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115 義勇軍結成


 100人の男たちが道場に(つど)っている。

 100人はたくさんの数だけれども、あの地の端までの陣地を築くオーク族に、この部屋に収まる人数で戦いを挑むのは我ながら「マジで?」と思わざるを得ない。まあ、サッちゃんの軍が主で、わたしたちはオマケでおいしいとこ取り狙いだ。サッちゃん軍は具体的に何人なんだろう。


 そして今は、ハーさんが集まった人たちに訓戒を垂れている。

「志願したからには栄誉や財貨は天上で得るものと心得よ、神と国と民のために我々は立ち上がったのだ!」みたいな。

 さすが本職、非常にサマになっていて見るからに雑多な男たち、ヒラ志願兵の立ち位置に納得していない六人衆たちも緊張感をもってこの場に立ってしまう演出力がある。でもハーさん、あなたは暴れたかっただけだよね。


 六人衆は格下扱いを不承不承な面持ちだけれども、あなたたち6人がかりの実力でハーさんに負けてるでしょ。幹部の座は本番で勝ち取ってね。



 ハーさんに続いて、“神の子”ゲンコツちゃんからの挨拶。急に指名されて戸惑ってる。この子も、“神の子”を譲るからやってくれと言われて、なんだかんだすっかりやる気になって、その積もりでいるんだから大したものだよ。

 それも、あわあわしていたのは初めだけで、「この度はご参加いただきましてありがとうございます、力を合わせて神の名の下いっしょに頑張りましょう」とか上手く挨拶してる。道場の代表代理で鍛えられてるんだなぁ。偉いな。


 と、のんびり構えていたら、「超聖女アイシャ様」の指名を受けて、わたしからの挨拶の番だって。聞いてないよ、先に言っててよ。えぇ、言われなくても準備しておくのが“そういうもの”なの? 困るわぁ。



 ワァッ、と、100人からの義勇兵たちの歓声を受けて壇上に立つ。

 なんとなく雰囲気に押されて100人の前に立っちゃったけれど、これって何を言えばいいんだろう。ふつうの挨拶はさっきゲンコツちゃんがやっちゃったし、違うことを言わないとダメだろうか。でも、頭真っ白。やっぱり流されて動くと良いことがない。


 義勇兵さんたちはわたしが何を言うのか、すごく期待したキラキラの目を向けてくれている。六人衆は人波をかき分けて最前列に移動してきて、お酒に酔ったみたいな顔で、もし空間が広ければひれ伏したであろう勢いだ。

 あの顔をこれからわたしのグダグダの挨拶で曇らせてしまうんだと思うと、お腹の奥から心臓にキューッとしたものがせり上がってくる。申し訳ない。けれども、これは先に言ってくれなかったハーさんたちの責任だから。わたしのスピーチのせいで義勇軍が解散しちゃってもわたしは悪くない。



「あー、おはようです。私が、聖女さんであるらしいです。

 こんな恰好をしていちびっていていまさらですが、自分自身いまいちよくわかっていません。」


 ざわざわと、動揺する気配が義勇兵の皆さんから漂ってくる。でも、わたしが大声を張り上げてもいないので、話を聞こうと耳をそばだててくれている。


「わたしのことを皆さん、ぜんぜん知らないと思うので、すこしお話しします。

 私の家はヤーンスという町の小さな糸屋さんで、母は早くに亡くしていましたが、お父ちゃんとお兄ちゃんとで平和に暮らしていました。それが、オーク族…モンホルース帝国の侵略で、父も兄も亡くしてしまい、ひとりになりました。」



 グッと息が詰まったのは、やっぱりまだ言葉にするとつらいから。でも、ざわめいていた皆さんの意識がスッとこちらに集中してくる。膝は震えるし、全身の汗がひどいし、喉が渇いて声がかすれる。この状態が苦しくて涙が浮かんできたけれど、話を続けなきゃ。


「そんなわたしを支えてくれた友達が、戦争と国の都合で意に沿わない運命に遭おうとしています。今あんまり詳しいことは言えませんが、それを(くつがえ)すために皆さんの力をお借りして、オーク族と戦いたいと思っています。

 皆さんも、それぞれ想いがあってオーク族との戦いに加わることを決意していただいたんだと思います。この間、ハーフェイズさんと話したらこの100人のうち半分ほどは死んでも仕方ない計画になっちゃってるそうです。でも、なるべく皆さん誰も死なないように、生きて帰ってみんなで喜べるように。わたしも頑張りますから、よろしくお願いしますっ!」



 いいのかコイツ、こんなこと言って。と、後ろでヤクタがカーレンちゃんに耳打ちしているようだけれど、勢いまかせで言っちゃったわたしがそれをいちばん知りたい。

 会場は、その一部を除いて静まり返って、ピンとした緊張が張り詰めている。数秒か、数分か、自分の頭がぐるぐるしてわからない沈黙の時間を破ったのは、六人衆・アーラマンちゃんの声。


「姫聖女聖下の御心(みこころ)のままに!」

 他の六人衆も続いて「応っ!」と声を張り上げる。次いで、「超聖女、いや姫聖女聖下、万歳(フラー)!」と会場の中ほどで拳を突き上げたのは草ちゃんの飼い主・サウレ流のオミード氏。

 六人衆の勢いには引き気味だった皆さんも、頼れる感じの男には乗っていって、次第に道場は割れんばかりの歓声に包まれた。

「おぉーっ!」と、叫び声、手を打ち鳴らし、床を踏み鳴らす音圧に体が震える。


 とにかく、この場は無事に済みそうで、助かった!



 ありがとうございました、と頭を下げて(さが)る前に、言っておくべきことがあった。

「義勇軍の編成にあたって、わたしはハーさんを連れてきたのと王子様、王女様と将軍さんとお話ししたくらいで、難しい仕事をしてくれたのはこちらのカーレンちゃんです。彼女の機嫌を損ねると全軍が餓えるので、皆さん、いうことを聞くように。唱和しましょう、“カーレンママ、ありがとうございます”。さん、はい。」


「カーレンママ、ありがとうございます!」

 野太い男たちの声が響く。これだけ息が揃うなら、いろいろ安心だ、たぶん。


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