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113 準備完了

 あんまり腹が立ったものだから、かなりオトナ()なく腹立ちの気持ちをバラ撒いちゃって、辺りには泡を吹いて倒れてる悪人たちがゴロゴロ。気がついたら、カーレンちゃんに頭を(はた)かれていた。騒ぎを聞いてケンカを切り上げて駆けつけてくれたんだろうけれど、ひどい。


「ひどいことなんかない。アイちゃんは、自分をどういう方向にプロデュースしていくつもりなの?」


 えーっ、難しいことを言うなぁ。あ、(アシュブ)ちゃん、大丈夫だった? 頬ずりしてくれるの?優しいねぇ、お前は。あぁ、やっぱりこういう感じだよね。

「わたしは、かわいくてオトナ綺麗でもあって、優しくてみんなに愛されるアイシャちゃんをいつだって目指してるよ。」


 聞かれたので答えたが、アドバイザーを買って出てもらっているこの友人はうつむき加減に首を振って、ため息混じりに言う。

「死屍累々の只中で笑ってる女の子ってどう思う?」

「気持ち悪いひとだね。」


 おや? ひょっとして、わたしのこと? そして、観客の皆さんも、ちょっと覚えがあるゲンコツちゃんも、もしかしてそう思ってるの?

「カーレンちゃんは、どうしたらいいと思う?」


「ひとまず犠牲者の皆さんを、介抱したらいいんじゃないかしら。」



 道の真ん中で倒れている男たちを介抱する、という言葉のもとで、馬泥棒たちを縛り上げて然るべき場所まで移送してあげる。それに関しては、お店の店員さんや、迷惑をかけられてきた近隣住民のご協力におまかせだ。


「押忍、ひとつ、お聞きしたいことがあるス。」


 どうしたのゲンコツちゃん。あなたのほうがひとつ年上なんだから、普通に話してくれていいよ。


「押忍、それじゃあ。えっと、みんなに愛されたいって言ってたじゃないスか。それは、敵とか、オーク族からも?」


 なるほど、考えてなかった。さすが、勝負の世界に生きるひとだね。どう答えようか、そりゃあ、敵だってオークにだって、嫌われたくはないよ。でもね。あ、ハーさんに愛されたいって言ってるんじゃないんだよ。誤解しないで、そこは深読みしないでね。

 ん? ハーさん、何かある? どうぞ。


「師よ、これから我々は100人の義勇兵で戦地へ向かうわけですが、完璧に上手くこなしたとして、その内10人は陣地内で病死。10人は戦死。30人は戦いのなかで逃亡し、王都まで逃げ帰れる者、野垂れ死ぬ者、逃亡中に盗賊になって討伐される者などがいましょう。負傷するものも少なくありますまい。

 戦争で勲功を挙げようというのだから、どうしてもそうなります。いま申しましたのは上手くやってのことで、下手をすれば100人全員が逃亡兵になります。

 もちろん、兵に恐怖されながら言うことを聞かせる役は(それがし)がやりますので、師とシーちゃんには愛され役をお願い致します。が、敵を気遣う余裕はありません。敵への情けは、勝ったあとでお願いします。


 まずはこのやくざ者どもの頭目をあらゆる手段で聞きだして、義勇軍出陣の儀式として出立にさきがけて奴らを討伐しましょう。演習にちょうどいい!」



 本気ですかハーさん。いや、わたしやカーレンちゃんよりよほど本気だ。ゲンコツちゃんも共々、わたしとシーリンちゃん二人の3人で抱き合って震え上がっちゃう。

 “こうしたら上手く行くじゃーん”って知恵じまんで“策”を楽しんできたけれど、話が進んでくると、人死にの計算まで入ってきて、楽しんでる感じじゃあ済まないよね。

 一応言っておくと、最初は自分まで参加するつもりはなかったんだ。聖女云々が後から入ってきて抜けられなくなってさ。でも、実際人が死ぬ話なんだから、無責任にしちゃダメだったんだ。なるべく、義勇軍の応募者が50人も死なないように頑張ります。つらい。


 なんとなく難しい空気のまま、この場は解散になった。


 カーレンちゃんとお婆さんのケンカは、「どうしてそんなウマい結婚話を蹴るんだ」「どこがウマいものか耄碌したのがわからないなら墓に潜って旦那に聞いてこい」「あの男はまだくたばっておらぬわ、この間、よりを戻そうって来おったから「もう遅い」って叩き出してやったわ」「金と引き換えにクソ男の面倒見させられた己の人を見る目のなさも考えずに他人の結婚に口出しするんじゃない」「クソが」ガラガラガッシャン、という「商談」であったらしい。聞いてるだけで、つらい。


 全般的にダメだったんじゃん、と思ったけれど、チンピラさんを追い払ったのでその報酬、って金50枚を出してもらえたそうだ。それにしてはずいぶん多くない?って聞いたら、素直じゃないんだから、って。

 人格否定レベルのケンカをしながらも仲がいい関係性って、わたしにはまだちょっと難しい。



 ()くして、人員とお金が揃いました。


「そういうわけで、アイちゃんたちは明日出発です。」


 その夜、関係者を集めてカーレンちゃんが発表した。えっ!?

 ハーさんは鉄面皮のままガッツポーズ、ゲンコツちゃんは放心。


 話は長かったのでまとめると、食料など物資を集めるのは約束段階では順調だったけれど、細かく国からの嫌がらせが入って現物の搬入に手間取っているらしい。なので、義勇軍のお披露目式をやって、出発する行列に直の寄進のカタチで路上で物資を受け取って、そのまま戦地へGo。

 そういう計画らしい。でも、それで一度に必要ぶん全部集めるのはムリなので、軍を先発隊と後遣隊に分けて、先発をわたしとゲンコツちゃん、ハーさんで征く。後遣隊はカーレンちゃんが残りの事務処理をしてからヤクタを護衛にして、なるべく早く追いかける。


 本気?本当?わたしを独りにするの? 六人衆をつけてくれる、って、そういう問題じゃないよ。寂しいじゃんか。

 いやそれより、残る方が国からの嫌がらせをもっと受けるんでしょ? 心配だよ。シーリンちゃんはカムラーン流で大丈夫だろうし、ヤクタはまぁ大丈夫なんだろうけれども。でも本当に? じゃあ、六人衆の半分は後遣隊に回すね。


 六人衆。アテになるかしら?

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