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103 応接間にて


 引き続き、ゲンコツ道場の応接間です。テーブルを囲む上座にはハーさん、そしてゲンコツ道場のシーリンちゃんことゲンコツちゃんわたしを(ニラ)んでる。その隣にはゲンコツの父・体調を崩している総師範さん、こちらはあまり気にしないで良さそう。

 テーブルの横にはヤクタが座って、お酒を飲んでる。また、お酒! 今はコレ没収です。後でヤクタには話があるから。文句は聞きません。

 ほかに、道場のベテランさんが十人くらい。みんな、面倒そうな面構えだ。



「アイちゃんも到着したことですから、とりあえず昨日今日の進展を発表しましょう。」


 カーレン家のシーリンちゃんことカーレンちゃんが仕切ろうとする。もちろん彼女にとって他人事ではないどころか、彼女のための発案なので(ファルナーズさんからは謀反扱いされたけれども)、仕切ってくれるのはありがたい。

 なので、わたしから今日の午前中の出来事を報告する。


 王太子のアッちゃんと宰相のサルーマンさんには挨拶してきたよ。そのあとハーさんに来てもらうお話をしました。で、ファルナーズ大将軍さんのツテで、マリカ王女様とソルーシュ王子様にも支持してもらえるって約束をもらったから、法がどうとかの問題はないです。良かったね。


 おや? 反応が鈍いね。ヤクタは笑ってるし、カーレンちゃんも呆れた顔してるけれど、何も嘘じゃないから。いや、まあ、ハーさんは納得してくれてるから、それでみんな納得してよね。



 道場の皆さんは、どうかしら?


押忍(オッス)、ジブンたちの決まりでは、重大な決め事は、王国の各地から長老を呼んで5日間の会議をして判断することになっておりまス、押忍。……ぇと、っスから、長老に集まってもらうのにあと20日、それから……」


 おっとゲンコツちゃん、それマジですか。のんびりしていて羨ましいほどですけれど。そんな感じでも良かったのかな、ハーさん?


「そんなだっけ、シーちゃん。俺は好き勝手やってたからなぁ……。師よ、申し訳ない、最悪の場合(それがし)だけでお供いたしますゆえ、こののんびり屋どもには曲げてご寛恕を!」


 あ、そっち向けには“天剣”ハーフェイズさんも砕けてるんだ。意外な一面。そっちのほうがいいと思うよ。


 ゲンコツちゃんはハーさんの膝の上で、振り向いて何か言おうとして思ってたよりハーさんと顔が近かったのにビックリしたのか真っ赤になってのけぞったところに、頭をわっしと掴まれてこちらに向かって下げさせられてる。

 美少女じゃないけれど、やっぱり独特の可愛げがある子だなぁ。とニヤニヤしていると、頭を掴む手を振り払って私を睨みながら、

「アイシャさん、勝負を挑みまス! 我が研鑽を重ねた剣、()せたままでは従えません!」



 あぁ、やっぱり? 勝負の世界の人は毎回コレ。わたしも見た目がヤクタやファルナーズさんみたいだったら、こういうの避けられるのかしら。もう、なるべく省力化した勝負を考えていこう。


「じゃあ、にらめっこ勝負しよう!」

「は!?」

「せ~のっ、あっぷっ、ぷ!」


 自分で言った掛け声と同時に、全力の殺気をピンポイントで叩き込む。

 途端(とたん)、ゲンコツちゃんはひとつしゃっくりをして、ぐったりと崩れちゃった。その短く刈ったツンツンの髪が、みるみる白くしおしおになっていく。


 少しは殺気が周囲にも漏れたのか、部屋中のみんなも大なり小なり身動(みじろ)ぎする。後で聞いたら、みんな一瞬目が見えなくなって、鼻の奥にツーンとした感覚があったらしい。なんだろう。

 ハーさんは始めはほとんど動揺がなかったけれど、一瞬間をおいて、叫びだした。


「シーちゃん? シーリン!!? 喝!」



 ぐったりしていたゲンコツちゃんはハーさんの喝を受けて、熟睡から覚めたみたいに目をパチパチしだした。そのゲンコツちゃんに代わっての、ハーさんの抗議。


「聖下、確かにこの娘の不遜・無礼はありましたが、まだ若い、幼い娘です。なにも殺さなくても!」


「え、してないよ!え? ホント?でも聖下は止めて!」


 みんなの目線が怖い。かわいいめに“コワイ”じゃなくって、普通に“怖い”。


「えぇ、怖がらせておどかす技なんだけれど。シーリン…カーレンちゃんも、ハーさんもできるはずだよ!?」

「したくないよぉ!」

(それがし)が同じようにできていたら、某の部下は一人も生きておりませぬ。」


 後から状況を理解したのか、ゲンコツちゃんはブルブル震えながらハーさんにしがみついてる。ゴメンよぉ、後でフォローしてあげよう。それより、今の話を進めたい。



 進めたいんだけれども、結局いま決められることは多くない。箇条書きにすると、

・ハーさん軸にゲンコツちゃんとの名目上ツートップで、道場幹部がどう判断したとしても勝手にやらせてもらう。

・とりあえず明日、冒険者ギルドで義勇軍メンバーを募集する。希望者が少数でもいいけれど、“神の子”シーリンの活躍の証人に必要な程度には欲しい。でも、何百人も集まられても困る。

・食糧その他の準備とか、道中のいろいろの計画はカーレンちゃんに考えてもらう。ヤクタもサポートできるんじゃない?


 それくらいだね。じゃあ、がんばろう、明日から。

 





第7話「王宮にて」。もうすこし登場人物が増えるつもりでしたが、ほどほどのところで、第8話「十字軍」に続きます。


2月は私の誕生月でもありますので、書き貯めが溜まってきたこともあって、2月1日次回の挿話から、8話は毎日更新にします。

9話から大きく動くためにいろいろやる14回ですが、まったくいつもの調子ですのでよろしく。


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