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迷子の無双ちゃん ふわふわ紀行 ~予言と恋とバトルの100日聖女は田舎の町娘の就職先~  作者: 相川原 洵
第七話 王宮にて

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挿話 ハーフェイズ


 王都鎮護(おうとちんご)要石(かなめいし)、この三百年間で世界最強の男、そういった名誉を(ほしいまま)にし、呼ばれ飽き、呼び飽きられた末に短く“天剣”の二つ名を与えられた男、ハーフェイズ。

 出自は、本人も含めて誰も言わない。捨て子だったという噂が聞かれることもあったが、現在、それを口にするものはいない。


 彼が7歳の頃には腕力で外殻都市の隅のひとつの実質的な支配者になり(おお)せ、大人・老人の男たちを支配していたとの伝説がある。それを肯定する証言はあっても、否定できる記録はない。

 規格外の子供ではあったが、子供は子供であった。一都市の主の座は魅力的であったが、その仕事内容は魅力的ではなかったようで、ある日気まぐれに、後任を指名して行方をくらませた。ただ、その後任がそれなりの人物であったことは、彼にそれなりの政治センスがあったことをうかがわせる。


 その後しばらく、彼、ハーフェイズがどこで何をしていたのかは本人以外に知る者もいないが、13歳になった彼はカムラーン兵術道場の門を叩く。

 本人(いわ)く、「城門をくぐるのに意外に騒ぎになった、いい場所に地味な道場があって(かくま)われるのに都合が良かった」という消極的な動機だった。しかしここで、彼は4日で時期当主の座の内定を得る。道場や、他流の誰もまともな敵にはならなかったのだ。


 16歳の時、ベフラン少年10歳と出会う。間諜としてのエリート教育を受けるベフランもまた、この年齢にして目標に不自由する天才性を発揮していた。だが、この時点で少年たちの年齢差は対等な関係を結ぶにはいかんともしがたく、数年の間、師弟関係が結ばれることになる。

 そして8年、力を持て余していたハーフェイズは他にやるべきこともなく、ベフランに己の技を叩き込む。

 なお、やくざ者60人と衛兵40人の(いさか)いに乱入し、最終的にやくざ者200人と衛兵500人を叩き伏せ、“地獄剣”の二つ名を得たのもこの頃だ。



 運命の転機は、べフランが間諜の下っ端から出世し、それなりの役職についた頃のことになる。

 もともとハーフェイズには、戦乱に身をおいて自らの力を試したい思いはあったが、自分以外の生き物の生命を断つことへの忌避感は常識的な範囲で強く持ち合わせていた。生命のやり取りになるのならともかく、一方的に敵とも呼べない相手の命を奪うことに熱心になれるはずもない。

 がんばって育てた弟子たちも特別な才能が花開くことはなく、順風満帆でありながら失意の中にもあったハーフェイズは、ベフランからの軍へのスカウトに乗ってやることにした。


 以後、“地獄剣”は“天剣”に名乗りを変え、十数年を王都の護り人として(くすぶ)っていた。戦争こそ起きない平和な日々ではあっても、陰謀や犯罪がらみの荒事は少なくない。“天”の二つ名の輝かしさとは反対の汚れ仕事を、国のため、正義のため、淡々とこなし続ける日々。

 モンホルース帝国の侵略の手が伸びてきたときには体力の衰えを感じざるを得ない年齢に差し掛かっていたが、そのぶん、遂に存分に力を振るって人生の結末をつける日が訪れるかと心を震わした。が、むしろ国を売る貴族や大商人への“対処”任務ばかりが数倍に増え、鬱屈は貯まり続ける。



 ある日、べフランが所属する諜報部から急ぎの依頼が舞い込む。内容はイヤに冴えない、小悪党退治。宵の口(日没後すぐ)の時刻に、本日中厳守という差し迫り具合も(いぶか)しい。だが心置きなく腕をふるえる仕事だ。人質を取られていようが、どうとでもなる。依頼を受け取った足で、無造作に出立する。

