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101 疑惑


 友人・シーリンに降り掛かった厄介事を解決するために、聖女コスプレで宮殿の奥にまで乗り込んで、ついに非主流派とはいえ王族の支持を取りつけたアイシャ。

 だが、話の流れが、自分はイチ抜けするつもりだった義勇軍に、それも“磔刑台(たっけいだい)の十字架を(かつ)いだ”「十字軍」の主要人物として参加することを余儀なくされた感じに進んでいる。

 これってどうなの? 逃げ道はいずこ?

 アイシャの長期休暇の予定は風前の灯だ。


――――――――――――――――――――――


「そうそう、ひとつ聞きたかったことがあったんだよ。」


 こういうときには、話題をそらすのが結構よく効くんだ。別のことから打開策が出てきたり、話がひっくり返ってウヤムヤになったりするからね。


「何でしょう、言ってみなさいな。」

「どうも。えっと、今までの大聖女さんは奇跡と一緒に現れたんだよね。どんな奇跡があったのかな。わたしの、塔の戸が()いて中の神様としゃべった、って、ちょっと弱くない?」


 3人が顔を見合わせて、難しい表情をしてる。ホラ、やっぱりダメでしょ? あ、でもダメっていうときはちょっと優しく言ってほしいな。傷つくから。


(わたくし)が知る限り、最大の奇跡といって間違いないはずだわ。カミラ、説明してあげて。」


 あ、コワイ美人侍女さんが姫様の隣に移動してきた。何が苦手って、手習いの先生に雰囲気が似てるんだ。自然に腰がキュッと立って、汗がにじんでくる。剣術ならわたしのほうが強いって、そういう問題じゃないのよ。


 その、カミラさんが言うには。

「確かに、聖下のご顕現に際しましては必ず奇跡が観測された記録がございます。

 先代の記録では、先々代の夢に次代の赤子が現れ、時を同じくして、全国的な麦の不作のなか不思議に豊作だった一枚の麦畑の中心に、夢と特徴が合致する赤子が捨てられていた、となっております。また、その赤子が成長し、17歳になった折、王宮から太陽の塔の方向に三重の虹が現れ、これを奇瑞として新たな大聖女に即位されました。

 当代では、先代の夢の中で…」


「夢ばっかりだね。」

「聖下は、塔の外にお()でになりませぬゆえ。疑問は後からお尋ねください。よろしいですか。」

「はぃ…」


「夢の中で、自分の胸から発した光が南の山村の少女に届いた。その頃、王都のはるか南、ワドウィッツ村の病死した少女が光に包まれて生き返る奇跡が起き、その少女が当今(とうぎん)ウィタ聖下として即位されてございます。」


「わるいけど、曖昧だよねぇ。」

「その上に紋切り型でございましょう。ですから、これ以上疑いもなく、多くの民衆がまざまざと見た奇跡は他にありません。これだけを見れば。まさに史上最も祝福された、崇高、高貴、英邁さ、みな並ぶ者のない超越した大聖女となられますことを、貴女は期待されているのです。」


「ムリ、ぷー。」


――――――――――――――――――――――


 頬を膨らませて横を向いたアイシャだが、そこでソルーシュ第2王子と目が合ってしまう。

 ブサイクな顔をさらしてしまった超聖女と、見るべきではないものをまともに見てしまった王子。お互いに、リアクションに困ったまま固まって、プルプル震えている。


 マリク姫も固唾をのんでいるところに、ファルナーズ将軍がアイシャの後ろへ忍び寄って、膨らんだほっぺたをぷしゅうと潰す。そして、その小さな頭をペシャリと(はた)く。


「気持ちは、わかる。観光は、楽しい。名物料理は(うま)いし、友人と一緒にお土産選びとか、生きてる醍醐味だよな。でもな、お前は百人、万人、ひいては百万人の生き死にを大きく動かす話に土足を突っ込んできたんだ。遊ぶのは後にしろ。」


 酔っ払いが急にシリアスで、そうなったらそうなったで(カン)(さわ)る。ムムム、と唸るアイシャに、将軍がさっき叩いた頭を撫で回しながら、もうひと押し。


「もしオーク族を追っ払えたら、そのあと一生遊んでたらいいから。俺が遊び銭は一生分全部出すから。……大聖女は塔にお籠りだが、超聖女は決まり事もねぇから、何でも貴様の思いのままさ。それでどうだ。」


 パッ、と瞬間的に少女の顔が輝く。望外の好条件に思える。が、すぐにその目が泳ぐ。もしもの前提条件が重い。もし、そんなのができたなら建国王以来の英雄だ。その後に遊んで暮らさせてもらうなんて誰の断りも必要なはずがない。

 やっぱり却下だ!



「じゃ、なくて。そうじゃなくて。」

 意識の下で、ずっと引っかかってることがある。

 確かに、自分には武神様に聖女になれと言われてはいない。塔の見晴台から降りる時は意識が朦朧としていたが、あの神様が、わたしにひきこもれと言うはずがない。しかしあの場には、3人いた。


 シーリンは、カムラン神の使徒だから論外だろう。

 ヤクタ。あの娘、さすがにそれはないだろう、ぷプーっ、で済ましていたけれど、実は大聖女の打診を受けていたとは、本当に絶対に有り得ないといいきれるだろうか? 

「超聖女は、3人のうちの誰だと思う?」あのときのヤクタの嘲弄を思い出す。先頭を切ってああいう言い方をすれば、その容貌も加味して、誰だってあとの2人から選ぶだろう。

 見た目通りに、平気でずる賢いことをしでかす女だ。いいところだってたくさんあるが、決して油断はならない。都合の悪いことを無視してしれっと黙っているなんて、いかにもありそうなことだ。

 

 急いで帰って、問い詰めてやらねば。



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