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167 武神会談


 小綺麗だが広くはない一室で、皆が思い思いに座っている。


 いちおう話したいこともあるから、マリアムちゃん、グリゴリィさんのオーク組も呼んで同席してもらっている。



 前提として、さっきまでオーク軍の陣地にお邪魔して、マリアムちゃん姉のイライーダさんに挨拶してきたことから説明する。

 大将軍さんは病んで見えるほど妹の心配をしていたけれど、マリアムちゃんを殺したければ殺せ、と投げやりな態度で不安定な雰囲気だった。あの人大丈夫なのか、というところから妹さんご本人に確認したい。


「姉は、()くまで一介の武弁(ブベン)であることを自らに課してきた。期せずして、武人としての頂に登ってしまったが、モンホルース生え抜きの武人であることを誇りにしている。

 その辺が、メレイ爺さん…占領地出身でありながら摩訶不思議な政治的手腕で筆頭武官に成り上がったあの人とは反りが合わなかったのだろう、頑なに政治判断を遠ざける面はある。」


 見殺し判断にはショックだったのか、これもフォローなのか、マリアムちゃんが淀みなく話す。っていうか、こっちの言葉、上手くなったなぁ。わたしより貴族語ができていそうだ。

 それにしても、いつまでもメレイさんの名前が出てくるものだよ。そのたびに胸がチクチク痛むから勘弁してほしい。


「彼も当代の英雄の一人だったからな。異名を“百万のメレイ”といって、皇帝陛下にズケズケと直言して不興を買い、死を命ぜられること百万回、功績を上げて罪を(あがな)うこと百万回!などといわれた男だ。もはや陛下の悪友のごときで、戦死の報には激怒なされ、暗殺者の首に金貨百万枚の懸賞金がかけられている。首を洗っておけよ、アイシャ。」


 ふふん、真犯人はもう、あちらで捕まえてもらってるから大丈夫だよ!


「アイシャ、人は事実…それも内輪の政争なんて誰も見たくないんだ。それより、聖女を任ぜられた少女が単身、将軍の寝所に潜り込んで暗殺、なんていう方が映えるからね。」


 ひどいわ、グリゴリィさん。もうその話はいいよ。時間的な順番も混乱してるし。それより、モルモルが食べられちゃった話をしよう!



 魔人モルヴァーリドは、わたしたち使節に冷やかしでついて来て、サウレ神に絡んで、絡まれて、負けて狂戦士の養分にされ、力を奪われたらしい。

 もしかしたら、しれっと帰ってきてグリゴリィさんに迷惑をかけているんじゃないかとも思っていたけれども、そうでないので、そうなっちゃったんだろう。安らかに眠ってほしい。


 そういう話をしたら、オーク組は流石に沈痛な面持ち。「せめて魂よ、安かれ」なんて祈りのつぶやきも聞こえる。


「アイちゃんも、私も食べられちゃうの?」

 カーレンちゃんはすでに泣きそうな顔をしているけれど、それはわたしが聞きたいこと。

 エルヤさん、カムランさん、お越しください。この大将軍の髪を供物に捧げましょう。



[いらねぇ。アイシャ、お前、あんなの(・・・・)に俺の“技”が負けるとでも思ってるのか。]


 あ、武神さま、ようこそお出でを。でも、でも、だって、マフディくんのモルモル流移動魔法、見えなかったんですもの。危ないよ。


[見たら、見える。ちゃんと見ろ。影から出てくるところを叩けば、あいつら影の中で迷子になって出てくるのに十年はかかる。楽勝だ。

 アイシャは“気”で会話だの回復だのと寄り道ばかりで、まだ我が技の半分も使っておらんぞ、もう少し使え。戦って慣れろ。]


 それにしたって、武神さま同期の4人のうち2.5人分の力をマフディくん1人で持ってるんですよ。せめて武神様の力だけでも取り上げてくださいな。


[何を馬鹿なことを。半人前2人分と我が力の欠片(カケラ)で2人前、対するアイシャは我が“技”で百人力だ。せいぜい盛り上げて、余裕で勝て。手間取るようなら“技”を没収するぞ!]



 ひぇっ。なんだか妙に武神様がプリプリ怒ってる。普段に輪をかけて面倒だ。

 それより、カムランさんはいないんですか、カムランさんは。ちょっと、神の子の人選ミスの責任を取ってほしいんですけれど!


「アイちゃん。自覚はあるけど、はっきり言われると傷つくわ。」

「アイシャよぅ、アタシらは乳をがんじがらめに縛って潰しても、飛んだり跳ねたりすると痛いんだわ。アタシは慣れてるが、カーレンには荷が重い。容赦してやれ。」


 友人2人が抗議してくる。えぇー、それならそうと言ってよ、そんなの察せないよ。

 そうなんだそうですよカムランさん。お風呂覗き神のカムランさん!


(わめ)くな、聞こえておるわ。師弟揃って品のないことだな、エルヤよ。]


 あ、出てきた、のかな。口調が違うからカムラン神であるらしい。

 品なんか、あと回しだ。「カーレンちゃんがもらったカムラーン流を、こちらのゲンコツちゃんに譲り渡したいんですけれども!」


[それは無理だ。そんなに気軽に受け渡せるものではない。縁、あるいは期というものが必要なのだ。

 (なれ)とエルヤは数百年予約されていた縁がある。我と子には、カムラン家とカーレン家、血族の名の縁があったからできたのだ。その小僧に今、と言ってできるものではない。


 それから、な、先にエルヤが「技を没収する」などと言っておったから気軽に思ったのだろうが、魂に貼り付いた記憶をいじろうというのだから、気軽に行えば魂も肉体も曖昧になって、空気に溶けて消えるぞ。

 爺ィ、知りもせんことで子供を脅すとは何事だ。]



 今まで言葉を交わす機会がなかったカムランさんの長広舌。言ってることはわからないけれど、言いたいことはわかる。もっと言ってやって。


[フン! まるで何度も試したみたいな言いようだな。それで結局、ワレは貴様の使徒にどうせいというのだ。見殺しか。]

[何を言うか。我が子がそこまで戦いたくないというのであれば、いま戦わずともよいわ。身を守るには過剰な力だ。遠からず、嫌でも振るうことがあるわさ。焦ることはない。]


 ……って、神様は言ってますよ、シーリンちゃん。


「あのぅ、ウチのカーレン家は断絶してた家名を他所からお金で買ったもので、たぶん血の繋がりは無いと思いますぅ……」


 そういえば、そんな話もしてたね。どうなの?


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