叱責
巣穴って居室と通路でできている。曲がりくねって高低差があるけれど言うなれば伝声管。
そして全館放送状態で轟いたのが、絶叫と怒号と打撃音と悲鳴。
甲高い叫び声でいきり立つ若い雄の叫びとがなり立てるヒトのわめき声。ゴツリと重い叩きつけられる骨の硬い音。痛みで呻く声。
シパパパパンっ!壁に響く打擲音。
尋常じゃない音に警戒する母親は岩の隙間の奥に幼い仔を押し込んで隠す。
険しい顔をした群れのリーダーたる山吹が精鋭(但しチンチラ)を率いて現われたとき、わたし達は大乱闘中だった。
未だ空中を十数頭の青年部が八艘跳びのごとく連携なしの乱飛行しては激突、巻き込みで玉突き事故をおこして壁や床に吹っ飛んでいくのを顧みもしないで、わたしにアタックをかけてくる。それを握りしめた繊維の束をしならせては張りたおして
「ふざけんじゃねぇぞ。おらぁぁぁっ!!」
聞くに堪えない罵声を浴びせながらの無双状態。
ブチ切れててもおたがい怪我には注意して、力一杯ぶっ飛ばすけど兄弟喧嘩の力加減なのは阿吽の呼吸ってヤツだ。
そんなわんぱくな顛末だとは思わない群れのリーダーは決死の覚悟で制圧に駆付けたのだから、それはもう怒られた。稀に正規の通路じゃない所からの侵入者は発生し、居住区の幼獣やメスを脅かすことがあるため全くシャレになっていない騒動だったらしい。また場所が明るさを優先して浅いところに設けた作業場所であるため、実際起こりえた。
床で目を回していた者も最後まで空中戦に残っていたものもわたしも全員正座で並べられる。気分はお白砂。チンチラの正座はお尻と四肢をつけたお座りだ。神妙なカオで山吹の威圧に耐える。
わたしと青年部たちの緊張感のなさ。群れのなかまが受けた影響。度々同じことをしたとき、実際の襲撃で受けるダメージがどれほど大きくなってしまうか。
懇々と諭される。静かに押し殺したお怒りがこわい。若チンチラはストレスでもさもさと脱毛しはじめる。やばい。
「狩りをする者は気配を探るのが上手いから、ミズキは油断してはいけない。新しく作った牧草地はおそらく既にマークされている。」
いかにも人の手が入っています。って分かるからね。
チンチラじゃなくてわたしがキッカケで巣穴を襲ってくる可能性があるのか。
鳥と鹿だけじゃなくて狩人も対策するのか。




