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165 因縁


「ひとを何だと思っているんだ?」

「そんなことより、モルモルをどうしちゃったの!」


 モルヴァーリド。あの、憎んでも余りあるけれどもどこか憎みきれないフワフワした悪霊。それを、食べて、魔法を奪ったと、この少年は言っている。


 アレ(・・)が死んだとしたら悲しいか、というと正直それほどでもない。が、無心ではいられない。関わって、言葉をかわした相手は、もうただの風景には戻らない。涙のひと粒も流してあげようじゃあないか、くらいには思う。

 まして、食い殺した、と言われるとさらに心が波立つ。




 ヤバいなぁ、と気を取られていて、あっ、と思った瞬間、前に立ちふさがっていたはずの彼はわたしの後ろから肩と首に手を回してきている。

 ゾッ、と背筋が(アワ)立つ。相手がそのつもりだったら、いま殺されていたかもしれない。


「喰った、っていうのは煮たり焼いたりしたのとは違うぞ。神様風に言えば、そいつの魂をバラして、欲しいところだけ俺の魂に混ぜ込んで、他は散らしてしまった、ってことらしい。」


何か言ってるけれど、わたしとしてはワッと叫んで後先見ずに逃げ出したい気持ちを抑えるのに苦労している。なんとか、勇気を奮い起こして言葉を続ける。



「そんな、魂に変なもの混ぜ込んで大丈夫なの? 今のあなたって、元のあなたのままなの?」


「心配してくれるのか、優しいアイシャ。だが、俺は俺だよ。もし変わっているとしても、元々の俺に何か価値があったわけでなし、強くなれるなら何だってするさ。」



 わからない。そんな気持ちってあるものかしら。ひょっとして、男の子ってそんなもの?

 わからないといえば、サウレ神とやら。モルヴァーリドと愛し合ってたこともあった愛の神とか言いながら、そんなことをさせておいて、いいの?


[もうダメになってるものに引導を渡すことも、愛よ。私はぬるい博愛をやってるんじゃないの、選び抜いた魂をぶつけ合う、恋愛。

 モーリーは妾を選ばなかったけれど、妾はモーリーを選んだのだから、彼女が老醜を晒すのは妾に対する裏切り。妾に対する侮辱。

 きっちり、マーくんの栄養になってもらうことで償いとさせてもらったわ。]



 おおっと、会話にヤバいのが割り込んできた。

 かつてモルモルが「ヤツは独自の恋愛理論で動くによって、動きが読めん」みたいに言っていたのを思い出す。なるほど、本気でわからない。


「わかる?」って、ナッちゃんや、べ太郎の顔色まで伺うも、黙って首を振られるばかり。わたしたち、恋愛下手王国民ですから。

 オーク族のみなさんに目を向けてみると、こちらもうんざり顔でふてくされてる。安心した、誰にもサウレ流恋愛術は通じていないらしい。

 が、問題の神様が不満顔だ。やはり、ウチの神様に比べて姿が見えるのは便利だな。どっちみちウザったいのは違わないけれど。


[どいつもこいつも、見込みがないことよね。

 アイシャのところのエルヤのように“武”などと、勝って終わらすための技術なんて(ぬく)たいことをいってるからダメなのよ。

 最後の最後まで、一生戦い。それが恋。八方美人の愛じゃない、選び抜いて、選ばれ抜くのが、恋。選ばれなかった苦しみ、憎しみも、また、恋。人の身の、40を越えても60を過ぎても恋に身を焦がす。これこそが恋。]



 なんか気持ちよさそうに喋ってるけれど、勝手なことだ。

 そんな恋は、わたしが憧れて、やってみたかったものとは違うなぁ。国とか文化とか、言語が違うと恋の概念自体も違ったりするんだろうか。


 とにかく、いまお話して今日理解し合うのは無理だとわかった。仕方ない。

 体をブンと揺らして、まだ肩をつかんでいたマフディーくんを吹き飛ばし、叫ぶ。


「お使いの伝言は済ませましたからね、帰らせていただきます! 追いかけてこられても知りませんから!」



 やり取りの間に、目指していた別の扉も衛兵さんが守りを固めている。仕方がないので、誰もいない壁に走り寄って、まだ手に持っていた将軍の髪の毛製の棍棒を振り抜き、ぶち抜く!


「ナッちゃん、べ太郎、急いで!」


 壁に開けた大穴から抜け出し、さらに進んで突き当たりの屋敷の壁を3枚叩き割ると、眩しい光が差し込み、裏庭に出てきた。あれ? 表通りに出られると思ってたんだけど。

「いや、こちらで良かった。あっちに厩がある。馬を失敬して帰るぞ!」


 急に、べ太郎が元気を出して先導してくれる。戸惑いはするけれど、2人を守りながら敵陣の真ん中から走って逃げることを考えれば、お馬さんがあれば助かる。

 うん、行きましょう。



 べ太郎はスパイだからこの屋敷にも潜入したことがあって、間取りも覚えているらしい。だったら先に言ってよ。


「知ってるから、脱出が不可能なことも解ってたんだ。壁をぶち抜けば済むなら道案内なんて要らなかろう。…馬に乗れたら、その先は案内してやる!」

「わたし、馬、乗れないんですけど!」


「ナスリーン卿、頼んだ!」

「私は鎧を着ていて重い。身軽なべフラン殿と相乗りが良かろう!」

「お断りだ! 鎧なんか脱いでいけばいいだろう!」

「これは伝来の鎧だ。置いていくことはできない!」


 ああ、私を巡って2人がケンカしている。やめて、争わないで! …でも、これは押し付け合いだね。ひどい。

「わたしは、走って後からついていくから、いいよ。先に行っちゃって。」


「そんなわけにはいかん!」

 二人の声が揃って、ケンカが止んだ。

 結局、べ太郎の馬の後ろ席に座ることになった。「乗馬ができるようにとは言わん、せめてズボンを履けるようになったらどうだ」とかわからない苦言を呈されるけれども、ヤツが文句しか言わないのはいつものことだ。


 さ、帰りましょう!


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