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床下の迷宮  作者: へますぽん


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第88回遠征団の野営

 はしゃぎながら作ったできたてトンネル。干し草の備蓄室までの移動距離を足しても三キロにも満たないだろう。足元が悪いし暗いので舗装道路を歩くようにはスタスタ歩けないけれど、大きな干し草や砂などを抱えても一時間ちょっとで戻れる。恩恵が身にしみる。主様ありがとう。


「ねぇ?わたしは同道しなくてもよくない?時々届けに行くだけでいいじゃん?」

 明かり取りと迷子防止とトラップ対策で必ず一頭抱えているサファイヤと白のパイドが個性的なチンチラに早々のリタイヤをほのめかす。

 いや、直球で脱落宣言しているか。

 まとめた草を背にくくりつけ、腰に砂の入った袋を下げて、一日中テンションの高い男児と歌い続けるのはまあまあ大変なのよ。

 主に歌詞が。声はすばらしい。おむすびころりんですら聖歌隊ボーイソプラノみたいだったんだし。

こじらせた妄想たっぷりあけすけな愛欲を透明感あふれる涼やかな聖歌隊ふうの声で歌い上げるのを下衆な合いの手と爆笑で大盛り上がりするそのおっさんくささったら聞くに耐えない。この困惑について察してほしい。ムリか。獣だからな。

 セクハラという言葉がなかった時代のひとはきっとこんな困惑をしていたんだろう。でも犬が足にしがみついて腰をこすりつけてもそれはセクハラじゃないからな。

 チンチラジョーク難しい。


「ミズキももっと旅を楽しもうよ。ひょっとしたらこの遠征先で出会うのはミズキの運命の相手かもしれないんだよ?」

 それこそ最高にいらねぇ。などとはいたいけなバイカラーチンチラに言うことではないので曖昧に濁しつつ足を速める。躓かないように頭をぶつけないように、干し草をこぼしながら合流地点へ戻る。


「遅いー!ミズキぃー!!」「オレもう何年も何年も待っておじいさんになっちゃったし!」「腹減って寝床たべるくらいひもじい思いしてたぞー」

 口々に退屈を訴えるわんぱくチンチラの声に迎えられる。

「寝床でごはん食べるのサイコーじゃない?」

 そういわれればそれも良いかもしれん?などと他愛もなく言いくるめられて潜り込んでいる草をもしゃもしゃと口にしてやっぱりオレチモシーは茎のポリポリしてるところが好きなんだ。と隣のシナモンチンチラと語り始めている。素直か。すき。

「水飲むこは草からでてこっちに来てねー」

 草や砂場から離してボウルを取りだし

「ウオーターボールぷち!」

 水を出す。ぷちをつけてみたのは一口で飲める大きさの水がでたら学校の冷水機みたいで良さそうかと思いついたのだ。

 ストロボで水滴を水玉のように照らす噴水のように指先大の水がいくつも現われ、ボールに収まってゆく。かわいい。

「なにそれ!」「ミズキ!すげー」「もう一回!」「おれ粒のままで飲むーっ!」

 遊び疲れたはずのわんぱくのテンションが再上昇する。お水飲んだら寝かしつけようとしてるのに。


 試行錯誤の末、チンチラの飲みやすいごく小さなビーズ大までサイズを絞った。上から連ねた水の粒が何条ものれんのようにチンチラ達の前に下がるようになるまでスパルタで水がでる魔法の特訓になった。

過酷な旅である。



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