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132 マリアム副司令 2


「モンホルースの言葉はな、」

 なんか偉そうな感じでべ太郎が切り出す。


「基本的には北東諸国の言語の一方言だ。馬を走らせながら罵り叫び合うためにできていて、単語は短いし、種類も少ない。複雑な会話には向いてない。

 3週間で覚えられる簡単な言語だ。嘘聖女、お前も勉強しろ! そうだ、それがいい。必要だろう。」


 なんということを。べ太郎が先生で、わたしが失敗したら(ムチ)をあびせる役!? そんな、とんでもない。


「できるか。ハーフェイズに殺される。それ以前に、お前が殺しにかかるだろう。

 あの国はな、法律用語は東南王国語から、商業用語は我らが旧中央帝国諸国語から征服地順に方言バラバラに採用していて、それを覚えるのは拷問だし、無駄だからお前にはしない。

 元々の言語の単語は3割ずつ、馬飼い、羊飼い、戦争用語で、残り1割が挨拶と天気の用語。お前が覚えるのは、その挨拶と戦争語、200単語程度だ。アホでもできる。むしろアホのほうができる。」


「そんな、雑な国に負けたり降参したりするの?」

「そういう相手が、コワイんだよ。お前と一緒だ。」



 相変わらず、何を言ってるのかわからないのに心に刺さる悪口。

 でも、その変わらなさに救われる自分もいる。そう、団員のみんな、爺やも。よそよそしいんだよ。わたしじゃない聖女様をわたしの後ろに見てる。


「上司と部下とか、主従関係っていうのがそれだ。友達付き合いじゃないんだから、お互い、なにかの役割の部品になるもんだ。諦めろ。俺も、人前で嘘聖女とかは呼ばないでいてやる。」


 あら、口に出てたかしら。しかし、偽聖女と呼ばれたら反論もできるけれど、ウソつき聖女と呼ばれてはちょっと困るのよね。でも「嘘も救済のため」みたいな言葉はあるでしょ。

 おや、やっと、VIP室に到着だ。



「“火の大将軍イライ―ダ”の御妹君、マリアム副司令閣下にお目もじの栄を賜り、恐悦至極に存じます。…オラ、翻訳官、聖女、そこのジュニア殿も。言ってみろ。」


「火の大将イライラの妹ちゃん、マリアム偉い人の横の人様、ウッス!」

「嘘つきべ太郎! オーク語、難しいじゃない!」

「貴女の瞳は星空のようだ。」


「キルス、レベルが低すぎる! 聖女、ダメでも怒らないし笑わないからやってみろ! ジュニア殿、知ってるなら真面目に。…マリアム閣下、ご不便をおかけして申し訳ありません。」


「辺境の化け物の巣の中に文明人がいたことは祖神の助けかもしれん。よろしく頼む。」



 ベ太郎の翻訳で新しくわかったことがいくつか。

 まず、彼女はメレイ司令官の後釜・イライーダさんの、歳が離れた妹さん。門閥的にかなり偉くて、実績もいくつかあって、この奇襲任務を買って出たこと。


 このイライーダさんとやらが厄介で、前任の「()きこと風の如く」「動かざること山の如く」の故・“山風大将軍”メレイの後任になった、「(おか)(かす)むること火の如く」の“火大将軍”。異名は伊達でなく、虐殺と略奪の派手さで問題児ながら最速での問題解決に定評があるらしい。

 ちなみに、かのメレイさんはどっしり構えて、本国がイラ立ってきたあたりでいきなり敵を無血開城させて、最終的には予定よりずっと早く問題解決する名手だったらしい。死んじゃったけどね!


 で、“話ができるまともな敵”がいなくなった跡に“ガチヤバい敵”がやって来るのが、問題だと。

 それなら、そのイライーダさんを倒したら? という問題でもなく、


「“モンホルース六大将軍”のうち2席を兼ねていたメレイと、もう一人イライーダを討って、半分の3将軍分を倒してしまえば、オーク帝国は威信をかけて絶対に我が国を滅ぼし尽くさないと面目が立たなくなる。

 お前がオーク帝国を滅ぼし尽くしてくれるなら別だが、そうでなければ、無理でもどうしてもイライーダと外交で解決しないといけない。

 だから、やっぱり、アイシャお前は黙ってじっとしていろ。幸いにも、奇襲を(はば)んで人質を取ったのは奇跡的な好手だ。これで交渉ができる。大手柄だ。だからもう黙ってくれ。」



 面倒だわ。ベ太郎の言うことが分からないでもないけれど、そのイライラ大将軍との交渉って、相変わらず、要するに降参じゃないの? そうだよね。十字軍の大将としては、うなずけないね。


「xiex qed titkellmu! Involvini fil-konversazzjoni.」


「な、なぁに? マリアムちゃん。えー、~?うん、X'għidt, Mariam?(なんて言ったの?)」


……後から聞いた話によれば、わたしをすごくぞんざいに扱うべ太郎が彼女にすごく丁重な態度なのと、色男・ジュニアがカタコトながらチヤホヤしてくれるので、この時のマリアムちゃんはかなり気持ちがほどけていたらしい。

 この夜は、べ太郎とマリアムちゃんを講師に、わたしとキルスとジュニアの語学教室でジュースとお菓子と、お酒も出てきて楽しく過ごした。



 明朝。

 少し早い時間だけれど、外が騒がしいので早い時間に目を覚ました。昨夜は、みんなでVIP室でザコ寝で、夜を明かしたんだった。


「まったく、バカどもは男女が一室で過ごすことを何とも思わんのか。」

「今のひとこと、ジュニアの母親にチクらせてもらいます。」


 朝イチからベ太郎のイヤミなんて聞いていられない。この程度で黙るなら、自分が大人しくしてりゃいいんだ。でも、そんなことはどうでもいい。部屋からオーシャン・ビューのバルコニーに出て、外の様子を伺う。

 今朝は快晴、水平線までくっきり見えて夏の早朝の空気が清々しい。


「オーク族の船が動き始めたぞ!」


 響いてくる声は、だいたいそんな言葉。確かに、ずっと沖合で停まっていた船が動き出している。隣にマリアムちゃんが出てきて、海を見てニヤリと笑う。


「ハハハ、巫女よ、降参するなら今のうちだぞ!」


 気持ちはわかるけれど、ちょっと判断が早いんじゃないかしら。そう思っていると、沖の敵船から見られている気配が叩きつけられて、頭のなかに声が響いた。


「異教の巫女よ、話ができるか!」

 おぉ、あの美少年の声だ。生きてたんだ!


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