挿話 この国について
普段、自分が住んでいるこの国について意識することはないけれど、この辺りはファールサというそうです。長く呼ぶと、イスカンダル征服王朝ファールサ国ですって。なんでも、200年ほど前にアナトーの海の遥か向こうから来た大王様がこの地を征服して建国したらしい。
いま、別方向からオーク族が侵略してきて、邪悪な侵略を許すな!って言ってるけど、そもそも王様も最初は侵略者だったんだね、って聞いたら、そのへんは大人の事情だって、手習いの先生が怖い顔で。
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いつもの暮らしのなかで国や王様を意識することはあまり無いことですが、例えば身長を測る時には大王様が出てきます。大王様はとんでもない大男だったので、その身長を200単位として、人の身長を測る単位にしたんです。わたしは145単位。他人には150と自称しています。ヤクタは180近くあるんじゃないかな。お父ちゃんとお兄ちゃんは165前後。詳しくは知らない。
単位の名前は「偉大なるイスカンダル大王に及ばぬ我らの身の丈の単位」、略して単位。いちいち大王様の名前を呼ぶのも不敬なんだって。最初は最大を100にしたけど、微妙に大雑把で使いにくかったから、後から細かく200に分けたのだと。
それで、昔は法律で、普通の人は199を超えることが許されていなくて、どんな大男でも199以上は199単位だと記録されたらしい。今は、王様の権威が弱まっているのと、この“単位”が便利だから、200を超えても何の大きさにでも、距離にでも“単位”が使われています。
さらに、6代のメートル王様が100単位を1メートルと呼ぶことに決めました。だから、わたしの身長は1メートル46センチ、ヤーンスの町から領都まではおよそ5万メートル。
重さの単位を定めたのは、3代のキログラム王様。祖父ゆずりの雄大で精悍な体格をお持ちでしたが、定めた時のご自分の重さを120としたのは、若く美しかったベストの頃のご自分が100だ、って面倒くさいことを言い出したから。
でも「しょうもない人だね」とかいったらダメですよ。わたしだったから許されましたが、それ聞いて笑った隣のやんちゃな男の子が代わりに先生から笞をもらいましたからね。
この単位によれば、わたしの体重は……かつての王様の例に習って、39キログラムです。
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ついでに、お金についても話しましょうか。この国には銅貨、銀貨、金貨があります。普通の暮らしでは銅貨を使います。商家の大口の取引では銀貨を使います。お父ちゃんも銀貨を使う商売をするときはウッヒョーとニコニコです。
商売の規模に応じて小粒銀とか大銀とかありますが、わたしは大銀を見たことがありません。金貨は、貴族の人たちが使います。町では使えません。
あと、南隣の国で使われているニフォンイェン、略してイェンという通貨も、商売の都合上、この辺では普通に使われています。隣国のほうが政治が安定しているので信用度が高いらしい。だいぶダメじゃんと思いますが、お金の問題はシビアです。
銅貨は1枚100イェン、それ以下の取引はアバウトに物々交換で。糸とか、ちょっと持ってると便利ですよ。普通銀貨はだいたい1万イェン。多少変動はありますが、おおむね、これくらいわかりやすいので流通しています。
金貨は時価でもっと変動しますが、1枚100万イェンが標準的な相場だとか。金10枚、小さい袋で無造作にもらったときはぞんざいに懐に入れましたが、あらためて考えると目がくらみますね。100枚・1億イェンで王都に家が建つって言われたけど、田舎なら城が建てられるかも。
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あと、何か話すことありますかね。あ、この国の神様は、牛頭人身、黄金色に光る大きい神様、ファール様。黄金に見立てた麦の穂をお供えします。王都にはファール様を讃える大きい塔があって、その塔にちなんで王都の名前もファール・ザフル。一生に一度は拝みに行きたい、ってみんな言ってます。
外国では、ポピーの花と火の神様、百万の神様、偶像の神様、魚の神様とか、いろいろな神様があって、厳しい神様は人を生贄に要求したり、厳しい修行を要求したりもするらしい。ウチの神様はお供えだけしておけばユルイので、それでいいと思います。武神様? さぁ、どうなんでしょうね。
“ネズミ婆”さんは放浪しても広い世界には縁もなく生きたということですが、せっかくなら他所の国まで足を延ばすのも悪くないかもしれません。まぁ、今はとりあえず、ぼちぼちやりながら将来に備えたいと思います。
こういう話、要る? とは思いましたが必要な時には必要なので。
とはいえ、9割ギャグの回だとご理解ください。