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床下の迷宮  作者: へますぽん


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くらえっっ!おれのビーフボール!

 温かい牛丼ってときどき無性に食べたくなるから、中毒性があると思うよ。だからね、こんなに毎日食べているわたしはたぶん牛丼ジャンキーになっている。自身のなかのコスモもきっと牛丼。

「いでよ!ビーフボールっ!」

などと半身に構えて指さしポーズをつけてみたこともあった。だって、魔法じゃん。キメて見たいときもあったのさ。今は淡々と正座してから膝前に出現させているだけだけれどもね。

 だが、今夜のわたしはふた味違うよ。特盛りギョク付で舞い上がったわけじゃなく、気づいたのだよ!


「食らえ!コットンボールっ!」

 わんぱく青年部に向かって強く高らかに魔法を放つ。わたしの示す指の先にはゲラゲラと笑い転げるチンチラ坊主どもが寝藁をうごめかせている。

 背から降ろしたときは高く積んだ藁がグダグダに崩れてチンチラの頭がそこここに生えている状態で笑っているので今夜も御機嫌だ。その顔めがけて放ったコットンボールの魔法は素晴らしかった。

 ちゃんと綿花のほうが顕われたのだよ!昔の診療所で消毒のときに使った脱脂綿を丸めた綿球のほうだったらどうしようかと不安だったけど、パカリと綿の実、その殻をはじけさせてゆたかに溢れる艶のある繊維はとても品質がよさそうだ。顔にもふんと直撃をうけた青年部たちは高音の叫び声を坑道に反響させながら次々にその綿を毟り始めた。

 襲いかかるチンチラにガンガン次のコットンボールを射出する。ふわふわの綿の実に当たりながらそれを毟っては寝床を整える青年部。

「はやくー!もっと打ってよぅ!」「オレにもくれよぅ」「なぁ!」

さっきまで藁で寝てたくせに綿の寝床の快適さにさっさと鞍替えするフットワークの軽さよ。手のひらほどのわりと大きめの綿の実でもぜんぜん追いつかない。

「コットンボール ヒュージ(特盛)!」

 思った以上に大きいのが出た。自室で遠慮なしにくしゃみしたら身体が弾んで部屋の壁に音がエコーしたときよりビックリした。おもうより大きいのが出るとビビるよね。一抱えもある綿の実だよ。さすが主様。これが加護というものか。チンチラの小さな指で殻から取りだした繊維についた種をブチブチと引き剥がす。繊維はシルクのように細く艶やかでおどろくほどに長い。塊から引き出す繊維の長さはチンチラの腕の長さでは伸ばしきることが出来ない。

 細く長い繊維。すばらしい。

 それがあれば悪戯チンチラ坊主にズタボロにされた網が今度こそ完成するじゃないか!

 興奮するわたしを尻目に寝床を着々と整える青年部達。出した綿はすべてやつらの腹の下に敷き込まれ気づいたときには、わたしの寝床は藁のままであったのだよ。


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