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184 キューカンバー味野郎


 戦場を逆走する一団。

 我らが十字軍は団子になって戦っている戦場の、敵側の横腹から侵入して、ちょうど真ん中あたりまで攻め上り、そこから進路を変えて、味方と敵がいちばんバチバチ戦っている最前線に、敵の後ろから駆けつけようとしている。



 その他の戦況は、いまだ何の芸もない正面からのぶつかり合いが続いている。


 オーク軍は、数がじゅうぶんに多くて小細工はいらないということに加えて、サウレ神のちょっかいにより現場指揮官が多数倒れ、その後アイシャのちょっかいで後方参謀も多数倒れてしまっていた。

 これでは複雑な作戦を立てたとしても現場がついていけないから、命令の必要もない力押ししか、表立った選択肢がないのだ。

 とはいえ、なにか隠し玉はあるかもしれない。油断などそもそもできないが、その上にも油断は禁物だ。


 サディク軍は、数で大幅に負けているので必死だ。身を隠すところもないだだっ広い平野を戦場とせざるを得ないのは、この国の重要な拠点はどこも大概そんな感じなので、戦場を選びようもないという事情にもよる。

 この戦いの第一義は、敵の継戦能力に打撃を与えることだ。我々はここで力及ばずとも、後方にはまだいくばくかの余裕がある。補給線が長いオーク軍は、このままで王都へ迫る力を削がれれば、ひとまずサディク軍の大目的は達成できるといえた。


 だから、予備戦力などはない、総力で攻めたてる。輜重兵すら荷車を押し出して、戦場のバリケードを作る戦力だ。

 サディク本人さえ、最前線に顔を出して戦う。自ら囮となってあわよくば敵陣に乱れを誘い、騎兵隊にその隙をつかせる策が、作戦らしい数少ない工夫だといえた。

 かつては普通に戦って普通に囚われの身となった苦い記憶があるが、大丈夫だ、成長した。と、思いたい本人である。



 この決戦自体、計算外の積み重ねの賜物(タマモノ)であり、双方とも急ぎで立てたとりあえずの計画の上での戦いだ。そして、そのなかで現存する唯一にして最大のイレギュラー、超☆聖女の果たす役割や、いかに。


――――――――――――――――――――――


「ほらほら、アレだよ! オークの大将、イライーダ! あんなところにお手柄が突っ立ってる。」


 わたしが1人で手柄を立てすぎると将来の政治的によくないらしい、ということもあるし、そもそも天剣ハーフェイズに大手柄を立ててもらうことも目的だったから、ここは彼にお願いしたい。

 の、だったが。


「そうか、それきりで終わってしまうのか、戦いが。…嫌だな。」


 喧騒のなか、低い独白が不思議に耳に届いた。

 この武骨者も“気”を使っての対話ができるようになったのかもしれない。けれど、言った内容は聞き捨てならない。とても承服できない。


「ハーーさん。それは、さすがのわたしでも、怒るよ。」


「うぐ。口に出ておりましたか。いやいや、私心で手心を加えるなど、武を(けが)す真似は決していたしませぬ。わが本気、お見せいたしましょうぞ!」



 オーク大将軍の指揮する本隊が目の前にそそり立ってる。妙な表現だけれど、遠くから見下ろすのと、足元から見上げるのではまるで印象が違う。

 これは、32頭立ての戦車(チャリオット)だ。塔、とか移動要塞、とかかもしれない鉄塊。その周囲を固める戦車軍団、騎兵、歩兵。この一隊だけでも軍勢と呼んでもいいほどの威容がある。


 でも、我々は後ろから迫っているので直ぐ目の前がデカブツだ。もし正面から当たろうとしたらとんでもなく大変だろう。人が何人死ぬか、漠然と思うだけでもめまいがする。

 さて、どうしようか。もとい、この天剣男はどうやって攻めるのか。

 4割の不安、残りの期待感を乗せてハーさんに目配せ。彼の方も、大ごちそうを目の前にした少年のようなキラキラの目を返してくる。もう、お好きになさって。


 なんて、やっていると上の方から声がかけられた。さすがに気づかれたか、イライーダ大将軍。

「さても、どこへ逃げ失せたかと思えば珍しいところから来おったな、聖女よ!

 この国で我が超級戦車・“ドレッドノート”に挑むは、貴様か。来るがいい、つまらぬ幕引きは許さんぞ!」



 なにを、偉そうに。この人のこと、わたし全然わからないわ。今だって激しく偉そうなわりにふんぞり返ってるだけだし。この瞬間にもたくさん人が苦しんで死んでるのに、遊びのつもりかしら。

 いいや、もういい。この人と話し合いで解決なんて出来っこない。もうそれこそ茶番になっちゃうけれど、「ハーさん、やっちゃいな!」


 号令一下、「愛馬をお頼み申す」とひとこと言い残し、飛ぶように駆け出す天剣さん。

 え、馬をどうしろって?わたしに?えぇ?ちょっと、そうだ、オミード氏!

 頼れそうな人を求めて目線をさまよわせると、ちょうどその彼と、武神流6人衆たち腕に覚え組、ゲンコツちゃんまでもが雄叫びを上げながらそのド級戦車に飛びついていくところだった。



 結局、ヤクタが車を停めて、草ちゃんとハーさんの愛馬の二頭体制に繋ぎ変えてくれた。草ちゃんもお疲れだったから、車も2頭立てになってちょうどいいや、ありがとう。

 ヤクタは、ド級攻めに入らなくていいの?


「アタシは、あのオヤジ共よりか弱いんだ。一緒にしてくれるな。まァ、下から銃で狙えるときに狙うさ。」


 なんですって。ヤクタが、か弱い? ププーって、一緒に笑ってくれる人を探したけれど、いない。

 っていうか、わたしが、敵さんに襲われている。オーク側の戦車隊は小回りがきかないからそのまま前を向いて、こちらに背中を向けているけれど、オーク歩兵が振り向いて剣を構えてやってくる。その数…およそ300人。


 こちら側には、ケガや実力不足で先頭集団についていけなかった数十人がわたしを守ろうと決死の覚悟。

 いや、そういうのはいいから、あなた達は、あなた達は……

 退却してもらおうと思っていた味方の陣地はなおも遠く、四方はいずれも敵ばかり。


 どうしよう。「戦いに来たのだから、もちろん死ぬでしょう。」ハーさんのキョトンとした顔が脳裏に浮かぶ。

 そうじゃない。そんなワケにはいかせない。やっぱり、わたしが戦うしかないじゃないか。


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