まっくら
上から見た時に、深くない。
そう思ったから。
勾配がついてて足場があると見えていたから、1.5mくらい下の踊り場状の所に降りるつもりだった。
腕を伸ばして足元を探りながらズルズルと降りた。
横にさらにくぼみがあるからそこにしゃがんで居れば隠れていられそうだと践んでいた。
床下収納の蓋を閉めると真っ暗になるが、キーリングにつけている三灯LEDの小さなライトで足元と頭上の確認をする。すこし湿っているが濡れていない。
見つかりませんように。
彼らしくない振舞いで、まるで心中に持ちこまれそうで怖かった。
なぜあんなに思いつめていたのだろう。
直に座り込むので尻が冷たいし骨が固い地面に当たって痛い。
こんなところで暗闇に隠れんぼとか嫌すぎる。
頭上に注意を向けながら入って3分で後悔する。
静かにしていると微弱な余震すらも気になる。
埋まる恐怖と迫る元上司の恐怖。
膝を抱えて涙ぐんでると、気配がする。
その上、シッポから落ちてくる大蛇とか動かないサソリとか毒蜘蛛か?
ライトを灯す。
小さい毛皮の生物が視界をよぎった。
「っひぃぃー!!」
外に声がもれるから叫んじゃいけないのに。
「っっ!!チフス、ペスト、コレラ、エキノコックス!」
やばい。消毒液もっていたかな。とりあえず、えんがっちょ?
「無礼な。お前こそ風土病持ちだろう?」
動揺するわたしの耳に響く低い声。聞き覚えがない。誰だ?
小さな灯りがグルグルと洞の中を巡る。
足元にチワワサイズの耳の大きな齧歯類が数頭、逃げずに身体を起こしている。
警戒?
「おい。まぶしい」
わあ。この齧歯類の声か!小さいのになんで声が成人男性?
「成獣だからな。われわれは清潔だぞ。衛生的に暮らしているからな。見ろ、洞の中にカビもぬかるみもない。お前の足のほうが汚い」
…あぁぁ。土足で失礼しました。
保菌者ってのも、あれ?
っていうかわたしのほうがインフルエンザ?ノロ?ロタ?
とりあえず上から飛沫が散るのはまずいか。
ポケットを探れば予備のマスクが出てくる。
今日び、ノーブラで人前に出るよりマスク無しで対面するほうがバツが悪い。
「とんだ失礼を申しました」
ネズミさんごめん。
「いや、おれらチンチラだから!」
別の掠れた声が訂正してくる。
「重ね重ねご無礼を」
いや、寡聞にしてチンチラ、初めましてなんだ。
まあ、まっくらだからどっちでもわかんないや。
「ザツだなあ」
背後から呆れたような声もする。
囲まれているのか。小さい齧歯類に包囲されているとか、わたしはリリパット王国に着いたのか。
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