表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第八話 十字軍

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

114/251

107 準備する日々 2


 お手紙の執筆には、その日の夜中までかかってしまった。一通り書くだけなら昼過ぎにはできたのだけれども、「散文的ですね」とカミラ先生が。

「心が籠もったような、例えば、これこの時に私はどう感じたか、とか。サディク様と想いを共有して心を近付けるための。」


 それで、カミラ先生いまだ現役の“乙女心”という美しいものにお応えしようと頑張っているうちに、半分の月が東の空に浮かぶ夜更けになってしまいました。

 日が沈んだあたりから先生の目の光が消えて表情が石のようになっていたけれど、あなたが言い出したことですからね。



 その翌日、募兵の3日の2日め。

 いち早く求人に応じてゲンコツ道場に押し寄せてきた人たちがいる。

 もちろん武神流六人衆。そして、サウレ流のマイ奥さんの夫、オミード氏。息子さんを人質に取られて悪人に捕まっていた人だ。

 顔を見るなり、彼らは地面に頭突きする勢いで平伏して、絶叫と言っていい勢いで声を張り上げた。


「姫様、この度の超聖女ご就任、大慶至極に存じます!」


 うるさいし、なんて言われたかわかんない。でも息が合ってたし、練習したんだろう。わたしたちなら、先に「せーのっ」とか言って調子を合わせただろうと考えると、お祝いの気持ちは伝わったさ。

 でも、超聖女、もうなし崩しに受け入れざるを得ないのかも。だんだんあきらめムードになってきた。しょうがないから、なった先のことを考えていこうか。


 そして、オミード氏? 考えてみれば、この方が頼りないせいで、問題が巨大化してわたしたちに降り掛かってきたようなものだ。

 姿形はアーラマンちゃん程どこもかしこも巨大ではなくても、上半身は広く分厚く、腰がキュッと引き締まった逆三角形。顔も細身で小さい、男前な感じ。確かにこの人がご近所さんなら、なにかと頼りたくなる気持ちはわかる。

「妻が迷惑をかけた、借りは返す」って言ってくれてるけれど、ちょっとやそっとで返してもらえる借りじゃないよ、わかってんの?


「馬を、3頭…」

 よし、許そう。



 ところで、サウレ流って、どこかで聞き覚えがあったような? と首をひねっていると、

「エルヤ武神様とかカムラン神様と同期の武神様でしょ? あと他に、モルヴァーリド様? カムラン神様も仰ってらしたわよ。」


 カーレンちゃんはしっかり覚えていてくれた。それだ。見た感じ、オミード氏は使徒的なのではないみたいだけれど……。ちょっと聞いてみよう。


「そのサウレ流の、そうだ、女剣士サウレ、って塔の神様は言ってたね。その神様が何かお告げしたとか、噂はないかな?」



「は…女?……いや、使徒などは聞いたことも…女剣?そんなことは聞いたことが……いや、噂はなかったです。」


 しどろもどろになってるけれど、サウレ神の使徒の噂はないようだ。なんだよ、女剣士流じゃダメなのかよ。感じ悪いわ。そんなんだから悪人に負けるのよ(難癖)。

 聞くと、サウレ流の主流は外国で、この国ではずっとマイナーなんだそうだ。対してカムラーン流はこの国のメジャーだけれど、何度か断絶してその度に奇跡が起きて復活しながら現代に至っているんだって。

 で、我らが武神流は、基本的に肉体で人を選びすぎるのでどうしても人がいない。そのせいでおよそ800年、知る人ぞ知る地味な武術でしかないらしい。

 あと、モルヴァーリド魔法騎士という名前は誰もご存知ない。わたしとしては、魔法騎士にいちばん興味があるんだけれども。


 とにかく、今日の私は寝不足だ。武神流の面々はお稽古をつけて欲しがっているけれど、眠いと危ないからね。かわりにカーレンちゃんに師範代をお願いしようとしたんだけれど、ダメだって。カミラ先生から預かっている物資などの書類仕事が山積みで、昨日から徹夜してるのに半分も済んでいなくて、道場の女将さんにも手伝ってもらってる。いやぁ、バリバリ仕事して輝いているね。



 そして3日目、募兵の期限は今日までで区切っている。

 たくさん集まり過ぎても困るから、わたしたちは宣伝とかはしていない。が、どうでしょうね。ちょっと気になります。いや、すごく気になる。受付のお姉ちゃんはお話仕立てにしてアピールしてくれているらしい、それも気になる。


 今日も六人衆+1がやって来てお稽古をせがむけれども、そんなのはいつでもできる。今日はヤクタと、ついでにチャリパも連れて、冒険者ギルドに遊びに行こう。あとで服とかも買いに行こう。お金は、サッちゃんからもらったのがまだほとんど手つかずで残ってる。



「義勇軍のメン募ですね。現時点で127名。今日いっぱいで300名には届きそうな勢いです! すごいですネ!」


 通い慣れたギルドに到着して、のっけからこんな調子。

 受付ちゃんが、ストーリーを盛り上げたわたしのお手柄ですね!と自慢気にしているけれど、前から言っていたとおり、そんなに来てもらっても困る。300人を2ヶ月食べさせる準備なんて気が遠くなるわ。


「もちろん、100名以下には絞りますヨ。冷やかし参加も多いですからね。」


 じゃあ、それでお願い。あとはカーレンちゃんとカミラ先生におまかせだ。そもそもわたしが働くつもりはなかったんだから、大人しくお神輿役をやるだけで感謝してほしいくらい。

 こんなことになっちゃって、将来どうしよう。義勇軍やって、偉くなれるんだろうか。でも偉い戦争屋さんになっても大変そうだ。今だってこんなに気が重いのに。


 ところで受付ちゃんは、どうしてこのお仕事やってるんですか。わたしもそのお仕事できますかね。


「私は、実家が刺繍職人なんですけど継げる才能がなくて。妹のほうが向いてるから、別の仕事を探したんです。でも大変ですよコレ。休み無いですし。アイシャさまは……エ、なんでですか? 聖女やらないんですか?」


 休み無いの?なにゆえ? ……働くって、辛いね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