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183 救国の義勇軍


 ヤクタが近くにいた憂国隊の兵士さんから聞いた話によると、今回の決戦では特に強い勇士が2人出くわしたら、目ヂカラで会話して、人で円陣(リング)をつくって一騎打ちをするのが流行っているらしい。

 流行る、って不謹慎じゃないか。不愉快だ。とは思いつつも、この状況で止めに入るのは気が引ける。元来、戦争も楽しんでいる人だけでやるなら何も問題ないんだ。


「アーラマンちゃん、がんばえー」


 精一杯の大声で呼びかけてみる。ちょっとろれつが怪しかったけれど、なんとか届いたようだ。

 男同士しか目に入ってなかった連中にも動揺が走る。うふふ、わたしは戦場に咲いた一輪の花。応援を光栄に思いなさい。って思ったのに、肝心のアーラマンは無反応で敵に向き合う。むむむ。


――――――――――――――――――――――


 男たちの輪のなかで、2人の勇士が向かい合い、それぞれの言葉で名乗りを上げる。お互い、どれくらい通じているのかわからない。でもこれは半分以上、味方に対しての自己紹介で、相手に対しては儀礼的なものだから構わないそうだ。

 やがて、巨漢と巨人が剣を抜きあわせて、一触即発の空気が流れる。口惜しいけれど、わたしの決闘よりもサマになってる。

 ちらっと、オークの勇士と目線がすれ違った。牡牛のような優しい目が何かを言いたそうに光って、すぐにそれていって再び交わることがない。


 一騎打ちは合図もなく始まった。男同士、巨漢同士、言葉でなくても通じるものがあるのだろうか。とにかく、いま、戦っている。

 アーラマンちゃんの剣は、巨大なナタ。刃の長さ1メートル、厚み5センチほどもある金棒と言っていい代物で、突く方向の刃はないけれどあんなもので突かれたら誰でも死ぬだろう。

 対するオークの勇士の剣は、鎌のように曲がった異国風のこれまた不思議なもの。その長剣を二刀流で軽々ブン回している。


 

 勇士2人が地を轟かせ、大気を軋ませる。はじめ、それほど気乗りしていなかったアイシャも両手を握りしめ、もみ絞り、夢中で声援を飛ばす。

 戦いはいつ終わるとも知れぬかと思われたが、一方の剣が打ち砕かれた次の瞬間、返す刀で巨人の首元深くナタが打ち込まれ、致命傷を受けたオーク族の勇士が膝をついた。

 アーラーマンの勝利だ。


 闘った男たちの心が通じたのか、不思議な静寂があった後。とどめの一撃を放つ巨漢の咆哮が響いた。

「姫様! やりましてございます!!!」


 アイシャも、手をたたきながら“気”を送る。

[許します、アーラマン。(いさおし)高き武神流の勇者!]


 続いて、観衆の言葉にならぬ叫び。熱狂。

 オーク族の、勇士の遺体を辱められまい、取り返そうとする兵士たちとの乱戦が始まり、さらにハッスルする武神流の巨漢。



 この乱戦を制したのは、横合いから現れたハーフェイズと十字軍団。走ってやって来て、瞬く間にオーク兵を追い散らしてしまった。そして。


「姫様、何故こんなところまで。アーラーマン、憂国隊はどうした。」


 どうやら、アイシャは調子に乗ってほとんど味方がいないエリアまで突出してしまっているらしい。もし指揮官がいれば「自重せよ!」と叱られかねない状況だ。


 アーラーマン部隊は戦端が開いたとほぼ同時に突撃して、無我夢中で突撃し続け、気がつけば今に至る、らしい。

 率いていた捨てゴマ部隊約100人は、今や20人、いずれも満身創痍。円陣をつくっていたときはもっといたはずだが、その後の乱戦でさらに減ったらしい。

 その隊長本人も見るだに痛々しい傷だらけだが、元気いっぱいにムキムキしている。


 突撃してきた十字軍の面々も、お馴染みのオミード氏や武神流六人衆の残り5人、通訳のキルスやカーレンちゃん組のメガネくんたちもかなりの傷だらけ、ちょっと冗談ですまないくらいのケガの人もいる。

 キルスくん、ただの通訳なのに(違う)無理しちゃって。アイシャは頭を抱える。だからといってここから帰れとも言えない、戦場の真っ只中だ。


 ただ、ひとつ救いがある。オークの大将、イライーダは戦場を前進して、もうすでに十字軍が目指していた地点よりも味方側に移動している。


 すなわち、追っていけば、味方と我々で前後から敵の本陣を挟み打ちにできる。

 ケガ人は、そのまま走り抜けていけば自陣に退却できる。よし、これだ。慈悲深い聖女は手を打ち合わせ、いそいそとハーフェイズに相談しに向かう。



 常に先頭に立ち、誰よりも戦いながら傷ひとつ負わず、息を乱してすらいない男、ハーフェイズ。アイシャの提案を聞いて「死んだら何がいけないのか?」とでも言いたげな顔をしてお気楽娘の心胆を寒からしめたが、乱戦に突撃して自ら戦いながら前進するなかで、目標の位置が変わっていたことには気付けなかったらしい。

 即座に同意して、聖女の戦車を隊列の中央に据え、その棒が示す先へ、生き残りの憂国隊も合流して進む。


 その戦いは、まさしくハーフェイズ無双。

 そう呼ぶに相応しい、愛馬を駆り、愛剣を振るえば、オーク軍でなかなかの気を放つ勇士もたちまちに倒れ伏す。

 実力が噛み合う相手がいなかったため一騎打ちもしていないらしい。


 付き従うゲンコツちゃんも、矢が袖をかすめたり、兜にいい一撃をもらってへっこんでいたり、無事と言えるかはわからないがハツラツとして戦場を楽しめているようだ。元気いっぱいのその姿は、他の男達の勇気も奮い起こさせる。



 突撃軍団長みずからが敵陣に打ち込む(クサビ)となり、できたヒビを後続の戦士たちが広げ、聖女の戦車が花飾りもいまだ鮮やかに乗り込んでいく。


 アイシャは「活躍しすぎてはいけない」と理解したベフランの言ったことを律儀に守って、応援しながら自衛的に、突出してきた敵兵を棒で突き倒す程度にとどめている。

 しかし、いかんせん、はげしく目立つ。髪は切られて不揃いに広がり、ドレスは汚れて裂けて散々な有り様だが、戦塵が吹きすさぶなかでは鮮烈に白く映えるその姿が、雲上の戦乙女に見紛(みまご)う非現実感をもたらす。


「道を開けてよね! 開けなさいな!」


 聖女が放つ気を受けて、思わず、オーク兵は二の足を踏んで走り去る一団を眺めやるのだった。


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