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161 使節訪問


「カーレンちゃんは来てくれないんだ。ホントに、バトル展開に不参加よね。」


 会議が終わってから、別室でカーレンちゃんとお話。敵から情報を聞き出すときの注意点とかのアドバイスをもらってから、軽く無駄ばなし。


「試合を観客席から見るのは好きだけれどぉ、自分がマジ殺し合いに参加は、無理。

 …アイちゃんはいつも嫌がってるのに、なんだかんだ、自分から飛び込んでいくよね。どうして?」


「それは、あなたは他の能力で生きていけるからだよぅ。わたしは、そうしなきゃ追い払われて、十日後には路地裏のドブネズミか森のジネズミ暮らしになっちゃうんだ。」


「そんなことないと思うけどなぁ……。」



 カーレンちゃんは勝負が嫌いすぎるんじゃなくて、負けることがイヤすぎるのと、専門の商売で勝つことにプライドがありすぎて専門外の分野からは、ためらいなく逃げているんだ。

 それで怒られないように自分の分野で役に立って、「しょうがねぇな」で許してもらえる器用さがある。もっと、全力で生きていこうぜ!みたいな心の声は彼女には鳴らないんだろう。その心の強さは、さすが神から選ばれし人だとは思える。


「そんなことよりアイちゃん、できたての彼氏を放置してどうするつもり? 決めちゃおうよ、今夜にも。勝負を!」


 決める、って、何を? わたし、まだ14歳だってば。まったく、この女は自分の初恋もまだのくせに、どういう噂をどう聞いて勝手なことを言ってるのかしら。

 …正直、あのときは雰囲気に酔い過ぎてて、どう返事したかもフワフワしてちゃんと覚えてない。なに言ったっけ?


 いまさら、やっぱりナシ、っていう気はないけれども、これから彼とどう接したらいいのかもわからない。早まった気はしている。

 でも、人から羨ましがられるような男の子に好きって言われたことは、素直に嬉しい。今思い出しても頬が緩む。

 そう、あくまで彼がわたしを好きなのだから、関係の発展はひとまず彼に任せよう。



 わたしはそう思っているのに、カーレンちゃんはなかなか納得してくれない。


「なにも、冷やかしの笑かしで言ってるんじゃないのよ? ……私やヤクタさんがアイちゃんの守りたいもの、帰りたい所になれたら良かったんだけど。ちょっと力不足みたいだったし?

 家出してる私が言うのも説得力ないけど、自分の家族をつくって、そんな捨て身のムチャクチャじゃない穏当な幸せを目指してほしいと思うのよ、友達として。」



 お気持ちはすごくありがたいけれども、いまだ将来は模索中で確たることは何も言えず、その晩は就寝となった。


 翌日。ナスリーンさんとわたしと、おまけの随行員を連れ、使者として白旗ひとつ掲げて敵陣に向かっている。

 昨日崩れた敵陣の外壁はまだ復旧も手つかずで、瓦礫砂漠ともいうべき痛々しい雰囲気の風景が広がっている。もうもうとしていた砂塵は収まって見晴らしは良いが、いかんともしがたく殺風景だ。



 街の景色は悪くない。道は広々と真っ直ぐで、建物は木材と白い粘土壁で背が低い家々がひしめくように並んでいる。王都や城のような戦争のための守りの準備がない、かわいらしい街並みだ。こうして見ると、王都の流行が「(いかめ)しくない家構え」で、軽やかな外観をイキだ、威圧的なのはダサい、としている気持ちがわかる。


 でも、今のこの街は小汚くてなんだか臭い。下水の整備もされなくなって、あふれて悪臭を放っている。

 ちらほらと見える一般市民の姿も薄汚れていて、所作がコソコソしている。占領下の市民として生きていくのは、大変だろうと思う。幸せそうにはとても見えない。

 城壁がなくなった今なら逃げれば逃げられるはずなのに、逃げても生活できないから残ってる、とか事情があるのだろうか。

 うちのお父ちゃんは、いま考えると案外身軽に逃げたものだ。でも、ちょっと立場が違えば、私の生活もああだったかもしれない。生活していくって、辛いね。



 敵陣のなかに踏み込んで堂々と歩いているけれども、意外にも誰からも止められもせず、話しかけられもしない。


 敵のオーク兵さんから注がれる視線は厳しかったけれど、我々が女性の使節だとわかってもらえるとにこやかに口笛を吹いたり手を振ったりしてくれる。といっても、なんだかいやらしい顔で、良い雰囲気とは言えない。


「治安、悪い感じだねぇ。」

「軍隊なんてこれでも上等ですよ。ウチの軍も我々が到着してすぐはこんなものでした、現在は聖女様が来なさるというので特別ボーナス期間です。」


 隣の女騎士ナスリーンさんに耳打ちしてみるも、クールなお答え。

 そういえば、この人ともゆっくり喋ってみたかったんだ。なかなか、バタバタしてその機会がなかった。



「ナ…ナッちゃんは、苦労してるのね。どうして騎士やってるの? やっぱり、カッコイイから?」


「ナ……そうですね、言いたいことはいろいろありますが、騎士になったのは、自分がやりたかったからですね。

 (うち)は両親の下に8人きょうだいで、私が一番上、下に妹ばかり6人、一番下に弟、これが4歳でして。私が16のときに弟ができるまでは家を継ぐ都合で男みたいに育てられまして、今は家督をすんなり譲ることを条件で、私がやりたいことを通すのに親に否とは言わせません。

 まあ、武官は性に合っているのでしょう。」


 仲良くなりたかったナスリーンさんに距離を詰めてみたら、いきなりぶっちゃけた話を聞くことができた。まあ、つまり、要するに意地みたいなものかな。性に合ったことをやり通す、かぁ。恰好イイねぇ。



 さて、大通りを進んでいて、目的地はどちらかな。


「街の南側の城を司令本部にしてあったが、崩れたので第二政庁の屋敷を臨時本部にして移っているとのことです。そうだったな、ベフラン。」



 そう、随行員はべ太郎だ。連れて行く通訳に、わたしは十字軍のキルス通訳を推薦したのに能力に不安があるとかで、実績だけは間違いがないこの小面憎い男がついてきたのだ。

 

「誰も寄ってこないのは大いに不審ですが、情報に間違いはございません。

 ……何だ、文句あるのか尻軽聖女。」


 これだ、これだからこの人イヤなんだよ。腐れ縁ってやつだね。

 悪口を聞き流しながら首を振っていると、何かがフワフワと宙を漂って近づいてくるのが見えた。手のひら大の、ピンクのハートマーク?だ。


「げっ、来おったわ。わえ(・・)が助言してやるいわれもないが、気をつけろよエルヤの巫女。」



 もう1人の随行員、っていってもいいのか、勝手にフワフワとついてきたのが、この魔人モルヴァーリドの悪霊形態だ。

 今まで見てきた限り大したことはできないようだし、実際こちらから滅ぼしてやる方法も思いつかないから放っておいている。


「来るって、誰が?」

「サウレの阿呆よ。」


「ヒドいわ、モーリー。あの頃はあんなに愛し合っていたじゃない。知らない間にそんなに落ちぶれて、性根も曲がっちゃってどうしたの。

 …こんにちは愛しのアイシャちゃん。イライーダに逢いに来たのね。

 彼女と話してどうなるとも思えないけれど、案内してあげるわ。いらっしゃい♡」


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