108 金策時
ギルドを訪れた目的は、この応募状況の確認のほかにおすすめショッピング情報を仕入れることにあった。
「旅行に持っていくカワイイ系の平服と下着を何枚かと、おいしいものの食べ溜めが必要なのよ。」
「旅行? あぁ、姫様にはオーク退治など物見遊山のオマケですよね。」
「そうか。サディクっちに会うんだから気合の入った下着が要るわな。アタシが選んでやってもいいぞ。」
そうじゃない。気合は入れないけれど、基本的には王宮でもらった聖女服の、スカートの裂けたのをアレンジして着ていくことになったので、肩がこらない軽い服が欲しい。手持ちの服が、旅行用で着たきり雀だった頑丈なダサ服と、実家から持ち出した寝巻き兼の無難な服、カーレン家から着たまま出てきたオシャレ服1着だけなのが問題。
「もっとカーレンちゃん家からちょろまかして来ればよかった。」
「ちょろまかすとか言うなよ、聖女様。」
下着だって既製品を買うなんて贅沢だ。普通は古くなった服とか、ワケあり品の布から自分で作る。苦手じゃないけど、キライな作業だった。いまはとにかく時間がないのと、せっかくの王都でファッションに散財しないなんて考えられない。
ヤクタは、服とか興味ないわけじゃないでしょ?
「アタシは、いつも拝借する側だったからなぁ。そうさな、もうカタギなんだから買わないと駄目か?」
ダメだよ。疑問形にしないで。チャリパも、感覚近いみたいな顔してないで何か言ってやって。
*
受付嬢さんからもらった情報を携えて踏み込んだ王都のショッピングストリート。
物価は高いけれど、ヤーンスの町で買える贅沢品レベルなら王都で買うほうが安い。ただ、さらに品質+1を積むたびにお値段は倍々じゃ済まされない勢いで積まれていってキリがない。
ここで金4枚は使おう、貴族的ゼータクするんだ! と心に決めてワクワクしながら来たけれど、オーク将軍や王宮のゼータクを見てきた目で眺めると、あれ? 欲しくなったものを見たら予算に0が2つ足りない。
「さすが姫様、お目が高い。」
「いや、引くゼ。王侯の基準に慣れてるんじゃねぇ。オマエ、悪女の才能あるよ。」
聖女と呼ばれたことはあっても、悪女と呼ばれたのは初めて。いや、マショーとも言われてたわ。え、傷つく。
直前に兵隊100人を養う話を聞かされていたこともあって、結局お財布の紐は固くなってしまった。無難に安くていいものを探して、女性店員にはヤクタとチャリパの睨みを、男性店員にはわたしのとっておきの笑顔を見せて、お買い得な買い物を済ませる。
昼前から夕方までかかったお詫びに、夕食は3人で金1枚分にもなるごはんを奢ってあげたから、たぶん文句はないと思う。
おいしいものの食べ溜めが必要、って言ったのは言葉通りで、どうしても移動中に良いものを食べるのは難しい。王都行き途中の“猪、焼きました”は本当に固くて臭くてエグみがあって閉口した。わたしには良い部分の肉をもらえてアレだったんだから、六人衆たちは一体どんなものを食べたのか、考えたくもない。
このレストランは、お高いだけあって全てが上等で、満足。でもカーレンちゃん家のごちそうのほうがおいしかったから、やっぱりスゴイんだわ、彼女のお家。家出なんてもったいない。
*
日も暮れて遅い時間に道場に戻る。お土産の甘いものとお茶をもってカーレンちゃんの部屋を訪ねると、まだ書類を広げて唸っていた。お疲れさまです。
「やっぱり、100人なっちゃう? うぅん、それくらいないと恰好つかないもんねぇ。」
頭を抱えながらも、予想済みのようで動揺はない。頼もしいね。
カーレンちゃんの仕事は、食料品や荷駄の手配、武器とか揃いの装備の調達、移動手段やルートの選択などなど。人数が集まらない可能性もあったけれど、決まってからでは遅くなるから100人予定で先に始めてくれている。
計画では100人が100日くらい、最低60日は食べていける物資を確保して出発したい。現地調達は、ある程度やむなしとしても危ない。たぶんムリ。戦地への旅程は往復でほぼ30日。向こうで30日の間に結果を出したいという計算。いくら義勇軍とはいっても、全部私費で来いとは言えない。なるべく私費で、と募集してるけれど。
「おカネのことだけどね、……あ、コレおいしぃ。」
ギルド受付ちゃんおすすめのお土産お菓子は、ナッツのパイにシロップがひたひたに漬かっているもの。重たいけれど、小さくカットしてあるからデスクワークが忙しいときにありがたいらしい。うん、お話を聞きましょう。
「そう、そう。王女様からご援助いただけるんだけどぉ、まるまる全部それ頼りというわけにはいかないのよ。」
そうなの?
「そうなの。それでね、ハーさんとアイちゃんとでスポンサー回りに行ってほしいのよ。」
ふぅん。わたしは、正直やりたくないけれどやらざるを得ないからやらさせていただきますけれども。ハーさんは逮捕状出てるのに大丈夫なの?
「ご本人さんが大丈夫って言ってるわぁ。まかせろって。すごいよねぇ。自信が。」
お菓子を超つまみながらカーレンちゃんがぼやいている。この娘、まだハーさんに含むところがあるんだろうか。ここまで来たらもう仲良くしてほしいわ。あと、晩ごはん食べてなかったのかしら。ちゃんとしたごはん持ってきたほうが良かったのかな。
それはそれとして。
「スポンサー、に挨拶回り?って、何をしたらいいの?」
「アイちゃんはニコニコしてくれてたら、それでいいのよ。スポンサー候補は2つ。たくさん回る時間がないから。
1人目は、ハーさんの昔からのファンの貴族さん。ハーさんに喋ってもらって、アイちゃんは挨拶だけお願い。
2人目は、私の旧知の商家のお婆ちゃん。こっちは私が喋るから、入り口で挨拶だけしてもらって、あとは別室でお茶して待っててね。」
あ、それなら気が楽だわ。