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112 愚連隊


 義勇軍結成の準備の最終段階、現金(キャッシュ)の確保のためにスポンサー募集をしています。

 午前中に行った伯爵さんの所が思った以上に大口の寄付をくれたので、もうこれだけでいいんじゃないかなとも思いつつ、午後からもう一箇所、カーレンちゃん旧知のドルリ婆さん商店に来ました。で、今はカーレンちゃんとお婆さん店主で商談中。わたしたちは別室でお茶。

 そのとき、商店表にやくざ者が到来。難癖をつけて、金を出せと騒ぐ。



 さて、わたしには2つの選択肢がある。野次馬気分と後学のために商談を盗み聞きしに行くか、野次馬根性とエンターテイメントのためにハーさん・ゲンコツちゃんコンビの悪人退治を見学するか。


 ソワソワしていると、突然、どこからか大きな音が響いた。ものが壁に投げつけられた音、ガラスが割れる音、雑多なものが床に散らばる音。擬音にすれば、ドンガラガッシャンガラガラゴシャン。さらに、老婆のわめき声、若い娘の抗う声、言葉まではわからないけれど、ギャースカピーと表現できるだろうか。

 やくざ者の騒動じゃなくて、商談のケンカだ? うわぁ、これはヤバイ。逃げよう。



 やくざ者は倒せば済むけれども、お婆ちゃんは倒せばOKとはいかないだろう。もしかしたら済むかもしれないけれども、試してみるのもコワイので、倒せる方に行こう。

 今回、商会の貴賓用の玄関から奥の間に通されていたので、商店表の入り口は見ていない。そういえば、カーレン家の商売のお店というのもいまだ見れていない。話の感じからいえば似たような感じだろう。ちょっと楽しみ。


 ハーさんたちを追って、お店スペースに踏み込む。

 広さはかなりのものだが、案外に地味だ。売ってる物自体が地味だからか。きらびやかな高級品売り場なら小じゃれもしようものだが。

 広間にたくさんの店が並んでいて、商品が陳列されている。その中央の比較的開けたスペースで、数人の自警団?の若者と、ハーさんがにらみ合っていて、若者は既に剣を抜いている。ハーさんの足元には派手な身なりの若者がひとり転がっていて、今ゲンコツちゃんがそれを縛り上げている。対処が早いな。


 そのほか、もとからいたお客さん、店員さんが隅っこの方で事態を心配そうに見守っている。そんなピリピリしたところに、店の奥の間からカワイイ女の子がど派手な装束でポテポテと小走りに現れたものだから、みんなが動きを止めてわたしを見ている。

 苦手なシチュエーションではあるけれど、人生の目標としてチヤホヤされたいということを打ち上げたものなのだから、慣れていかないとね。



 妙に静まり返っているなか、手近な陳列台に置いてあった小さい木切れを掴んで、やくざな若者さんが持っている剣に向かって投げつけてみる。

 武神流の技でなければ、いままでナッツの殻をくず籠に投げるのにも前に飛ばせた覚えがないわたしだけれども、この固くて重くて突っ張らかる服を着ていても、技の威力で狙ったところに正確に投げられる。

 投げた木切れは狙い通り、その剣を砕いて、その欠片(かけら)と一緒に真下の地面に落ちる。周りに被害を出さない絶にして妙の力加減、我ながら惚れ惚れするね。


「はい、捕まえてあげてね。ハーさん、あなたなら息をフッてやったらそんなひと倒せるでしょうに。」


 まわりがなんとも言えない空気に包まれているけれども、まずはハーさんが目の前の男にフッと息を吐きかける。もちろん何も起こらず、余計にどうしようもない雰囲気が流れる。

 違う、そうじゃない、やり方があるんだよ。仕方がないのでハーさんの後ろに回ってそのお腹に右手を当てて、背筋に左手を当てて、「ハイ、空気吸い込んで。そのまま!この辺の気をこっちに回して、溜めて、抜いて。新しい気が湧いてきたのを肺腑に回して。全部一気に!」


 

 轟っ、と、空気だけではない何かの流れ、武神流ではこれを気と呼んでいるみたいなのでそう考えているけれども、それがハーさんから正面に叩きつけられる。そこはやくざな若者の顔面。若者は全身を硬直させたように顔から跳ね飛ばされ、キレイに半回転して頭のてっぺんを地面にぶつけて、ぐにゃりと崩れ落ちた。


「できたじゃん! 体が大きいと派手だねぇ。いやコレ生まれたよ。天剣・ハーフェイズの新たな伝説! ラーミンさんもいてもらったら良かったかもね。」


 よくできた弟子を褒めてあげる。ハーさんはごつい体を屈めて照れていて、ちょっと気持ち悪い。

 他のやくざ者と観客の皆さんは「天剣!」「あの!」「まさか、ハーフェイズ!」とどよめいて、あるいは逃げ腰になったり、あるいは興奮したり。

 そしてゲンコツちゃんは鬼の表情をしている。ん?あぁ、わたしの姿勢、ハーさんに後ろから抱きついてお腹をさすさすしてるカタチだもんね、やらしかったね。取ったりしないから安心して、許してちょうだいね。


「ということは、そちらは若聖女様!」

 もう、それでいいのはいいんだけれど、わたしはどう反応したらいいんだろう。募金をお願いするとか?義勇軍に寄進をー、とか言ってお鉢を持って回るの。あんまりやりたくはないよね。

 観客の人たちは拝んだり、次の展開を見逃すまいとワクワクしていたり。やくざ者さんたちもひざまずいたものか逃げ出したものか迷っている様子。聖女って、王都ではそれほどのものなのか。


 そんな事を考えながらまごついていると、どこからか助けを求める声なき声が頭の中に響いた気がした!

 部屋の中?じゃないっぽい。カーレンちゃんとお婆さん?でもない。けれど、わたしの身近なひとだ。

 ハーさんとゲンコツちゃんには何も響いていないらしい、わたしが急にキョロキョロしだして戸惑っているみたい。でも構っている暇はない、彼らは自分でなんとでもできる。呼ぶ声は、外かな? 走り出る。



 (アシュブ)ちゃん!

 悪人の別働隊が厩から馬を盗もうとしていたんだ。嫌そうに引っ張られている草ちゃんと、慌てて出てきたわたしの目が合った。瞬間、心も通じたのか、あの大人しい草ちゃんが悪人に噛み付いた!そして蹴る!

わたしも黙っていられない!

「わたしのお父ちゃんも馬泥棒に酷い目にあわされたんだ! 自警団のやくざ者、もう絶対許さない!」


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