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コールドリミット

作者: 山城ひすい

「うー、寒い!」


閉じられたゲートの前で同僚が呟いた。


「ヒートスーツ越しでも手の感覚がマヒってるぜ」


同僚は少しでも暖を取ろうとしてか、両手をこすり合わせている。

特殊繊維素材のグローブ越しにそんな事をしても無意味だろうに。


「こするより手を握ったり開いたりして指を動かした方が良いぞ。血行が良くなる」

「うえ、ずいぶんとアナログな方法だな」

「こすり合わせるのとたいして変わらないだろ。指が凍って千切れるよりかマシだ」


俺がそう言ってやると、同僚は素直に指を握ったり開いたりし始めた。

わざわざ両手を胸の前に持ってきてやるもんだから、子どもかぶりっ子に見えて笑える。

まあ、かくいう俺もこの寒さに指の感覚が無くなり始めていたからこっそりやっていた。


「全員整列!」


隊長からの号令がくだり、俺たちは走って整列した。


「後3分でゲートが開く。いいか、この作戦は時間との勝負だ。少しでも遅れたら命はないと思え!」


今回の任務は命懸けだ。

いや、今回の任務”も”命懸けだ。俺たち特殊救助部隊の任務が命懸けではなかった事などほとんどない。


「全員、作戦内容は頭に入っているだろうな?」


隊長の問いに、俺は目を閉じた。



この地球で、人類が経験したことのない超氷河期状態が発生したのは今から100年以上も昔の話だ。

この現象はスノーボールアースと呼ばれ、地球全体が雪と氷に覆いつくされるのに10年もかからなかったという。

当時の人類は少しでも寒さを防ぐために地下や氷の中に都市を作った。

俺たちが今から突入しようとしている都市も、氷の中に作られた都市のひとつである。

氷中に作られた都市は高い断熱効果を持つ外壁に丸ごと覆われており、中央には都市全体を温めるためのセントラルヒーティングシステムが設置されている。

しかし、この都市は建造から長い年月が経っている為か、システムが故障を起こしたらしい。

発展している都市や、金持ちとか地位の高い人間が多く住んでいる都市であれば、定期的にメンテナンスが入りシステムが新しくなるのだが、貧困層が多く住んでいるこの都市ではそれがままならなかったのだろう。

長期にわたって修理を繰り返し、だましだまし使っていたシステムがついに限界を迎えてしまった。

隊長の話では、システムはもってあと7時間が限界。断熱隔壁も老朽化により故障が発生しており、内部の90%以上が既に氷に覆われてしまっているらしい。

かろうじて温度が保てている都市中央区のシェルターに一部の住人が避難できたものの、避難路もなく取り残されて救助を待つしかない状態になっている。


生き残っている住人全員を救助して都市を脱出し、救助部隊が用意したシェルターに避難させること。これが今回の俺たちの任務だ。

タイムリミットは7時間以内。セントラルヒーティングシステムが止まる前に任務を完遂しなければならない。

システムが停止すれば一気に都市内部の気温は下がり、簡易的な装備しかない住人たちの命は失われてしまう。

時間との勝負だ。

だから俺はこの任務がくだされた瞬間から準備を開始した。

都市の構造、突入経路と避難経路の道順、他部隊との連携、必要な装備、不測の事態が発生した時の対応シミュレーション。

今回は失敗しない。絶対にだ。



「イエス、サー!!」


俺は目を見開き、精一杯の大声で隊長に答える。


「よし、突入準備!」


ゲートの前に立ち、最終確認をする。

装備は問題ない。シミュレーションも完璧。基礎訓練も十分だ。

気が付くと手が震えていた。寒さのせいか、武者震いというやつか。


「そんなに気負いすぎるんじゃねえよ」


同僚に肩を叩かれた。


「オレがバディなんだぜ?心配するだけ損さ」


自慢げにふんぞり返る同僚に呆れを通り越して笑いが込み上げてきた。


「はは、それもそうだな」


ぱしっと、俺は同僚(バディ)の肩を叩き返した。


「ゲートオープン!」


氷を砕くような重い音がして、目の前のゲートがゆっくりと開き始めた。


「突入!!」


隊長の号令と共に走り出す。


「オレから離れんなよ!」

「そっちこそ!!」


残りは後、7時間。

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