 だが、この任務は思わぬ展開を見せる。別口の襲撃者が先に戦闘を開始していたのだ。依頼の指示には“念のため”、邪魔が入ったときも区別せず叩き伏せろ、と物騒な一文が入っていた。ハーフェイズも、その通りに殲滅にかかるが、襲撃者の6人が見たこともないほどの実力者揃いで、1対6対数十人によるこの戦いは全力を尽くしても6人中4人を逃してしまう、今までの人生で最も充実感を得るものとなった。

 ハーフェイズの道場時代とアーラーマン武神流師範の時代はほとんど重なっていない。かつて活きの良い若いのがいる、と噂を耳に挟んていたのが全てだ。



 その後始末や報告、そして就寝をする時間もなく、新たな任務、王太子の男爵邸訪問の護衛仕事がベフラン本人からもたらされた。

ふざけているのか、と喉まで出かかった言葉を飲み込んだのは、有能さには疑いのない旧知の真剣な顔が、今しがたの謎の仕事との関わりを感じさせたことによる。



 この屋敷であったこと、そしてこれに付随する一連の出来事が、彼の人生の価値観をひっくり返すことになる。


「ならば、お稽古してあげましょう、武神流は厳しいですよ、さあ来い!」


 小さな、魔獣の気配の女の子がペラペラの鉄板みたいな剣を振るう。防ぐ腕が、腰が、膝に込められた力があらぬ方向にいなされて、彼の鍛え抜いた巨躯が地を這う。

 とりなおし、渾身の力で大剣を振るう。が、既に己の技の理にかなわない無駄を悟ってしまい、恥じ入る気持ちが剣先を鈍らせる。その足元を(すく)われ、幼少期以来の無様な尻餅をつかされた上で、首を()ねられた。いや、錯覚だ。首はつながっている。


 一体何が[今の世の武神に近き者]か。まさか、これほどの高みが存在しているとは。

 意地と肉体の反射で跳ね上がり、さらに3度斬りかかり、地に転がる。冷たい地面を背中いっぱいに感じる。空が高い。風が、体にぶつからず表面を撫でていく。

 これだ、と、別に何もわかっていないが曖昧にひらめくものがあった。のそりと起き上がり、受けの構えをとる。


「まだまだ、来い!」一喝して、自らの腰に力を入れる。


「はぁい。…こう? こうかな?」気の抜けた返事をする少女。


 相手に目も向けず、「う~ん、ほっ!」とおしりを振りながら微妙な掛け声を発している。余人には見えていないかもしれない。だが、今のハーフェイズにはその力の流れが見える。15歩を隔てて、彼女の掛け声のたびに、自分の首が斬られている。だが、動じてはいけない。もっと流れを見ろ。来る。来る。


「ちぇいっ!」

 少し鋭い声と同時に、首、胴、脚にほぼ同時の斬撃が降りかかる。首を躱し、胴を防ぎ、気の流れに乗せて脚を受け流し、だが体勢が崩れたところで胸を突く一撃を食らう。



 クックック、師よ、その奥義、まだまだこんなものではありますまい。

 うふふ。考え中。ハー…?さん、もうちょっと試させてもらっていい?


 傍目(はため)には剣が心臓を貫いたと見えた、緊迫した空気のなかでふたり、目を見交わして薄笑いを浮かべる。


 はるかな高みを見せられつつ、その頂に登る階段までも用意された、世にも稀な幸運。これを逃す手は、今までの人生のすべてを捨てるとしても、絶対にない。体積でいえば自分の半分もないだろう、年齢でいえば自分の3分の1程度だろう女の子の膝にしがみついてでも。

 ここではないどこかを目指さずにはいられない。先日までは人生の終わりを見据えていたというのに、いまだ己の戦いは始まったばかりだったと知らされたのだ。


 場違いに大きな哄笑を放ち、目を爛々(ランラン)と光らせるハーフェイズだった。





ところで、メインタイトルをちょっと変えています。

言うほどテクニカルな話じゃないなぁとは思っていたので。長文タイトルというのもなかなかセンスがいる、難しいものですな。


それから、せっかくだからカクヨム様の方にも本作を突っ込もうとしていて、最初から見返したぶんの修正を入れていっています。

基本的に、明らかな誤字修正、ふりがな追加、行間を追加、主に地形の説明がごしゃごしゃしていたところの修正で、内容の変更は無いです。

読んでいただいた貴方がた様からもツッコミをいただければありがたいです。


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