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114 出立前夜


 急な話で、明日出発という運びになってしまった。そういうことで、わたしとヤクタ、シーリンちゃんでおしゃべりできるのは今晩かぎり、当分の間ない。


「ひと月もしない、たぶん20日くらいで追いつけるから。さ、さ、無事の再開を願って!カンパーイ。」


 シーリンちゃんが音頭をとって、グラスを合わせる。ああ、こんな感じも初めてだ。考えてみれば、シーリンちゃんとも出会ってまだ20日くらいだ。ヤクタとも、1年も半年も前からの関係じゃない。でも、数日でも離れたくないと思ってる。

 つくづく、ひととの縁は時間じゃないんだなあと思う。



「自信がないんだよ。せめてゲンコツちゃんと打ち解けたいんだけど、どうにも距離感があるんだよね。」


 ここ数日の悩みを頼れる友人たちに打ち明ける。目的地までの道のりは15日ほどらしく、その間の道連れなのに、敵を見る目で見られていては、なんというか、イヤだ。

 町で暮らしていた間でも距離感を縮められない子はいたけれども、そういう子は一緒にいなくてもよかったから。

 だから、いま困ってる。どうしたらいいの?


「殴り合え、ちゃんと。そうしたらダチさ。」

 ヤクタならそうだよね。でもわたしの“技”は、そういう爽やかな感じにはならないと思う。


「うーん、そうねぇ。(ひとの顔をからかってゲンコツちゃんなんて呼んでる時点で駄目じゃないかな。)」

 渋い顔をしてないで。シーリンちゃん、あなたが頼りです。


「それは、占いよ、うらない。女の子のコミュツール。バカにならないのよぉ?」


「占い? おまじないとかの?」

 予想外だけれど、そういえばみんな大好きだった。詳しく聞かせて。

「石投げ占いとか、髪の毛占いとかのアレか?ハッ!」

 ヤクタはせせら笑うけれど、わたしは嫌いじゃないからね? 


「占いの効果は、グループ作りにあるのよぉ。テンからバカにするオジサンどもは、論外の外敵。身内グループは同じ占いを信じる決まりにして、近いグループには似た占いを信じてもらうの。そうすると敵対グループは相容れない占いを信じるように向こうが決めるから。そうして敵味方をつくって、身内の結束を強めるの。」


「そうなのかな、そうかも。え?でも、それってどうなの?」

「アイちゃんはどんな占い派閥だった?」


 言われてみれば、ウチはお兄ちゃんがそういうのバカにする性格で、影響を受けてわたしも本気でやらなかった。それがダメだったの? 泣きそう。あ、アレに参加したことがある。そうだったことにしよう。


「わたしは、歌占(うたうら)の派閥だったかな。呪文を唱えてから道を歩いて、最初の交差点で聞こえてきた歌が運命に関わるっての。みんな恋の歌とかになってキャーキャー喜んでたのに、わたしがやったら意味分からないキモチワルイ歌しか出なかったから派閥を追放されたんだ。」


「あ、ごめんね、悲しい過去があったなんて……」

 いや、そこまでじゃないから。一瞬、空気が淀んだところでヤクタが口を開いた。



「あー、ところでアイシャは聖女になることはもう納得してるんかね。」


 してないよ。でも思ってたより問題が大きくなっちゃって、まず今はこれで押し通して、それからのことはそれから考えようって感じ?


「ふゥーん。じゃあ、サディクっちに抱かれちゃえば、聖女の資格なくなってしまうんじゃね? そんで、サディクっちに振られてしまえば、あとは自由じゃん。そうしなよ。」


 そうなの? 抱かれたら、それだけで聖女失格? なぁんだ、そんなのでいいの?


「ちょっとオジサン、ヤクタのおっちゃん。あんたはアイちゃんをどうしたいの?」


 シーリンちゃんが怒ってくれてることでヤクタが言ってるのがなにかの隠語なのは察せたけれど、どうなるにせよサッちゃんとはお話し合いが必要だ。ある意味、武神様と会ってからの一連の問題のクライマックス、決戦といえるかもしれない。


「昨日買った勝負下着はその時のアレだからな、大事に持っておけよ。」

「まかせて!」「このおっちゃんは……」


 そう、昨日のショッピングで最強の装備を手に入れているのだ。具体的にはシーリンちゃんにも言えないが、あれを装備したならば誰にも負けない、負けられない背水の陣だ。オトナのオンナ計画の総仕上げともいえる。勝負はわたしの得意分野じゃないけれど、今からちょっと楽しみだったりする。


「心配だわぁ……」

「そもそもアタシらがコイツを心配する理由がどこにある。何だってケロリとやってのけるさ。」


 ヤクタの言い方は心外だけれど、それよりヤクタとシーリンちゃんの雰囲気に親密感が増しているようなのが気になる。そもそも、わたしが中心の友達の友達関係だったはず、この二人は。

別々の友達同士が仲良くしてくれるのは嬉しいけれど、「友達を盗られたー!」って、こんな気持ちかもしれない。みんな仲良くしてほしかったはずなのに、なんだろうコレ。



 翌朝、現状としては広すぎたゲンコツ道場の広間に義勇兵100人が集合した。

 六人衆、サウレ流オミードさんの偉丈夫を筆頭に、武力にして30~60くらいの無骨そうな、若者というよりも少し年上くらいに見えるルックスの男たちだ。女の子も募集するべきだったと後悔したけれど、その子らに何をやってもらおうかと思うと、やっぱり現状しか仕方なかっただろう。

 とにかく、この手元のカードからスタートだ。


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