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136 再出発

「アイツが雷獣って呼ばれだしたのは、あの鉄砲のせいだ。お前らが持ってた、銃だな。」


 べ太郎が集めてきた情報を得意げに披露する。まあ、まずは聞いてあげよう。


「アイツらが川船で出港したところに河賊がのこのこ出てきてな、その先頭の賊の頭目を問答無用で撃ち殺して、それがあんまり鮮やかだったものだから、準・聖女だの、聖女の雷槌(いかづち)だのの二つ名候補から本人が選んだのが、それらしい。」


 あぁー、あったね、銃。使いたかったんだろうなぁ。後でわたしからも祝福してあげよう。…

って、もしかして、撃たれた河賊の頭目って、わたしたちと一緒に宴した、あの?

 賊なんかしてたら長生きできない、ってヤクタ本人も言ってたけれど、まさかそんな。


「いや、お前らの相手とは別の、その商売敵だ、撃たれたのは。ライバルが目立って、焦ったんだろう。まさか賊だと名乗った瞬間にワケもわからずやられるとは思いもせずに。

 その手下連中は、頭目が天罰に当てられて死んだと思って、河賊の組織全体が雷獣の手下になっちまった。

 今じゃあアルタリ河の河賊は、お前の信者のサーム団と、ノリでヤクタに降っていった雷獣連合との覇権争いだ。数じゃあ1:3だが、雷獣連合は0.6~0.1のバラバラが集まって、まとまっていない状態だな。」


 ひとつ、安心のため息が漏れる。

 別に、あの河賊さんにそれほど何かがあったわけじゃないけれど、見知った顔が友人に退治されたとか、ちょっと気詰まりになるのでそうならなくてよかった。

 この安心はエゴイスティックだけれど、まあ、普通のことだと思う。


「それで、いまヤクタは?」

「河賊の件は放り投げて旅路を急いでいる。」 

「じゃあわたしも急ぐ。」



 その日の内に、進軍再開の準備は完了した。が、諸々の都合のため翌朝の出発となる。夕方の出発でもいいんじゃないかと駄々をこねてみたが、面倒が増えるだけで意味がないとハーさんに却下されては仕方がない。

 高級馬車の手配は、本来必要なレベルのものはイルビース領都からの取り寄せでなければ、在庫など無い!と聞いて目眩がしたものだが、仕方がないものは仕方がない。港町の町長の馬車をムリヤリ借り上げて、その屋根に例の十字架を突き刺して「国王家プロデュース」看板だと強弁して、十分な格式の馬車だと言い張ることにした。アーラマンちゃんが。いやぁ、コワイ、コワイねぇ。



 そんなことを言っている間に、グリゴリィさんがようやく目を覚ましたと知らせが入った。不思議に、グリゴリィさんの名前を聞くだけで胸がドキッとして、なんだか甘い感じに体の内側がピリッと震える。

 ふぅん、そうなんだ。と口では言いながら、足がソワソワとそちらの部屋に向かう。我ながら、どうしてだか理屈がわからない。


 そしてやって来た、渦中の第二VIP室。

 目に入ったのは、部屋の隅っこでイジケているマリアムちゃんと、反対側の隅っこで居心地悪そうに瞑想しているグリゴリィさん。マリアムちゃん係のジュニア、説明を。


「姫将軍が堅物少年に抱きつこうとして、やんわり断られたってだけさ。なぁ、俺、この係やらなきゃダメか?」

 もちろんダメよ。うふふ、マリアムちゃんとグリゴリィさんの関係は見込み薄かな。思わずやっちゃった後ろ手でのガッツポーズに、爺やとキルス通訳の冷たい目線が刺さる。


 でも、私が見たらわかるんだけれど、グリゴリィさんの周囲にうっすら遠巻きにまとわりついている謎の気配がある。モルモルさん、まだ失せてないんだ。なぁんだ、それでマリアムちゃんを近寄らせない、優しさなのね。

 その辺の事情も、話さなきゃいけない。通訳大臣、出番だよ。


「こんにちは。早速だけれど、そのモル太郎って、どう? 大切な人だとか、難しいご関係だとか。」

 無遠慮に隣に腰掛けて、馴れ馴れしく聞いてみる。平静を装ってるけれど、心臓は破裂しそう。目線は彼の、あの妙に赤い唇に釘付け。いけない、これじゃ変態だ。キルス、さっさと通訳して。


「~~。」「~~。」

「私の力が弱いので、彼女の力に頼ってしまった。私を殺せば彼女は去る。迷惑をかけた。と言っています。」


 期待に膨らんでいたモルの気配がぷしゅうと抜ける。何を期待してたんだモル婆。そんなことより、やっぱり直に話したいなぁ。雰囲気で何となくの会話はできるけれど、わかってるのかどうかもふんわりしているから。


 ねぇモルモル、わたしと彼で気を流してつながれば、それで会話できるかな。また、く、くっくち、く、

[罵倒しながらいけしゃあしゃあとやかましいわ。そんなのはわえ(・・)が許さん。あ、尻からならできるし、許すぞ。]

 悪霊め。


 彼らには「サッちゃんのところで外交のいろいろに協力してもらうため、悪いようにはしないから早まったことをしないように」と、とりあえず必要なことを伝える。道中、話す時間はたくさんあるはずだ。



 そうして、港町を後にして陸路の旅を再開する。

 また川上りの船旅ができないわけではないけれども、もう船はコリゴリだ。(アシュブ)ちゃんの背の上が懐かしい。潮風とちがう草と土の匂いも心安らぐ。

 見送りの人々の応援を背に受けて、数人増えた十字軍は今のところ欠けることなく健康で、意気揚々と戦争に向かう。この気持ちだけちょっとわからない。でも、彼らの頑張りが頼りだ。


 街道は、戦地・東フィロンタ領都と行き来するしっかりしたものだ。しかし、途中数か所の関所が予想されること、半ばからはオーク族の勢力圏であろうから、どこかで道をそれていく必要がある。

 

 そもそも出発時に海路を想定していなかったので、この道は不案内だ。案内人を雇うべきだが、次の宿場で探す方がおすすめだと港町で言われたので、そうするらしい。何なら、べ太郎もいる。わたしは嫌だが、ハーさんとべ太郎は仲良しだから道案内くらい役立ってくれるだろう。

 ほかの厄介ごととしては、魔人モルヴァーリドという“困ったの”を拾ってしまったのが最悪だ。とはいえオーク族の姫将軍というお土産はサッちゃんに喜んでもらえるのではないか。

 油断はできないけれど、ここからは一歩一歩ヤクタやカーレンちゃんに近づいていくのだと思えば気持ちも晴れやかだ。なるべく急いで進もう。





新キャラも増えた第9話「海路」でした。ついに、ラヴの気配が漂い始めました。

次回、ひさしぶりの登場人物まとめをしてから10話「武神混戦」になります。無事の再会は叶うでしょうか。


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