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床下の迷宮  作者: へますぽん


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ポーターの報酬を!

 延々と欲望のトンネル工事に引きまわされた見返りがあって然るべきだろう?春先でとりわけ伴侶への想いが募る季節で、思考にふりわける余裕もなく脊髄反射で旅に出るのが野獣の浅ましさだったとしても、わたしは雄チンチラじゃないのだから付き合う理由にはならんのだよ!

 振られる以前のつまずきで伴侶を得ることも叶わず、失意のどん底をズルズル足を引き摺りながら帰る青年部の一団に更に追い討ちをかけるのが、わたし。外道というなら、言われてもけっこうだが、わたしも春なので予定の作業があったのだ。群れの食糧事情の改善をしたかった。牧草地の拡大を秋からずっと準備してきた。種を蒔き、猛禽避けのネットを張りたい。

 そのネットは青年部の一部の悪ふざけで最早見る影もないズタボロにされたけれど。

 あぁァァァ!!!思いだすとイラつきが募るな。下手獣(げしゅにん)を生贄にして吊り下げてやろうかしら。


 やらないけど。

そんな餌付けしたら、狩場になる。こんなムチムチのチンチラが居るってバレたら絶対毎日狩りに来る。親子で、ここが美味しい狩場よ。って代々狩りに来る。

 猛禽避けの網、絶対。至急。


「というわけだから、全員、奉仕作業に参加だ!」

ナニがどうしてそういうわけだ!グイィィ!ぶぶぶぶ!抗議はまるっとスルーして帰還した青年部全員にドングリスピンドルを渡す。

「コットンボールヒュージっ!」

モフンと喧しい顔にめがけて綿花を射出する。次々にそれぞれの顔に綿花を打ち込む。嫌がらせであるが陽気で懐っこい青年部は抗議してたのも忘れて、くすぐったそうに笑い始める。

「コットンボールから繊維を引っ張り出して、撚りながらスピンドルに巻きつけていくよ。見て!」

 チンチラと変わらない巨大綿花から3房に分かれた綿の塊を外し、指で細い繊維をほぐして引きだす。ほんとうはコーミングとかして繊維を揃えてロールにしてからやるのだと思うが、いま、資材が無い。とりあえず効率が悪いけどやってみる。

 引きだした繊維をこより、ドングリスピンドルの上のカギにフックしてから、ドングリを独楽の要領で回転させる。繊維を引きだしながら回転で撚りのかかった糸を独楽の上の軸に巻き取ってゆく。細い糸が、多少ムラのある出来ながらドンドンと軸に巻き取られてゆく。

 チンチラの小さな指はごく細い繊維を正確に摘み、細い鋭い爪は繊維の絡まりから綺麗にピックアップして糸に紡ぎ足す。最初の独楽の上に糸をフックすることさえ補助すれば、青年部は意外なほどに器用に回転させはじめた。

 しまった。独楽の回転の向きの指定をしなかった。

ミシン糸と手縫い糸。実は共用できない。糸の撚り方が違うからだ。ミシン糸で運針すると分かるけど、縫っている間に糸が捩れて絡まる。S撚り(時計回り)とZ撚り(反時計回り)って呼ばれる。Sのように捻ってあるのとZの捩り。回転の向きが違う。手縫いのとき使うのはS撚り。


 わたしが指定しなかったので各々好きに回している。

 まあ良いや。3本で合糸するときに考えることにしよう。

とても細い繊維だけれど主様の加護があるのかアクリルのようにしなやかで強い。これならご禁制の網にも勝る鳥除けになる。ならなくても忌避するだろう。

 糸を独りで用意しようとしたから、秋に苦悩したのだ。こんなにたくさんの前足があるのだ。遊ばせてなどおくものか。いっぱい遊んできたから、今度はわたしに付き合ってもらう!!



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