けっこうなお召し物
「先ほどは主への貢ぎ物をありがとう」
サバのこと?そういえば、降りたところにもなかったな。
「このあいだのマリトッツォも美味かった」
「食べても良いの?身体が小さいから害になるんじゃないの?知らなかったとはいえ申し訳ない」
「食性に合わないものは主に貢ぐので問題ない。主は寛容だ」
主の扱い、ザツじゃないか?
「おいで。奥に席を設けた」
「ライトつけて良いですか?わたしは前が見えません」
「では」
そういうと足元に小さく灯りがポツポツ灯った。
背後からも声がかかる。
「頭上の障害物はご自身で確認なさって」
ライトを上向きにすればチンチラの目を眩ますこともない。
ぴょんぴょんと跳びはねるように先導するチンチラに続いて暗い坑道をすこし進むと、掘り広げられた場所があり壁際に積まれたほし草であたりはいい匂いがする。
さらさらした砂が山のように盛られていた。
「そこにおすわりなさい。匿ってほしいと言ったね。話を聞こう」
ゆったりとした口調とよく響く低音でたいへん貫禄がある、小さい齧歯類。かっこよ。
ほの暗いなかでも、次第に目が慣れて毛色が色々あるのが判る。
さっきわたしを迎えに来たチンチラだけでなく、多くのチンチラがまわりにいる。
多くは灰色。ほかに黒とか白とか薄茶。
大きな耳がくるくると向きを変えてゆく。
顔に比してとても小さな桃色の前足で器用にものをとる。
みっしりと和毛がつまっていて見るからにフワフワ。
薄明かりでも艶やかな被毛の状態がよさそうなのは判る。
でも、野生の生き物には触っちゃだめだからっ。
しかし。
あぁ、もふりたい。
グレーの被毛の黒い毛先は、動くと柔らかな毛皮の動く様子がよく判る。
「ブラックベルベット」
掠れた声が聞こえた。
「は?」
「オレの毛色だ」
さっきチンチラって言った声だ。キレイな毛並みのイケチンチラだったのか。
「僕は?僕も良い毛並みだよ」
ザツだと言った声だ。白くて耳から鼻にかけてグレーのポイントが入っている。
シャム猫で言うところのシールポインテッドみたい。
「パイド(ぶち)。ほんとうにザツだよねぇ。その表現はダメだよ」
まだ、口に出していないが、まる聞こえなのか。
そうか。齧歯類と意思疎通しているんだもん、普通じゃないわ。
「パイド。可愛い。とても愛らしい」
そのあと順次グレイ(灰色)ライラック(ねずみ色)サファイヤ(鈍色)などのグラデを称えた。もちろんシナモンやベージュなどのグラデもあった。
目の色も褒められたいらしいが暗くてちょっとわたしには判らなかった。
「毛皮の鑑賞に来たのではないだろう?」
ロールパンのように美しい金色の被毛をキラキラさせながら再びわたしに問うた。
チンチラは干し草を食べます。
人のエサを食べてはいけないのですが
そこはフィクションで。