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181 キューティー・リングサイドエンジェル


 戦車に据えられた十字架に触ってみても、もう光らない。不甲斐ない戦いで武神さまを怒らせちゃったもんね。でも、武神流の技や気の使い方はまだ覚えてる。ちょっと体が重い気もするけれど、疲れているからだろう。


 決闘の最後で、武神さまにもケガをさせてしまった。肩入れが半端だったから負傷も半端で済んだみたい。本格的に肩入れしていたサウレさんのアレは、結局どうなったんだろうか。まさか、あれで殺しちゃったんだろうか。

 心配だ。でも、いつだって自分は高みの見物でいられるなんて思ってたら大間違いだ。反省してほしい。


 カムランさんは本格的な高みの見物で見ていただろうか。技がウチの武神さまにも通用したわけで、喜んでもらえていたら、少々複雑だけどわたしも嬉しい。コトと次第によればカムラン派に寝返りも考えなくちゃいけないかもしれない。



「おい、話を聞いてたのか聖女。だから、下がるぞ、って言ってるんだ。」


 べ太郎が相変わらずの感じで突っかかってきて、物思いを中座する。

 サッちゃんは死にたいらしい。が、そんなことは許せない。絶対にだ。


 マフディくんも、なんだかんだで結局は仲間になるんじゃないかと思ってた。仲間にはなれなくても、なにかしら心が通う会話をする時間もあって、思わぬところから勝負がウヤムヤになるんじゃないかと期待していた。

 結局、あっという間に全部終わって、安らかなお顔で倒れている。あんなのって、なんだかズルい。

 それに、サッちゃんにあんな顔をさせるわけにはいかない。頑張ったわたしに何のご褒美もないじゃないか。



「べ太郎。イライーダさんを殺したらダメだっていうけれど、捕虜にするのは構わないよね!」

「ダメだ!ダメだ!ふざけるなダメだ!」 


 何を、そんな必死に。ワケわかんない。


「この国難を神がかりの奇跡で解決してみろ、50年、100年後のこの国は政策も裁判も占いで解決していた古代の宗教国家に逆戻りだ! そこから脱するために我々がどれだけの犠牲を払ったと思ってる。それこそ滅びたほうがマシだ!」


 知らないよそんなこと。と、言いたいけれども、聞いてみればまるきりわからないわけでもない。加えて、ずっと自分の判断でやってきたことがちっともうまい方向に進まないので、さすがに自信がなくなってきた。

 べ太郎とはいえ、あれほど言うのならひょっとして本当にそうなのかもしれない。


 それでもとにかくわたしは、サッちゃんを死なせたくない。彼以外に、都合よくわたしを好きになってくれる男の子、それも王子様ががいるもんか。絶対、失えない。

 そんなことを言ってる間にも、発奮した我が軍がひと足お先に舞台を通り過ぎて、同じく迫ってくる敵軍とまさに戦端を開こうとしている。



「べ太郎。それじゃ、イライーダさんを捕まえるのがハーフェイズなら、問題ないのね?」

「まあ、それはそうだが……」


 しぶる男を捨て置いて、ゲンコツちゃんにミッションを言い渡す。

「この、マフディくんが持ってた天剣。……重い、わたし持てない。…」


 ハーさんは、この剣を盗られてもなんてことない顔をしていたけれど、こっそり落ち込んだ顔をしていたことは確かだ。せっかく取り戻したので、急ぎ、返してあげよう。

 ついでに、ゲンコツちゃんも派遣して、一緒に行動させる。わたしのハイヒールや狂戦士の大剣みたいな、ロマンのデバフ装備がある方が、彼もきっと盛り上がる。ハーさんのロマンは、きっとゲンコツちゃんだ。頼んだよ。



 軍隊の先頭で戦いが始まる。

 陣形の横幅はだいたい同じだけれど、奥行きがあまりにも違って勝負になる気がしない。

 でも、「父ちゃんに任せろ!」を合言葉に命がけの軍勢と、数が多くてもなんとなく負けムードの軍勢で、いまはこちらが押し気味に進んでいる。


 そこに、横合いからアーラマンちゃんを先頭に、王都の愚連隊軍団・憂国隊が雄叫びを上げながら突っ込んでいく。「死ね!死ね!殺せ!殺して死ね!」って、野蛮極まりない。

 そんな、死んでほしくはないなぁと思いながらも、あっというまに戦場の混乱のなかに埋もれていって、どこで、どうなったやらもうわからない。


 とりあえず、ここから彼らの援護をするだけなら問題ないでしょ?って、いちおう許可を取ってから、ヤクタに肩車してもらって高いところから、イライーダさんに気を送って注意を引いて、“将軍丸”、彼女の髪の毛の笞を振って合図を送る。つまり挑発。

 ヤツに、余裕ぶって去られたり、危機感を感じさせて逃げられたりしてはいけない。


 あ、気づいた。ほらほら、めっちゃ怒ってる。ガチギレだ。もう、この髪束 “将軍丸”も結わえたのがだいぶんほどけて、バサバサになっちゃってるし、このまま風に散っていきそうだ。

 もう、こんな物持っていても仕方ないので両手でワサっと、高く放り上げて青空へ舞い散らす。

 どうにも、マリアムちゃんとか、あのイライーダさんに意地悪をすると気持ちがスッとして、これは聖女云々以前に人として問題があるな。ヤクタも「オマエ性格悪くなった?」なんて。彼女に言われるとなかなかツラい。


 なのに、ワアっと、歓声が沸き起こる。

 兵士さんから見れば、わたしが後方へ退避することを良しとせず、不退転の意志でこの場に踏みとどまって皆さんに手を振り、バンザイして皆さんを祝福したように見えたらしい。べ太郎がそう言っている。

 なるほど、じゃあ、そういうことで。



 おや、いったん下がっていたサッちゃんも、近衛兵団を率いて上がってきた。

 頑張れ!ご無事で! 夢中でそちらにも手を振って、応援の黄色い気を飛ばす。「しょうがないヤツだ」みたいな顔をしているサッちゃんのオジサン臭さこそ困ったヤツだ。


 応援するのはいいけれど。みんな喜び勇んでくれるのも頼もしいけれども、兵士さんたちがやりに行くのは殺し合いで、街の男の子たちの棒きれ遊びや駆け競べとはいろいろ違う。

 正直、背中をただ見送るのにも罪悪感が強い。


 心が千々に乱れて、肩車の上でなんともいえない状態になっている間も、戦況は動く。


 怒りのイライーダさんと、その近衛が前進を始める。サッちゃんが前線に追いついて、先端を開く。オォッと、戦場の目がそちらに集まる。


 その隙をついたか、ハーフェイズ率いる十字軍が突撃を開始した。遠目にもきらびやかな剣を振りかざし、その傍らには凛々しい少女。

 かつての狂戦士の突撃にも似て、オーク兵が冗談のように宙に舞うなか、人波を割って矢のように突き進む。



 やっぱり、止められたってわたしも行くよ! アシストに徹すれば、別に構わないでしょ!


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