第88回遠征団行軍記
団を二つに分けたことでお互いに競いあう空気ができた。
「なんだ。昼までかけて78巣穴か。ぷぅ〜」
「小粒なお前らと違うんだよ。昨日の午後分見たけど、雑だわちっちゃいわ、まあ、男っぷりと変わんないから仕事に出ちゃってるぅ〜?」
などと誹りあい、煽りあう。
だけど、どんなに早撃ちしても誘導する芯の部分を打つときに方向の確認や安全の確認を充分にする必要が有りそこに時間を割いているのでそんなに変わらないのだ。水が出たり、ガスが出たり、明後日に向かって進むわけにはいかないし。
焦る必要のない旅なんだけど、できればわたしは脱落して網を作ったり腐葉土を混ぜたりしたい。
そもそも巣穴の規格が揃っていないから数で競るのも意味がないし、一番時間をかけているのが方向確認兼試掘の安全確認の部分で焦って掘っても然程変わらないのだが、連射早撃ちに血道をあげている。もう毎日夢中でシャカシャカ歩き巣穴を連発してふらふらとしながら寝床の綿に潜りこみチモシーを食べながら眠る。出だしの行楽感はどうした?物見遊山じゃないのか?決死の行軍感を出されても戸惑うばかりだよ。
しかしわたしは、疲労感をそそけ立った被毛に出した連中に容赦なく糸紡ぎを強いる。小さな手に合う小さな独楽で紡ぐ細い糸は人の指では到底ムリな繊細さで長く強靭な綿の繊維のポテンシャルを引き出している。コレでレース編みなどすれば巨万の富も得られるだろう。決してのぞいてはいけませんよ。って言って奥の一間で歌うチンチラとレース編みをしてるミステリアス妻とかどう?とても珍しい品だから町で高く売るのですよと夫を行商に行かせて俄かに裕福になる。そして見てしまったのですねと泣きながら床をめくってトンネルに飛び込み遁走する感動のラストシーン。残される編みかけのレースと夫。
うん、良い感じなんで、将来これは!!という配偶者候補と巡り合ったらやってみるか。
実際のところ、ハンカチやブラウスに使う綿ローンの布に使う糸はとても細いからアレには敵わないと思う。ティッシュより薄く透けるような平織りのハンカチはいったい何に使うのか。貰う都度ペロンとぶら下げて見るばかりで不思議だった。只々綺麗なので時々出して眺めるための布だったよ。
掘って紡いで食って寝る。喰うのも稽古!寝るのも稽古!謎の4種競技のような日々。
そうした連日の奮闘で、進捗は当初の予定を超えて捗ったので、青く霞んでいた西の山脈はその厳つい威容を露わに示す距離にまで近づいてきた。岩盤は硬く締まっていて冷たい。もう巣のあるところまで補給に帰るのはそこそこの距離で厳しい。チモシーを全て食事にまわせるようになったのは僥倖だ。




