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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第十二話 ドキドキ!恋バトル

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173 ドキドキの夜明け


 まだ、たいして時間は経っておらず夜明けはまだ遠い。が、不思議に、夜明けを間近に待つとき独特のそわそわした空気があたりに満ちている。


 見れば、これから戦場となる両陣の真ん中に忽然と現れた涙滴型の物体、今はタマネギ型に膨らんで、さらに真ん丸になりつつあるそれ(・・)が、ふるふると震えている。

 アイシャが花の蕾だと予想している、その巨大なものが、まるでほころんでいく予感に身を焦がしているようだ。


 聖女と王子が仲良く身を乗り出してそれを指さしているところに、予想に違わぬ声が響いた。



[アイシャ。アイシャ、アナタ、何ということをしてくれるのよ。あのように心ときめくものを聞かせられては、力が入ってタイミングが狂うてしもうたじゃないの。

 あの花は夜明けとともに咲くはずであったに、もう咲いてしまう……]


 前触れもなく天から響いてくる声に驚いた顔のサディク。を見て、アイシャが反論する。


「先に、盗み聞きを謝りなさい。あと、名乗りなさい。多分アレだと思うけれども、間違ってるかもしれないから。……サッちゃん、あれが例のサウレ神ですよ。」

「知っている。あの騒ぎには居合わせたからな。」


[キィッ、妾のマフディくんを差し置いて、別なる男といちゃいちゃいちゃいちゃ……日が昇ったら目にもの見せてくれよう…]


「(本当にキーって怒る人、初めて見た…見た? 聞いた。)それで、何のご用かしら? どうせ、あの花が咲いて、それがステージになるのと、中からマフディくんが出てくる予定だったんでしょう?」


「先の展開の予想をいけしゃあしゃあと語るんじゃないの。マフディは屋敷のベッドでぐっすりとさびしく独り寝…いや、6人の侍女にかしずかれてお休みしているわ。

 貴女は、日が昇ってからわかるように呼び出すから、せいぜい首とか…を洗って束の間の逢瀬を楽しみながら待っていなさぁい…。」



 彼女なりの負け惜しみだろうか? 本当に何をしに来たのか、言い捨てながら気配が遠ざかる。あるいは冒頭の文句だけを言いに思わず、の勢いで来てしまったのかもしれない。だいたいモルヴァーリドとノリが同じだとしたら、そうなのだろう。


 ふと、遠ざかる気配が静止する。

[待て、負け犬。]

[くそじじい……]


「サッちゃん、いま増えたのが武神流の武神さまだよ。」

「おぉ、もう、神様同士で決着をつけてくれないものか…。」


 口ゲンカに武神までもが参戦し、事態の目まぐるしさに額に手を当てて頭痛をこらえるサディクだった。が、武神がサウレに向かって

「あのマフディはそもそも、俺が、我が使徒の偉大さを知らしめるべく仕込んだものだ。それを、横から出てきてかっ攫うなど卑劣千万!」

 などとクレームを付けるものだから、

「アイシャ、後で聞かせてもらう。」



 逃がすまいとガッチリ肩を抱かれて、耳元で怖い声色で囁かれた聖女には言葉の中身までは届かず、「ふおぉぉぉ…」と顔を真赤にして奇妙な息を漏らしながら身をくねらせるばかり。


[むぐぅっ、アナタ、妾の目を盗めると思ッて !?]


 敵対する神の、当面の敵をほっぽりだした渾身のツッコミを受けて若干の意識を取り戻すアイシャ。半ば本能的に、とにかく話をそらすために口を開く。


「武神さま、そういえばサウレさんは、「自分の勝ちで戦いを終わらせようとする武神はザコだ、終わりなき闘争である恋愛の方が強い」なんて言ってましたよ!」


 告げ口(先生にチクリ)。結局、やれることは程度の低い告げ口。だが、それにより膨れ上がった怒気は、この陣中の誰もが眠りから目覚め、直立不動の姿勢をとってしまうほどの効果があった。


[フ、ハハハ。面白いことを言ったものだな、アイシャ。こやつらがそう思うのは、(つい)(いただき)を知ることがなかったからだ。俺が居たからな。

 敵を全て倒せば戦いが終わるのは当たり前だ。コヤツラには、どうしても倒せない敵、すなわち俺が同じ時代にいたせいで、また妙な小理屈をひり出したものよ、哀れだな!

しかしその不遜は罰さねばならん。アイシャ、存分にやれ。]


 余裕がありそうな文言とは裏腹の勢いでまくしたてる武神。それだけ言うのならご自分で動いてほしいところだ。しかし、言われたサウレ神の方も余裕の無さでは勝っても劣らず、言葉にならない怒りの音声を発信している。


 もう、いいから帰って。そう、言おうとしたアイシャの動きが止まり、視線が一箇所に釘付けになる。

 サディクも、アイシャの肩を抱いたまま思わず身を乗り出す。


 蕾が、花開く。



 はち切れそうに膨らんで、かすかにふるふると揺れていた球形のそれ(・・)は、えも言われぬ香気を放ちながらゆっくりと(ほど)けていく。

 気がつけば、東の空が青みがかって、大きな明けの明星がゆらゆらと大きく瞬いている。その輝きに手を伸ばすように、花弁が伸びていく。


 不意に、パァンと破裂音が響き、巨大な球は、一瞬で八重咲きのアネモネに似た、差し渡し20メートルの巨大な花となり荒野の平地に咲き広がった。

 感嘆、好奇、畏怖、様々のざわめきがそこかしこから発され、甘い鮮烈な香りとともに周囲に満ち満ちていく。



 花は、風にそよぎながら東天の明星の光を浴びて、いまだ夜闇の中の世界でそれ自体が不思議な光を発している。

 サウレ神の予定であれば、朝日を浴びて輝くはずだった花。それが、日輪ではなく、ただひとりどこまでも天に対抗するイブリース(ルシファー)の星を迎えてざわざわと歓喜している。


 夢幻的に可憐で美しく、しかし、この世にありえないおぞましい花。


 やがてざわめきも静まり、世界が沈黙に支配された頃、ついに一筋の朝日が大地を照らした。


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