこまで逃げていってくれるのか。もと国境の防衛砦に籠もるか、そこじゃ兵隊さん全員を食べさせられないから、もっと前に占領した外国の街まで戻ってくれるのか。それで変わってくるけれども、まずは東フィロンタ領都を侵略者から解放したことをアピールする儀式が必要。
アイシャにも演説とか、奇跡とかお願いしたい。んだって。…わたし⁉️
とりあえず、王都ほか関係各所に戦勝の第一報を最速で届けるべく使者を走らせている。具体的な先々の話は、その返事待ちだ。
だいたい10日ほど待てば、何らかのリアクションが返ってくるはず。
けれどもひとつ。西北国境に動きがある、つまりこの国の反対側の、別の外国が悪い企みをしている情報が入った。
なんでも、ウチの国がオーク族に占領されたら次は西北の国の番だから用心していたのだけれども、ウチが勝っちゃったらその心配が当分なくなる。しかも、ウチの戦力がオーク族相手に消耗しちゃってたら、その西北の国にはボーナスタイムの始まり。
つまり、まだ向こうまで情報は届いてないし、戦力の消耗もそれほどじゃなかったけれど、ひょっとしたら。
反対側でまた侵略戦争が始まる!
ウソ。ホント? 目の前が真っ暗になる。がんばったのに、平和にならないの?
「すまん、今する話じゃなかった。が、心配ない。ファルナーズ大将軍…あっち方面の専門家が今ごろ喜び勇んで出向いているはずだ。
あっち側はあれが日常みたいなものだから、本当にアイシャは心配しなくていい。」
はぁ。そうなんだ。毎度のことだけれど、わたしにはわからないノリだね。
要するに、今日はこれから陣地に戻って、明日から東フィロンタの復興や治安維持を10日ほどやる。とりあえずはこれだけ覚えておけばいいのね。
あ、そういえば十字架、光らなくなっちゃったんだ。奇跡の祝福は品切れだ。どうしよう。
っていうか、あれ、どこに置いたっけ、ヤクタ。…舞台の上に置きっぱなし? 大丈夫?盗まれない? 飾りの細工物剥がされたりとか。
不安になってきた。ヤクタ、急いで帰ろう!
「アイシャ、今日の夕食ぐらいは一緒にゆっくりできるか……おい、どこに行く! ちょっと待ってくれ!」
「スマンなサディクっち! アイシャは十字軍の祝勝会に貰ってくぜ!禁欲延長でヨロシク!」
「もぅ、ナニ言ってんのヤクタ! サッちゃん、また後で!」
*
十字軍も、4割が戦場に倒れたといったら壊滅的と言ってもいいんじゃないか。ハーさんが無茶な突撃するから。
消息不明人の40人の中には途中で逃げ出して帰ってきてない人もいるだろう。いてほしい。[怒らないからみんなで晩ごはんを食べましょう]って“気”を送っておいた。
無傷なのは、決戦に不参加のカーレンちゃんくらいで、ヤクタは火薬の爆発からわたしを守ってケガしたし、わたしだって足をくじいたり髪を切られたりした。ゲンコツちゃんだって最期には血まみれになってた。
捨てゴマ部隊と呼ばれた憂国隊なんか、途中参加のアーラマンちゃん以外、マジで全員散り散り、消息不明。その一応の責任者・ジュニアはマリアムちゃん係なので、カーレンちゃんと、最初にいた執事さんと一緒に後方に下がっていたから、彼は無事。
サッちゃん軍も聞けばめまいがするくらいの被害を受けたらしい。具体的には教えてもらえなかった。あとで軍医の小生先生に教えてもらおう。そうだ、一休みしたら治療を手伝おう。
ともあれ、長い間煩わされてきたオーク族関連の問題は、わたしにできることはやりきった。
ひょっとして、わたし、すごく偉いんじゃないか。
チカラは神様に押し付けられたものだとしても、チカラがあれば誰にでもできるってことでもないんじゃないかな、って自画自賛できそうなくらいにはがんばりました。
明日からは、どうしよう。
【第十二話・ドキドキ!恋バトル】でした。
戦いの前には少々色ボケもしましたので、まあ、その後はなるようにこうなった、って感じです。
プロットでは普通にマフディくんは降参する予定でしたが、書いてみたらどうにもなりませんでした。安らかに。
あるよね、こういうこと。
【第十三話・革命の灯火】は、置き去りにしてきた諸問題が吹き出すターンです。
次回の挿話を挟んでから。