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157 回復の聖女


 とりあえず、グリゴリィさん含むみんなからきちゃないと思われていたらしい体をさっぱりさせて、ゲンコツちゃんの案内で傷病者の療養所へ向かう。


 わたしがサッちゃんの相手や敵の相手をしたり、ブラブラしたり引きこもっている間、ゲンコツちゃんは味方のいろんな所にあいさつ回りをして、なかなかいい顔になっていたらしい。

 これが、体育会系のコミュニケーション力。すごい。

 もし、わたしなら仕事がないって言われたら半日でも10日でもぼんやり休んでるよ、えらい。尊敬する。って言ったら、そんなことないでしょ、って照れながら謙遜してる。



 療養所では、100人ではきかないくらいの人々がうめきながら転がっていた。


「こんなに倒れてたら戦争どころじゃないんじゃないの?」

「押忍、言うても、3万人から居まスから。これでも、ちょっとでも動ける人は普通の天幕で暮らしてるッスから全然少ないっすよ。

 その我慢も戦争だ、って、ハー様が。」


 戦争、ね。わかってるんだよ、わたしも。

 世の中、何やっても生きていける能力があるヤクタとかハーさんとかみたいな器用な人がいるけれども、そうでもない、お父ちゃんとか武神さま前のわたしみたいな不器用な人もいる。

 そういうモブ民こそ1人で生きていけないから、役割分担で荒事を彼らに担っていただく。荒事専門の不器用な人、アーラマンちゃんみたいな人もいる。彼らは死ぬかもしれない。ありがたいことだ、感謝しないといけない。


 それなら、わたしも不器用代表選手として、たまたまもらった妙な力を不器用仲間のために役立てたい。こんな力でメチャクチャに暴れて「お前を俺のオンナにする」なんて、ちょっとはわかるけれども、そんなの、なんだろう、わたしはイヤだな。



「聖女パワーで怪我人や病人を治す実験をしたいから、ほどほどの病状で、失敗しても替えがあって大丈夫な感じの人を紹介して☆」

 って療養所の先生に注文したらとてもイヤな顔をされてしまった。

 いま、聖女服じゃなくて普通の町娘服だからその辺の一般人だと思われたのかもしれないね。


「そんなわけないッス。言い方を考えて!」

 ゲンコツちゃんに怒られて、こっそり二の腕をつねられ…「痛!痛い!」めっちゃつねられた。アザができちゃう。あ、説明にちょうどいいわ。


「ほら、ここ、さっきつねられた跡だけれど、サッとなでたら…ほら、治った。

 自分以外にはこんなに効かないだろうけれど、治せたらラッキーかなって。」


 療養所の先生は疑わしげに目をパチパチしばたたかせてから、ゲンコツちゃんと目線でうなずき合って、条件に合う患者さんを紹介してくれた。


――――――――――――――――――――――


 患者A。狂戦士の攻撃の余波で足を骨折。

 暴れん坊でトラブルを多発させている問題児。


 スカート短めでヒラヒラの平服のアイシャが治療のために(かが)んだところで視線を地に這うほど低くとろうとした際、ゲンコツちゃんのサッカーボールキックを受けて鼻梁と頚椎にも損傷を追加。


 聖女の“治療”の結果、患部の炎症がおさまり、鼻血が止まった。

 聖女いわく、「(覗き込まれた件について)安心してください、普通の下着を履いていますよ。

 (治療について)ナデナデだけじゃ、こんなものかな。楽にはなったと思う。」



 患者B。食中毒。

 やる気に欠け、使えない人材と烙印を押されている問題児。


 アイシャも医者も知らない豆知識だが、古今東西を問わず「腹をこわしている患者に水を与えてはいけない、下痢が酷くなるから」という思い込みがどこにでもある。そうすると、水分不足の脱水症状からますます衰弱し、他の不調を呼び込んで死に至る。食あたりは軽くても死病なのだ。


 ナデナデ治療で症状は劇的に改善したと見られるが、当人は「まだツラい、あ~ツラいなぁ」と引き続きの治療を望んだ。患者は聖女ファンだった。


 聖女いわく、「信じて前向きに“治療”を受けてくれると効果が高いみたい。でも元々やる気が無いのはどうしようもないね。

 あと、どちらかというと病気の治療のほうが向いてるみたい。」


――――――――――――――――――――――


 先生は「医学とは…医術とは……」って頭を抱えてるけれど、他にお腹痛(なかいた)の患者が百人と少しいるんですって? そっち、行ってもいいかな?


「押忍、そりゃ、ジブンだってアイシャちゃんのバトル強さには穏やかじゃない思いをしてるんッスから、ジブンらの人生の倍を医療に捧げてきた先生はハラもお立ちでしょう。ここは、引き帰してまた後日…」


「小生はまだ二十代だ。あー、悪かった、聖女殿。小生のメンツより患者の苦しみを癒やしてやって欲しい。頼む。」


 先生のお墨付きだよ? ゲンコツちゃん。ほら。

 この技については、正直、真面目な人に申し訳ない気はしてるんだけれど、だからといって無いフリをしても誰かが得をできることもないから、しょうがないよね。



「ねぇ小生先生、これで何人目?」

「8人目だ。あと、正確には110人残っているぞ。」

「終わらなくない?ですか?」


「1日で終わらすつもりだったのか? それは、見込みが甘すぎる。

 他の仕事だってあるだろう。こちらにかまけているより、聖女殿はそちらの義勇軍の怪我人を見てやるべきではあるだろうしな。無理をして、聖女様が倒れたら全軍の万事も休することだし、ここらにしておいたらいいさ。」


 ムカッ! そこまで甘く見られては引くに引けない。

「やるよ、やらせてもらいますよ、これくらい! 5,6日くらいに分けて。それくらい、いいでしょ?」


「…押忍、アイシャちゃん。決闘は3日後ッスよ。それまではそっち優先にすべきでは?」


 うぬぬ。それがイヤで別のこと考えてるのに。ねぇ小生先生、決闘なんかより人の病を癒やす方が崇高で立派ですよね?


「小生というのは一人称で、小生の名前じゃない。…戦争も人殺しも(ロク)でもないが、どちらも命がかかってるんだ、やるからには遊び半分では困る。」


 先生が厳しいよぉ、ゲンコツちゃん。

「何が嫌なんスか。決闘は勝てないんスか?」


 勝負自体がイヤ。勝つことも嫌い。負けたら死ぬからイヤイヤやってるけれども。

「まるでわからんッス。勝ったら嬉しいじゃないっスか。…おや、王子殿下がお越しッスよ。」


 うゎ、サッちゃんだ…。


「アイシャ、こんなところにいたのか、探したぞ! 相談したいことがあったのだが……もしや病気か?無理をすることはないぞ、あとは任せろ。こちらでどうにかしよう…。」


 あ、そうじゃないです。…ですのけれども!


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