進め 第88回遠征団
きなこ色のチンチラが
ふんっっ!と小さな鼻の穴に見合わない大きな鼻息と共に発した気合い。そしてその前にあいた細い筒型のトンネル。気の利いたヘビかクマネズミなら通れるくらい。チンチラは押し込んだら入りそう?
後ろに下がって様子を見守る一団。
程なくして、灰銀のリーダーが大丈夫そうだと皆を呼ぶ。
「水が出たり、悪い空気がでたりするので、いつでも逃げらるように下がっていたんだよ」
えー?きなこはカナリアのように犠牲になるじゃん。チンチラはちいさな生き物なのでちょっとした毒も効いてしまう。
「あいつは特別。主様のお気に入りの末裔だから、わりと丈夫なんだよ」
わりと。
ってどのくらいなんだろう?
でも、わりと、っていうのは、わたしも『力持ち』にして貰えたから、きっと相当丈夫なんだろう。チンチラなのに。
試掘をしたあと、その径の細いトンネルを軸にして一頭ずつが放つ『巣穴』が連なる。その様はメークインと男爵と北あかりが大きさも向きも角度もまったく揃えることなく辛うじて数珠つなぎになっている状態だ。歪な丸っこい巣穴が縦長だったり横長だったり傾いでいるのが連なっている。
だから、足元はいちいちせり上がっているし頭上は垂れ壁になっているので、足元に注意が行けば頭を岩にぶつけてものすごく痛い。ほんとうに痛い。涙出る。背中の草とか放棄して巣穴に帰りたい。
痛くてうずくまって癇癪を起こしていたら、先行していた青年部達があわあわと動揺しながら戻ってきた。頭をぶつけて悲鳴をあげたときはゲラゲラ笑って、みんなではしゃいでいたけれど、荷運びゴーレムがブチ切れ始めたので動揺している。
「そんなに痛かったか?」
「血は出てないぞ」
「傷は深いぞ。ぐったりしろ」
もふもふとわたしをかこんで口々に励まそうとする。ひやりとするごく小さな桃色の手で額のたんこぶをそうっとなでる。ふすふすと臭いをかぐ。見る、嗅ぐ、触れる。で状況を判断しようとするんだね?
囲みがお尻のほうにも回ってるのでそっちを嗅ごうとするのは止めてほしい。
「お尻の臭いを嗅がれるのを人間はとても厭がるのです。やめて」
痛みで頭がくらくらして動けないけどそれでも尊厳を守りたいので、腕だけで払おうとするが届かない。辛い。
その後、足元だけは削って通りやすく仕上げてくれるようになった。頭上の垂れ壁をのれんのようにくぐるだけで良い。
青年部はむぎゅっと団子のように押し合いへし合いで騒ぎながら
前に押し出される一頭がふんむぅっ!とかぷぅぅぅ!と気合いの入った放屁のような鼻息と共に『巣穴』を放つ。そして後ろに回され、つぎの一頭がまた鼻息と共に『巣穴』を発する。巣穴を発生させていなければ、ゴンズイ玉にも見える。
オリーブの首飾りほど整っていないチンチラ隧道は若さと煩悩で素晴らしい速さで前に掘り進む。




