アミ
気温が順調に下がり始めたので蔓を綯う作業は春先まで先送りすることにした。
出来た縄を一部試験的に網目状に結び合わせてみる。網目からはチンチラが連れ出せないサイズに調節して、その規格にあう定規代わりに割り箸を折る。割り箸の長さに合わせて2本のヒモを結び合わせるのだ。
もちろん網で覆っても殺戮者が防げるわけじゃない。飛来するサギが屋上庭園の鯉を根絶やしにしたのだと行きつけの歯医者さんが泣いてた。網で池を覆っていてもその嘴でずぶりと刺す。持ち帰れなくて哀れな犠牲を落として帰る。ヤツは懲りずに来る。また犠牲が出る。都内のサギって珍しいと思うけど頻繁に現れては最終的に全ての鯉を屠ったらしい。
だから、きっとこの網で解決しきれない。でも抑止になるのではないかと期待しているのだ。
試作と縄は壁際に下げておく。踏まれたくないからね。するとキャアキャアと若チンチラ団が襲来する。豪天号よりも若い世代だ。青年部若手。でもチンチラなので好奇心が強いし、遊ぶ機会は逃さないマンだ。
ひょいと飛び上がって網を器用に登る。小学校の体育館にあった網登りをしている子の様だがこの網目は大きくてかなり登り難いはずなんだけど、ものともせず次々に集ってくる。
やめてほしい。強度に自信がない。防御網として活用する前にちぎれていそう。
ぶんぶんと身体ごと網を揺すって仲間たちが一斉にウヒャウヒャと奇声をあげてはしゃいでいる様子があまりにも愛らしいので咎めることが出来ない。
半ば黙認している状態で、わたしは自作のスピンドルを回す。
スピンドル、糸を紡ぐ道具といえば上等なんだけど、大ぶりのドングリに割り箸をぶっさした極めて原始的な代物だ。割り箸大活躍。ほんとうにビーフボゥルはお役立ち。
独楽が大きい方が捗るけれど繊維を引く力が強いので、短い繊維を紡ぐ都合上、小さい独楽でチマチマ紡ぐ。作業時間はあるのだし、寒くなる前に編み上がればいいのだから大丈夫だろう。
ドングリ独楽でやたら節のある糸を各色紡いで、双糸に撚ってからカセにする。
このところ一日中座り込んで黙々とドングリ独楽を回し続ける奇行にチンチラたちはドン引きだ。
わたしが作業している場所は以前から明るい地表に近い部分で居住スペースからちょっと離れている。わざわざ入れかわり立ちかわり様子見に来てくれている。ついでにアスレチックで遊んでいる。違う、それは運動具じゃない。
なお、そのメンバーには豪天号たちは含まれていない。豪天号の用があるときは訪ねてくるよう伝言してわたしが足を運ぶのだ。一時たりとも若紫ちゃんの成長から目を離したくないらしいよ?




