いいなり
とにかくご縁がない。それは分かっていたけれど、目の前で幸せになっている兄貴分が鼻の下を伸ばしてニタニタと暮らしているので、いよいよやりきれない。という御舎弟たちがわたしにすがりついてくる。
足元にみっしりと若チンチラ男児。可愛い。踏みそうで足が踏み出せない。
「オレも旅に出る!運命の伴侶に出会うっ!!」
いや。だからね。出たけど手ぶらで帰ってきたの、見たじゃん。いなかったんだよ、運命は。いたのは山賊。通る者を見繕っては襲いかかってきて、それはもう怖かったんだから。
村を結ぶ道は通っているけれど、生活者以外、外部から来た者は基本不審者で推定盗賊。みたいな目で見てくる。実際、通りすがりに畑の作物盗みそうだけどさ。わたしはやらない。ライスボールあるから。野菜の生食より食味も栄養価も優れているのにやらないよ。
弱そうだと勝手に見くびったら追い立てて面白半分に嬲るように狩る。通りすがりに狩られても単独移動者が行方不明になっただけで誰も咎めに来やしない。
ほんとうに危険なのだ。
「行かない!いなかったんだから、豪天号やパイドんちに産まれる娘ちゃんを待ちなさいよ」
キツく言い放つと連中はわたしを濡れた眼で見上げながら鼻を鳴らす。
え?それ。わたしがわるいの?
チンチラ団子は切なく鼻を鳴らしながらなにかプキュプキュ言い合って、通路のあっちやそっちへ散っていった。諦めてくれて何よりだ。
数日後それは勘違いだと知った。
「わかった。外が危ないなら、今回は通例通りの旅団を組んだ。ミズキはポーターとして参加してもらう」
は?勝手にメンバーに決まってるの?外は。っていうのはナニ?なか?どこ?ポーター?そもそも旅団??
意味不明で勝手な決定を得意顔で語り出すシルバーのチンチラ。リーダーらしい。ふんぞり返っても愛くるしい。ドヤ顔のチンチラが想像以上に可愛らしいので、心にかかる疑問をすっとばしてうっとりと頷いている。鼻から耳に掛けての短いビロードのような毛をすべすべと撫でてしまう。
「うん。なにを担げばいいの?」
危なくないならいいかな。力もちになったし。キャラメルポップコーンを含むチンチラのすがるような眼差しにかこまれてなんか良い気持ちで即ほだされている。
恐るべし、チンチラ!!




