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120 ジュニア 2


「あんまりショボくれてて気の毒だから、せめてお茶でも、と思って見に行ったら、ついてきちゃった。」


 野営地にて。

 強面の巨漢たちに囲まれながら適当な朝食を(むさぼ)る男・ジュニアに関して、アイシャからの説明が入る。


「やっぱり、思い出せないな。思い出す価値がない顔だと、昔の(それがし)は判断したんだろう。」

 ハーフェイズがクズを見る目で男を眺める。


「さっさとつまみ出しましょう。あるいは、最初から居なかったことにしてもよいのでは。」

 アーラ―マンがさりげなく葬ることを提案する。


「待って。待って、俺、味方だよ、あンたらの。ウチのババァに言われて来たんだよ。使い捨てにちょうどいい雑兵を、あー、91人だっけ?連れてきたから、一緒に行こうぜ!」


 話を聞けば、その使い捨て兵とは先日の悪人退治で逮捕された、自称“憂国の志士”たちで、自称“国の無策を(ただ)さんと立ち上がった一騎当千の猛者たち”であるとのこと。要するに王都から追放されて、ちゃんと働けば帰れるかもしれないから、働いて死んでこいと命令された部隊であるようだ。

 ファルナーズ大将軍の厚意の増援部隊ではあるようだが、邪魔なお荷物だとしかいえない。



「うちら、船で行くからご一緒できないよ。」

「マジで? さすが聖女隊は贅沢だな! じゃあこうしよう、憂国隊はそのままウチの執事のカビアに率いさせて街道を歩かせるから、俺だけアイシャちゃんに同行するわ!」


 アイシャは十字軍を代表して即断で断るが、男はむしろ清々(せいせい)した表情で単独の随伴を申し出た。


「馴れ馴れしいぞ、クズ。」

「ひとりで歩くがいい。」


 十字軍の恐ろしい顔2巨頭が噛みつかんばかりに接近しても、

「ババァからは何としても聖女ちゃんを惚れさせて味方につけろって厳命されてるんだけどさ、俺ァ、キミのツレのでっかい娘が好みなんだよな。あの娘どこいんの?」


 などと取り付く島もなくヘラヘラとしている。これは、いままでわたしの周りにいなかった人種だぞ。アイシャは警戒の度を強めつつ、しかし、どうしても聞かなければいけないことを口にする。



「でっかい娘って、背丈のでっかい方? おっぱいの?」


「そりゃあ、どっちもでっかい黒髪の娘さ。」


「皆さん、この人は信用できます。連れていきましょう。」


 我が意を得たりと大きくうなずいたアイシャは、独断で仲間たちに宣言する。


「師よ?」「姫様?」


「ヤクタの魅力をわかるオトコが出てきたんだから、これは逃せないわ。妙な度胸もあるみたいだし、これは面白いことになってきたよ! あ、彼女は後続隊だから合流はしばらく、おあずけ。」

「そんなァ!」


 アイシャにとってヤクタは、暴力では勝ち、社会性では負け、女子力勝負では決して負けられないライバルだが、自身、あの“でっかいの”のことが大好きだ。その上で、サディクのことで一方的にからかわれてばかりで反撃できないことに歯がゆさを強く感じていた。

 もし、ヤクタが誰かに恋に落ちたら。そんなの、見たいに決まっている。冷やかし7割、幸せを願う気持ち3割で、この男とヤクタの傾向と対策を練るプランが素早く脳内に構築されていく。

 とはいえ、多少忙しくなるとスッポリ頭から抜ける程度の熱心さではあるのだが。



 将軍家から派遣された“憂国隊”は、夜の間、宿場に戻って泊まっていたらしい。朝になって再び現れ、あの男・ジュニアと合流。打ち合わせ通り別路で、ジュニア付の執事・カビアが納得はできないまま、命令とあらば従う習性に逆らえず、主人を残したまま隊を率いて行った。


 我らが十字軍とジュニアは船で大河を進むべく、予定通りワスーカ湊へ行く。

 この港町は王都にほぼ隣接する港で、軍事的・政治的にも大きな役割を持つ。当然、王家がガッチリと管理権を押さえており、現在の代官はマリカ王女みずからが務めている。

 王女からは表立っての支援はできないと言われていたが、カーレンが拍子抜けしたほどスムーズに船便の手配ができたそうだ。


「なんだか、全体的に順調すぎて怖くない?」


 アイシャが漏らした不安にゲンコツちゃんもうなずくが、ロスタム爺やはそういうものではない、と言う。


「物事にいい風が吹いている時はこういうものでして、ここでビビって勝負を降りると全てを失うもんで。よく、よくあることです。」


 含蓄があるような、それ本当?っていう気分になるような。首をひねっている間にも馬の歩みは止まらず、やがて、対岸が霞むほどの水域、“動脈”の名を持つアルタリ河の土色の雄大な流れが視界いっぱいに広がる。

 その川の水を引き込んだ、貿易港と軍事拠点が半々の町が目的地だ。なお、一般の商家はもっと下流にある大きな港町で商業活動をしている。


 カーレンとハーフェイズが“先生”ことカミラ侍女と打ち合わせ済みで、正門を避けて裏門に回る。

 待ち受けていたヤクザのような男たちが「万事、お任せください」と案内を申し出て、それに倍する強面のハーフェイズ、アーラーマンに、やっぱりヤクザじみている十字軍の面々を引き連れていく風景は「いったい、コレどうなっちゃうんだろう」とアイシャの居心地を悪くさせるに十分な禍々しさ。隣のゲンコツちゃんやロスタム爺やも十分にイカツイ。まさかジュニアのふぬけ顔が癒やしになるとは思っても見ないことで、親切はしておくものだなぁと場違いな感想を抱くのだった。


 不安は晴れないが、とにかくここから川を下り、いくつかの支流を渡って数日かけて戦地へと行くことになる。


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