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床下の迷宮  作者: へますぽん


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あのときの初心者向け召喚陣

いまにも走り出して嫁の隔離用塔の間を作りに行きそうだった豪天号がふと振り返る。


「そう云えばあのときミズキはあの酒樽で何しようとしていたの?」

「酒樽と『サルでもできる初級召喚術』贄を捧げて簡単召喚。誰でも描ける召喚陣テンプレート付を購入したのだから、嫁召喚にきまっているッ」

ふんっ!鼻息で豪天号を飛ばすくらいの勢いで言い切ってみる。


「あー。ねー。ミズキあのときも素養がないって自白していたもんね。。。」

自白って酷いいいようだ。もちろん全くそっちの知識が無いけれど。


「召喚陣に現れるものは嫁さんじゃないのよ。魔物とか魔神とか悪魔とかそういうのが出るらしい」

お客様、巣穴にそんなもの出てもらっては困ります。お客様、ご遠慮くださいませ。

テロじゃん。

なんでそんな不穏な本売ってるんだよ。


「あと、生け贄とか生き血とか心臓みたいな臓物を捧げる。

その捧げ物と術者の能力と呼ばれる魔物の気分とかの兼ね合いで陣に現れる魔物が強力だったり小物だったりマチマチでその後の惨事の度合いが変わる」

惨事。

結末は決まってるんだ。


「でね。ここでそんなことしたら、たいへん。うっかり主様が陣のなかに登場しちゃうかもしれない。ぜったいに収拾がつかない。まぁ、オレらは最速で息絶えてるからその後のことは関係ないかもしれないけどさ」

迷宮に封じられている主様、ふとその気になったら登場していたかもしれないという。

幾度も要望に応えてくれた主様だからな。

リクエストしなくて本当によかった。


「召喚陣に現れる魔物には願いと代償を交渉して契約をするんだけど

オレらには主様がいるから、召喚の部分は要らなくて

供物とともに希うだけなんだ。

そして吾が主様はオレらに甘くて多くの望みを叶えてもらってきたんだ」

でも生け贄は必要だった、と。


「じゃぁ。わたしはとんでもないものを持って帰ってきたのね?とてつもなく的外れで災厄しかもたらさない害悪。そのうえあの悪党まで同道してしまったし」

無知由来の最低なやらかしに愕然とする。


「ミズキに実際に召喚できるくらいの力量があればね。

だいたいあの手の本はサルには出来ても人では出来ないとかそういうインチキが仕掛けてあるもんだよ。そうでないと魔物災害が頻発して生活なんてできないじゃないか」

サルに仕込んで召喚させるかもしれん。

いや。ないな。

仕込んでも、最後に契約させるところで羊羹たくさんほしいとか希いそうだ。


いま急いで作ってもずっと嫁を隔離しておけるわけじゃないので

丁寧に仕様を洗い出してから入念に愛の巣を仕上げるつもりらしい豪天号は

わたしの与太話に寛容だ。


「あぁ。でもね。オレもあとで山吹に言われたんだよ。もっと丁寧に具体的に願いを主様に伝えることができればより沢山の嫁さんたちがきたかもしれない。って」

主様はチンチラに甘いのか。

もっとこれから学ぶことがあるね。と豪天号のマズルから耳の付け根にむかってみっしりフワフワの毛をなであげる。

繊細な毛が驚くほどの密度で詰まっていて柔らかなその感触は触れているのに手の触覚を越えている。どう触れているのかわからないけど心地よい。

豪天号さいこう。

撫でられて目が弧をえがきうっとりと手の中に頭を預けてくる愛おしさ。

うちの相棒世界一ッ!!

チンチラ(仮)の繁殖が年に2回の想定でした。実際とは異なります。

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