105 求人票 2
義勇軍メンバーの募集をかけようと冒険者ギルドにやって来たら、わたしと天剣・ハーフェイズさんに逮捕状が出ていた。どうしたらいいでしょうか!
正確には、わたしのは逮捕状ではないのだけれどもね。
「天剣様に関しては、気にする必要ないですよ。ギルドの仕事でいえば「神獣バハムートのヒゲを採取せよ」という80年前のクエストがまだ手つかずで残ってるのと同じ、放置案件になると思います。」
解説を入れてくれる受付ちゃんがなんだか楽しそう。
「それより、その一連の騒動ってどうなってるんですか? 教えて下さいよぉー、募集チラシの張り出し料とかサービスしますヨー!」
この元気さは正直にうざったいけれど、冒険者ギルドの人は味方につけておいたほうが良さそうだ。いまさら隠す必要もないことは、どんどん話しちゃおう。ただし、“神の子”は最初からゲンコツちゃんだという設定で。
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「おほぇぅ。“鉄のサディク”に熱愛のウワサは既に届いていましたが、まさか、そのお相手が新大聖女に指名されて、その2人を引き裂かんとする宰相様の魔の手……新大聖女の座を蹴って義勇軍を組織して王子様のもとへ駆けつけようとする武神姫、それを手助けする“神の子”、義心ゆえ王に反旗を翻しても従う“無敵の天剣”……まるで物語じゃないですか。鼻血が出そうです!」
「押忍、ジブンも、あらためて聞くと、これはとんでもないことだと思います。押忍。」
そんなものかしら。“鉄のサディク”。“鉄のサディク”かぁ。“鉄のサディク”なのね、あの彼。それにしても、野次馬さんが奇声を発するほどにも乗ってくると、わたしが乗りにくい。みたいなのはあると思います。
あ、これ、証拠の王子様印のハンコね。文面は恥ずかしいから見せないけれど。……あれ、何か追加で書き足してある。マリカ姫とソルーシュ王子の署名と小さいハンコだ。いつの間に、こんな。ねぇ、これってちょっとスゴくない?
「なに言ってるのアイちゃん。こんなの、国を割りかねないわ、しまっておきなさい。それに紙がヘタってきてるからちゃんとした入れ物を用意しましょう。クシャクシャになったら大問題だわ。」
そうなのかー。カーレンちゃんが親身になってくれてありがたい。ヤクタも頼りになるし、売ったり売られたりもあるけれど、わたしたちいい仲間だよね。
「こんなの、事情を明かして募兵したら、一瞬で大量に集まりますよ。いつでも娯楽に餓えて、祭りは死んでも逃さないのが王都っ子の誇りですから。
…でも、事情にちょっと弱いところがあるから、少しだけ盛ってもいいかな?」
盛る? よくわからないけれど、聞きましょうか。受付ちゃんの手並みとやらを。
「盛り上げどころとして、塔に行く動機が観光ではドラマが足りません。何かに追われて逃げ込んだことにしましょう。カーレン様とヤクタさんも、王都民的な盛り上げエピソードが欲しいですね。無ければ、ばっさりカットしましょう。
ところで、“神の子”はカーレンさんだと、前回仰っていたような?」
なるほど、盛る、ってそれね。わたしも嫌いじゃないよ、そういうの。
じゃあ、どうしようかな。サッちゃんの所からシーリン・カーレンちゃんが塔に行く必要があって、塔の目前で邪神のオーク毒蛇団に襲われるの。そこで、塔の扉が開いて中からゲンコツのシーリンちゃんがさっそうと現れるの。どう?
「押忍、勘弁してください。」
「げんこつ?……あぁ。いぇ、よくないですってそのアダ名。」
受付ちゃんは一瞬不審そうな顔をして、ゲンコツちゃんの顔を見て納得したような、生ぬるい表情で注意喚起してきたけど、それはかえってゲンコツちゃんを傷つけたようだ。
えぇ? 武闘派だからゲンコツちゃんだよ? 別の何かだと思っちゃったのかな?
それはいいとして、カーレンちゃん、役が空いたから“スカートが短い新大聖女”役を替わってくれない? 無理? そうかなぁ。
「おぅアイシャ、アタシはどんなエピソードで盛ってくれるんだ? まさか出番カットとか言うまいな。」
あら意外、ヤクタ、出たかったの? どうしよう。
それならヤクタは、えーっと、ヤクタは、ヤクタは……
「ヤクタって、いつも斜め後ろでニヤニヤしてる感じだから。急に思いつかないや。カーレンちゃんはどう思う?」
「あー……そう言っちゃう? ニヤニヤってより、クールって言ってあげて?
…私は、まだヤクタさんのアクションシーン見たことないもの。でもマネージャーさんは大事な仕事よ? そういうポジションでいいんじゃないの?」
元・盗賊団の首領はいまだ見たこともないようなショボンとした顔で、肩を落としている。うそ、そんなにショックだったの? でも、本当のことだよ?
こんな作り話の中に入れなくたって、ヤクタはいつだって私の頼れるお姉ちゃんだしさ、気にすることないよ。ね?
じゃあ、その辺をまとめるのは受付ちゃんにお任せしちゃおう。あと、募集期間はどうする?
話を変えると、そっち責任者のカーレンちゃんが眉をしかめる。
「考えてみれば私、サポートは任せてって言ってたけど、正直、10人くらいになると思ってたのよ。その時は実家のお金も当てにするつもりだったし。何十人も集まったら困るわよ。」
ヮォ、そうだったんだ。じゃあ、募集期間は3日にしよう。たくさん来られても困るけれど、ゼロだと恥ずかしいし。でも最低6人は来てくれると思う。物資は、王女様に頼もうかな。助けてくれるって言ってたし。多すぎになっても、サッちゃんとこに持っていけば余るってことはないでしょ。
その手配ができ次第の出発ってことでどうかな? 物流マネージメントのプロのカーレンちゃんと、実践のノウハウ豊かなヤクタ。
あ、王女様との連絡係とは魔法道具で連絡できるんだって。すごいね、王家。
「そんないい話があるなら、それで。」とは、カーレンちゃんとゲンコツちゃん。
「……」
ヤクタさぁ、拗ねないで。ほら、帰りにお酒飲んで帰ろう?それでいい?……ホントにいいの? それで。