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10 ずんばり丸


「このオーク族の剣、なかなかのモンだろう。斬れるか、アンタら挑戦してみるかい?」


 ヤクタが仕切ってくれています。便利な人です。彼女がいてくれなければ、どうなっていたことか。……どうだろう。案外、なんとかなっていたかもよ。


「なんかムカつくこと考えてそうな顔してんな、アイシャ。さあ、この折れた剣を斬ってみせろ!」

「えぇと、じゃあ、あらためて斬りますね。これが、宝刀・四世ずんばり丸です! 鞘から剣を抜く、すらり!」

「最後のは口で言わなくていいんだよ。(宝刀じゃねェし)」

「袈裟懸けに、ずんばらり!」


 剣の腹をこちらに向けてまっすぐに構えてもらって、折れていた切断面の真ん中くらいから鍔まで斜めに斬る! ヤクタの手まで斬らないように注意ですね!

 サクッ!

 …と、ケサガケ成功! 武神さま、今のはどうですか?

[グッド!そしてゴッド(かみわざ)!]


「良かった! 皆さん、これ、オッケーですか。」

「……驚いた。その宝刀、見せてはいただけないか。」


 好青年は口をぽかんと開けていてもイケメンですね。ずんばり丸を渡すと、3人集まってやいのやいの言いながら調べています。

「普通の道中差(どうちゅうざし)(庶民の携帯用の剣)だな。まあ、悪くない出来か?」

「確かに、今しがた人を斬った跡があります。手入れは、なってませんな。」

 …なんだか失礼なことを言われてる気がします。

「お前、普通、剣を斬るときは横に斬るんだ。縦に斬るやつがあるか。アタシが斬られるかと思ったわ。」

 勉強になります。



「いや、わかった、わかり申した。お返しする。ちなみに、四世と言われたが、三世は…?」

「鹿肉を焼く串にして、汚れたからそのまま薪になりました。」

「?………??…

 ……この件は上に報告して(はか)らねばならぬ。やがて本隊がここまでやって来るゆえ、それまでここでお待ち願いたい。…かのオーク族軍暗殺部隊”毒蛇”に関しては、我々も悩まされていたのだ。報酬は充分なものになるだろう。」


 なんだかスルーされた上に難しいことを言われていますが、わたしはさっさとお父ちゃんのもとに帰ってあげたいんですけれども。そういうことをヤクタに耳打ちすると、

「そりゃあそうだろう。けど、いま手ぶらで帰ったら運命が変わらないんじゃないか? たんまりご褒美持って帰ったら、きっと色々変わるぜ?」

 さすがヤクタ、たぶんその通りです。なるほど、ここは”待ち”ですね。


「わかりました、待ちます。」

「いつまで待ちゃあ、いいんだい。まさか3日かかるとか言うまいね。」

「本日中にこの先の宿場まで行く予定だ、2,3時間ほどで済むはずだ。その軍は王国第3王子・サディク殿下が率いられる。なるべく、無礼の振る舞いがないようにお迎えいただきたい。

 私は報告に戻らねばならないから、ここには後ろの2人を残してゆく。よろしいだろうか。」


 言ってる言葉が難しいけれど、聞かれて反射的にうなずいてしまって。すると、好青年氏は慌ただしく馬首を返して走っていっちゃった。



「…なんか忙しいイケメンさんでしたね。大丈夫かな、あの人。ちょっとよく分からなかったから、説明してもらえません?」


 残されて困っている若い大男さんと、よくあることって感じで悠々と下馬しているおじさん大男に、どちらにということもなく、現状の整理をお願いします。

 口を開いたのは、おじさんの方。


「そうですな、これから戦に(おもむ)くというときに武神様の機嫌を損ねたい武人はおりません。少々ビビり申したということで、ご勘気はお収めいただきたく――あぁ、怒らないでいただければ。」

 

 年長者らしい落ち着きを見せて、よく見たらなかなかのイケオジさんが腰を低くして、とりなすように話しかけてくれました。若い方はワタワタしていて頼りない感じ。イケオジが続けます。


「名乗りも、まだでしたな。先ほどまでのが、ファリス子爵。…王都では娘さんに大人気の若き英雄ですが、ご存知ないようで。まぁ、覚えてやってください。

 (やつがれ)は、騎士ヤザン。隣の大男は、騎士ボルナ。武神の使徒・アイシャ様、ヤクタ殿にはお目にかかれて恐悦――ん、よろしくお願いします。」


 微妙にアホの子あつかいが気になります。


「ヤザン、なにをそんな小娘にへりくだっておるのだ! そんなだから、うだつが上がらぬ‥」


「余裕がない男ってダメな感じがするよね、ヤクタ。…あら?」

 声が出ていましたね。


「ボルナ。子爵は、彼女を殿下の客にすると決めて向かわれたのだ。不服があるならば先に子爵をお諌めするか、斬り殺すかしておかねばならん。いまさら申し立てをするなら、俺はお前を斬らねばならん。」

「いや、不服など!…(それがし)の不見識であった、許されよ。」


「…ヤクタ、ヤクタ、あの人たち、何、あれ。」

「アイシャにはまだわからんだろうが、ボスと下っ端の間をやり取りする仕事ってのは、あの爺さんみたいにやるんだ。覚えておけよ。」

「お爺さん、は言いすぎでしょ。まだ40歳くらいじゃない?」

「それだけなってりゃ十分さぁ。アタシらの中じゃ、ね。」

「盗賊の中じゃ、そうなの?」

「あ」

「ん?」


 おや、軍人さん、聞き耳を立てていますね。

「盗賊?」



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