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187 顛末


 闇のなか。でも、なぜか見覚えがある闇だ。

 これは、あそこだ。塔の地下。あの階段の闇だ。


 と、いうことは武神さまがいるのかな。怒ってたけれど、許してくれたのかな。おーい。


[相変わらず、お前の“さま”付けは敬意がないな。“武神さま”までで俺のあだ名だと思ってるだろう。]


 相変わらずと言うならそっちこそ、軽いノリのご登場で。

 いまは怒ってないみたいで一安心。それに、元気そう。良かった。



「そんなことないですよ。です・ますで喋ってるじゃないですか。あ、祭壇つくってお祈りするのができてないのは、お家に居つけないからですよ、忙しくて。」


[祭壇?…あぁ、初めて会った時のアレか。古いことを覚えておるな。それよりお前、と、もう一人で使徒の神気を奪っただろう。マフディか、悪くはなかったが結果はイマイチだったな。アイシャは、ヤツの何がダメだったと思う?]


 ノリが軽いのはイヤじゃないけれど、人が死んだ話なんだからちょっとはかしこまるべきだと思います。神様連中のこういうところ、わからない。



「知りませんよそんなこと。神気を?奪う?って、なんですか。あ、腕のところがパーンって弾けたの、大丈夫ですか、ケガになってませんか?」


[ケガというようなものではない。俺のなけなしの神力は減ったが、それは俺の判断だ。サウレの方こそ、死んではおらんが、この先何十年か、この世に出てこれん痛手にはなったろう。モルヴァーリドの残滓もあれで完全に消え失せたわ。


 それで漏れた神気を、お前とゲンコツ娘とで吸い込んだ。結果、お前とゲンコツ娘は半神、いや、サウレの半分と半神のモルヴァーリドの半分と、俺の力の少しを2人で分け合ったから8分の1神といったところか、そういうものになったわけだ。

 だからこうやって夢の回廊でも会話できる。お前自身の変化に自覚はあるか?]



 え、わたしが、何か、変わったの? あのカムラーン流の技を使ったから?「アホに乗せられて正体のわからん技を使いおって」って、そりゃ申し訳なかったですけれど、武神さまの要求が毎度高いのもどうかと思います。


「オィ、そろそろ起きてくれ!」


 今度はなんですか。え、こっちじゃない。あれ、あ、そうだった。



「にゃむー。」

「起きたか。死にそうな怪我人を集めたぞ。オヤジどもは無事だ。オミードは首筋を違えただけ、ア―ラーマンは「散弾ではなァ」とか言ってるし、ハーフェイズも肘の腱は無傷だ。

 で、まだ(・・)死んでないけど時間の問題なのが6人。どうだ、なんとかなるのか?」


 寝ぼけ眼が急に冴える。…特に親しい人はなんとか命に別状なく生き延びてくれたようだ。100人だった十字軍は、確認できる範囲で今は60人。


 なんとか、最初にハーさんが言った「上出来でも生き残るのは半分」より少し良い結果にできただろうか。で、そのうちの6人が危ないらしい。8分の1神にパワーアップした聖アイシャの回復術で助けられるものなら、是非にでも救いたい。



 バチッ、バチバチッと、乾いた音を立てて火花が散る。これは、命の火花だ。生きたい気持ちが燃えているんだ。わからない? わたしも、わからない。

 今までの回復術に、神力も込めたナデナデ術。

 たしかに、寝る前になんとなく「重傷の人を集めて」って言ってしまったけれど、実際に目の前にしたら、普通に、これ無理だよと思わざるを得なかった。でも、やってみたらなんとかなった。


 血が止まらなかった人、呼吸が浅くかすかになっていた人も、施術後は穏やかで安定した呼吸をできてる。わたしも、特に疲れない。8分の1神、すごい。

 ゲンコツちゃんにも見学してもらって、同じ8分の1神なのでできるんじゃないかとハーさんの肘の傷を治すのに挑戦してもらう。難しいみたいだけれど。


 気づけば、視界の隅でナスリーンちゃんが居心地悪そうにしてる。

 破城槌を放ったあと、周辺の戦車部隊ほか残敵を追い払って、わたしが寝ている間に捕らえたイライーダをサッちゃんのところまで連れて行ってもらっていて、それで帰ってきたのだとか。


 で、この治療風景を見て、部下の騎士さんたちがひざまずいて祈りを捧げているので、わたしがしょうもない小娘だと知っているナッちゃんは周りに同調すべきか、今まで通りに振る舞うか、リアクションに困っているみたい。

 今まで通りにしてほしい。



 で、そのナッちゃんはなぜ帰ってきたかというと、サッちゃんが今どうしても会いたいと言うので案内してきた、らしい。じゃあ、その彼はどこ?

 あ、後ろにいた。律儀に順番を待っててくれたんだ。


 目が合うと、笑みをひらめかせて近づいてくる。もし彼がワンちゃんならちぎれるほど尻尾を振って、ニャンコなら尻尾を高く立てていそうな雰囲気だけれど、王子様なので格調高く、決して走らず歩いて、でもちょっと早足で。

 そして、ギュッと。


 ギュッと、かと思いきや、脇の下から抱き上げられて、高いたかーい、ぐるぐるー、キャッハー☆

 じゃ、ないよ。これじゃないの。すっかり忘れていたけれど、わたしはオトナの女なんだ。


「コホン、降ろしてくださいませんこと? わたし、子供じゃなくってよ?」


「あぁ、すまないな。これは子供扱いじゃなくって、余の喜びを爆発させているだけなんだ。あと3周だけ、回らせてくれないか?」

「手短にお願いしますワ? ……ぐるぐるー、キャーハハハ☆」


「安い女だよな」とかヤクタがゲンコツちゃんにつぶやいているのをわたしの地獄耳は聞き逃さない。でも、いいものだよ、コレ。10年ぶり以上だけれど楽しかった。ヤクタもでっかい男を見つけてやってもらったらいい。ゲンコツちゃんは言うに及ばず。



まぁ、ぐるぐるはもういいんですよ、結構なお手前でした。

それで、死んじゃう予定が飛んじゃったサディク殿下さん。この先どうするんですか。




以上、バトル展開でした。次回 ”188 顛末 2” からはまた隔日更新でふらふらし始めます。

短期目標はバトルになりがちですが、長期目標は主人公ちゃんの生活の安定。ここまで来たら、わりとラストスパート準備の展開になっていきます。

よろしくお付き合いください。


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