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177 口上


 ザ・敵。マフディくんが舞台の正面でわたしを見据えている。

 そういえば、あまりじっくりとは彼の顔を見たことがなかった。初対面のときにはお菓子とお茶に気を取られていて、いうほど観察できていなかったんだ。


 お顔は相変わらず整っているけれど、以前よりも凶相というのか、痩せて鋭く尖った感じがする。肌は日焼けしていながらも、恋愛神に手入れされたのか、内側から光るような色艶がある。

 砂色の髪は短く刈り込まれ、(すみれ)色の目は切れ長でギラギラした生気を放っているようだ。

 くちびるは薄く、ニヤリ笑いを浮かべた姿は酷薄さを感じさせるが、紅をさしていて一見では(あで)やか。


 身長は高くない。ゲンコツちゃんと同じくらいだ。とは言っても私よりは15センチくらい高い。いや、わたしも7センチ伸びているから、差は8センチくらいだ。今までの敵では一番近い数字!

 背の翼は、もう消えている。やっぱり魔法の幻か何かだったのだろう。よく見ていかなきゃあいけない。



「なんか、ちょっと背が伸びてねぇ?」

「ふ、ふ、ふ。ハイヒール履いてんの、ほら。オトナ可愛いでしょ。」


 タイトめなスカートの裾をピラリと上げて、ヒザ下から足元を誇示してみる。

「ふーん、いいんじゃねぇの?」


 つれない無関心を装う少年だけど、彼の中の気が大喜びしてる。ふひひ、まずひとつ勝った気分。どういう戦いなのかは説明できない。



[この決闘の立会は、(わらわ)、恋愛神サウレと、そちら側の武神エルヤが務めるワ!]


 向かい、マフディくんの背後に豪華な美人の姿が映る。濃い顔に緑のリップ、濡羽烏(ぬればからす)色の髪は長く波打って広がり、体はキラキラした黄金色の複雑な模様のヒラヒラドレスと豊かな肉体が境目もあやふやに輝いている。


 ふっと気配を感じて振り向くと、こちらの背後にはすごい筋肉のお爺さん。

 身の丈は3メートルにも及ぼうかという肉体を真っ白で無地の古風なトーガで適当に覆った、長い真っ直ぐの白髪を背に垂らし、ヒゲはきれいに剃っている偉丈夫。額には大きな目玉模様。こちらが、武神さま? はじめまして。



[俺が姿を結んだのは神になって以来だな。出てきてやったゆえ、アイシャ、そちらのシーリン。マフディも、存分に働け。]


 始めて見た人間の姿の武神さまは、わりと想像通りというか、思ったより派手というか、微妙なライン。

 でも、イケてると思います。重々しい声色のわりに軽い口調の声だけよりも、姿があるほうが横柄さに説得力が出てる。

 マフディくんも思わず気をつけの姿勢だし、大きいもの好きのゲンコツちゃんも目にハートマークが浮かんでいそうな勢いで赤面している。トーガの隙間から見える脚の付け根のほうがきわどい。どこまでもすごい筋肉で、えっちだ。


 サウレさんがちょっと面白くなさそうな顔で続ける。



[この決闘には、立会人が認めたもののみが参加する。禁じ手は無し。決着は命が果てるまでだが、例外的に降参も認める。この条件でいいかしら?]


 みんな、真面目な顔でうなずく。 

 わたしも、作戦で決めていたことをあちらに伝えなきゃいけない。


「こちらは、わたしとカムラーン流代表のゲ…シーリンちゃんの2人で戦いますけれど、2人がかりじゃなくて、タッチして交代制でやりますんで、最初、シーリンちゃんは見学させてもらいますよ。」



[妾に許しを乞うのではなく、己の決定を伝えてくるなんて、生意気ね。…マフディ、どうしたい?]


「俺は何だって構わないぜ。

 アイシャ、好きにすればいい。けど、巻き込んで怪我させない保証はできない。その小僧が誰か知らないが、死ぬのが嫌なら帰ってもらえ。」


 あっち側は相変わらず剣呑(ケンノン)だ。ゲンコツちゃん、男扱いされちゃったけれど、昨夜の相談通り、これでいいよね。「お前、女だったのか!」ができそうだよ、やったねゲンコツちゃん!



 相談した作戦では、まずわたしがマフディくんを手足も動かないほどボコボコに殴って、しかる後、交代してゲンコツちゃんのカムラーン流秘剣でとどめを刺す。ということにしている。


 彼女もハーさんと狂戦士の戦いをしっかり見てはいなかったので、わたしが無責任に「あぁ、だいじょうぶだいじょうぶ。」って提案したから、まぁ、それなら。くらいのノリで参加してくれている。

 騙したわけじゃない。ちゃんとわたしが守りきれれば、ゲンコツちゃんは楽にこの場をしのいで、ハーさんの伴侶にふさわしい名声も得られるだろう。失敗したら? まあ、申し訳ないけれど武神様とカムラン神のせいだ、許してもらおう。



 舞台は、直径20メートル、少し高くなっている薄黒い円形。その上にはわたしたち3人と、神様が2人。舞台の下にはヤクタの戦車と、女官たち。周囲はぐるりと開けていて、遠くに両方の軍隊が控えている。

 両軍の代表がある程度見えやすくて安全な距離まで出てきている。

 こちら側はサッちゃん、あちらにはイライーダさん。彼女は頭巾を被っている。髪を切られちゃったのを隠しているのかもしれない。

 ちょっと申し訳ないなぁという思いもあるけれど、意地悪なイタズラに成功したような(くら)い喜びも感じて、気持ちが粟立つ。集中、集中。



[両者、これよりモンホルース大帝国・ファールサ王国の決戦に先立ち、上天の戦神に捧げ奉る名誉ある決闘を行います! さぁ、名乗りませい!]



 まず、マフディくんが剣を掲げて宣誓する。

「我はサウレ神の使徒、マフディ・ゴール・シャンサーバン! 神の恩寵の宜しきを得て魔人モルヴァーリドを下し、得た力を以て邪佞の蒙昧を晴らす!」


 ガラにもない、難しい言葉ばっかり言っちゃって。名前もちょっと変わってる気がするし。浅薄(アサハカ)にカッコつけても、知れてるよ。


 仕方ないので、わたしたちも見様見真似で武器を掲げて、宣誓。

「わたしは、武神さまの加護をもらって牛神様の聖女になった、アイシャ・ユースフ・ヤーンスです。こちらは、カムラン武神の宣託を得た奇跡の子、ゲーリン、ぐぇっ」「シーリン・ザカリア!(何やってんスか、こんなところで!)わが剣は、無道に怒る神の与うる罰と知れ!」


「(悪かったよ、でも叩かないで!あと、ナニそのカッコイイの。)…わたしからあなた達オーク軍に言いたいことは先も今もたったひとつ、“帰れ!”」


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