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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第九話 海路

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125 潜入


 とんでもない緊急事態だ。

 もし本当なら、敵の奇襲部隊に偶然鉢合(はちあ)わせたことになる。っていうのが、ハーさんの意見。


 ここは逃げて、どこかの港から敵襲を通報しよう!とするにも、敵より早く逃げられようとも思えない。ただ逃げてしまえば、味方にでっかい被害が出ちゃうのを見過ごすことになる。

 幸いにも、今ここに“天剣”と“武神姫”がいて、アーラーマン、オミードといった実力者もいる。霧にまぎれて敵の旗艦に乗り移り、戦うべし。だって。本気?



 霧はちょっと薄くなっても、まだ薄ぼんやりとしか世界が見えないなか、十字軍と船員さんたち全員が招集されて船倉に集まる。この室内は霧の影響がほぼ無くて、暗いけれどやっと一息つけた気持ち。

 集まってもらったけれど、相談できることは少ない。一般団員には(オール)を漕いでもらう組にまわって、実力者組でとりあえず潜入調査、必要があればバトル。焼き討ち。以上。


 今回は爺やとゲンコツちゃんもお留守番。六人衆のファルディンが守備責任者。アーラマンちゃんはバトルと聞いた瞬間に長かった船酔いから復活。やる気150%だ。

 あと、オーク語がすこしわかるというキルス団員を通訳として同道させることになった。普通の人だけど大丈夫かな? 顔色が悪いよ。



 じっくり集中して気配を探ったところ、オーク族の船は4艘。どれも、この船の4,5倍は大きい。それぞれに何百人も乗っているようで、詳しくはわからないけれども前から2番めの船が特に乗員が多く、雰囲気もピリピリしてる。

 じゃあ、まずそこから当たってみよう、ということになった。


「その数では本格的な侵攻というわけではありますまいが、外交使節団にしてもまだ小さい。

 おおかた、威力偵察、後方奇襲からあわよくば引っ掻き回せるだけ引っ掻き回してやろうという魂胆かと。

 その指揮官は裁量権が大きな仕事ですから、ザコでは務まりません。それなりの大物のはず。姫、これは大手柄、いけますぞ。」


 ヒソヒソ声ながら、熱を感じるハーさんの解説。いまだ理解が半端な武神流アーラーマン、サウレ流オミードの両者も声は出さないが、熱気を吹き出している。

 私と、この3人、そして通訳のキルス団員。この5人で、たぶん500人くらい乗ってる船に殴り込みだ。


 乗り移りには、(カギ)付きロープを投げて(つた)っていくんだって。ハーさん、なんでそんなこと出来るの?っていうか、そんな物もってたの?小規模の砦攻めに役に立つ?へぇ。

 アーラマンちゃん、それ、できそう?腕力があれば何でもできる?あら、そう。

 わたしはネ、ムリよ。そんな、ロープ一本登っていくなんてコワイこと絶対ムリ。ハーさんの背中にしがみついて運んでもらうわ。あ、またゲンコツちゃんに睨まれるから、みんな黙っておいてね。


――――――――――――――――――――――


 オーク族の本拠地は遥か東北の草原で、海軍があるなど聞いたことがない。キルス通訳がぼやくと、侵略して行く先々の国で接収してるんだろう、とオミードがささやき返す。

 もしも、全部わたしの見当違いで、オーク族じゃない普通の船だったらゴメンね。アイシャが無言のまま、誰からも見えない角度から片手拝みでこっそり謝る。


 ハーフェイズが鉤縄をブンブンと振り回し、シュゴゥッと先端を放り投げ、ガゴっと目標の船の船縁(ふなべり)に食い込ませる。こんなに大きな音を出して大丈夫? 口に出しても仕方がないので目で語りかけようとするアイシャだが、相変わらずの霧で、伝わったか、どうか。

 どのみち、スピード勝負だ。別の縄で体をくくりつけたハーフェイズとアイシャがするすると敵船に取りついていく。続いて、オミード、キルス、安定感ある大兵のアーラーマンが乗り移る。



「みんな、すごいねぇ。剣の技が使えるようになっても、落ちたら死ぬとか、コワイのはわたしダメだわ。」


「なぁに、姫様ならロープ渡り以外の技で何でもやってのけなさるでしょう。…おいキルス、休憩はもういいだろう!」


 キルス通訳はロートル多めの十字軍のなかでは若いほうで、外見的には一般人男性平均よりずっとゴツいが、このメンツのなかではヒョロヒョロの小男と呼ばれても仕方がない。巨人サイズのアーラーマンさえロープ移動を目にも止まらぬ速さでこなして平気な顔だが、語学で一芸入団の青年はハナからダウン寸前で、休憩が必要だ。


 空いた時間で、アイシャは気配を探って目標の位置を定めようとするが……



「見られちゃった!」

「何です?」


「向こうさんにも、気配が見える人がいたみたい。お互いの位置から気持から、筒抜けだよ。二人でビックリしただけだけれど。初めてだ、こんな風になるんだね。」

「では、どうします。」


「どっちみち予定はなかったけれど、初手焼き討ち案はボツだね。正面から堂々話し合いに行こう。キルスっちゃん、頼むよ!」


 

 いちおう、ハーフェイズとアイシャは一国を代表してギリギリ恥ずかしくない一張羅を着てきた。オーク族だとまだ絶対に決まったわけではないし、敵だとしても、ザコじゃないらしい敵指揮官と向かい合うこともあろうかとの気遣いで、先日、平服で王宮に入り込んだ時の反省が活きている。

 堂々とすることに決まったので、焼き討ち用に持ってきた松明(たいまつ)に火縄の火口(ほくち)で明かりを灯し、物陰から皆で姿を現す。

 敵兵の気配も、中央からバタバタし始めている。末端にはまだ指示が届いていない。ということは、あわただしい方に行けば指揮官に近いわけだ。シンプルだね、と笑うアイシャに、「コワイのはダメ」と言っていたのはどういう意味だろうとキルスも、オミードさえ納得がいかない。



「Min int!」

 霧の中から誰何(すいか)の声が響いた。先頭のハーフェイズに言葉の意味は通じていないが、

「見回りご苦労!」

 きわめて尊大に、相手を見もせずにこちらの言葉で返し、足を止めもせずに通り過ぎる。


 すれ違いざまに「下がってよし!」とアーラーマンが威圧し、キルスが早口で通訳し、一団はむしろ歩みを緩めて傲然(ゴーゼン)と去る。

 兵たちは戸惑いつつも、相手が明らかに相当の武人であることは通じたので、外国のお偉方でも乗っていたのかと敬礼で見送った。


「無駄口のない、良い兵ですな。」

「そういうものかしら。」


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