屋上緑化
これから新しい家族を中心にねずみ算的に群れは大きくなる。といいな。
なにしろ一年で成獣になり、子を成し、その子がまた一年後子をもうけるのだ。
爆発的に数が増える。…はず。
しかし、いままで何度かよその巣から新しい家族を拉致ってきたのにそうなっていないのはなんでだろう?
というわけでいろいろな理由を考えて、
まず食料事情を改善してみようと思ったのだ。
なにしろ入口付近の牧草地以外供給源がない。
入口から離れれば離れるほど肉食獣や猛禽の危険が増すのだからいまの牧草地の大規模化は合理的ではない。
牧草地以外の野生の草は疎らに生えている状態なので、回収に行くのは姿をさらして危険を冒して進む命がけの道中となり、緊急時以外避けたい。
緊急用の小さい穴の中に逃げ込むのもいいけれど、穴を掘ると上の草が枯れるので乱発出来ない。
「というわけでね、豪天号にお願いがあるのよ」
正確には新しく来た幼獣の伴侶達全員だ。
「わたしはあんた達の嫁ちゃんの防衛とお世話を約束するから
あんた達はわたしの新しい畑作りを手伝って欲しいのよ」
ヒトの集落から見えない方角で巣穴からアクセスしやすい日当たりの良い場所に牧草地と家庭菜園を作るのが望みだ。
なに、荒れ地だ。いくらでも場所はある。
ただ猛獣の襲来を避けたいので塀が欲しいが、木を切り出して杭打つなんて一人でやる作業じゃないしチンチラのすることでもない。
だからね。
「牧草地(仮)のまわりに落とし穴帯を作りたいの」
牧草地-塀になる分の土手-落とし穴乱発地帯
鹿やイノシシが落とし穴に落ちる、暴れるで一帯が掘になってゆく。
できれば狐など軽量な獣にも反応する落とし穴なら尚、良いのだが。
「じゃあ牧草地は台地状に残すのか?」
「いや、塀の影になるけれど窪ませて上にトリ除けの網を被せたいと思ってて」
鳥は目が良いので屋上菜園を食い物にするのだ。猛禽なら尚のこと新しい畑に注目するに違いない。
「そんな網があるのか?」
カスミ網という猛威を振るった御禁制品がかつて流通していたらしいが、アレに準ずるものがあれば既に集落の人が使っているはずだから、
まあ、ないよね。
せめて紫外線をカットすることができれば、いま制作中の葛縄風の蔓草ヒモでネットを作ってみたいのだ。カラス除けの黄色いネットとかゴミ袋のように忌避されるよう使いたい。
「紫外線カットが出来るとヒモも長持ちするから、なんとかできないかしら」
色褪せもしないし紫外線カットのメリットは大きい。
できなくてもネットを張るけれどね。
なにしろ猛禽の体捌きはすばらしいのだ。空中で飛行しながら翼を開いたり後ろにずらしたり閉じたりしながら枝を避け穴を潜り、加速も減速も回転もする。
スロー映像でパリ上空の高高度から驚異的な速さで地表の目的物に到着するようすは何度見ても飽きない。都市の景観がジェットコースターよりも早く流れていくあのスリル。
こんな縄で簡単に防げないのはわかるけど、それでも豪天号の命が惜しい。呪いくらいにならないだろうか。




