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床下の迷宮  作者: へますぽん


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49/92

流入

草地に木が疎らに生えている。

街道沿いには風よけを兼ねて植樹されている。

幌の中から後ろに遠ざかって行く景色を見るくらいしかすることがない。


フードの中に潜んで腹に相棒を抱えて俯いてしずかにしている。

女の一人旅だと目立ちたくない。

はれぼったさを強調したまぶたと下まつげに沿ってアイブラック(野球選手の目の下黒い)風に強めのアイラインを描き込む。リップはプラム色。

乾燥した空気でかさつき粉を吹いている頬。

薄暗い車内のフードの下の顔を見たものがちょっと強ばる仕上がりだ。

…お化粧が下手なんじゃないぞ。


馬車には護衛がついているし、車内で揉めると面倒を厭う御者が街道に途中下車させるので

いまだかつてなく安心安全な旅をしている。

最初からそうすれば良かったのだと宿で相棒に語ると

そもそも草食性の小動物なんていつだって命の危機にあるのが通常運転だから

ぬるいこといてんじゃねぇやとキレられる。

常在戦場っていうの?

つやつやの毛皮に埋もれた戦士か。

食物連鎖の底辺は、よりハードボイルドだ。

そしてわたしも加護があるとはいえ、脆弱さにおいて底辺よりなことを思うと覚悟がたりなかったんだろう。

あぁもうたとえ尻が割れても馬車から降りたくないわ。


だが、どんなに望んでも旅には終りがある。

馬車にも終点がある。


王都に着いた。たのしい3日間だった。

また狩られる日々が始まるのだ。

そうびくびくしながら停車場をあとにした。


胡散くさいフードを被った大荷物の田舎者。

停車場から出た瞬間からカモ認定だ。

が、馬車にのっていたのは似たようなものだし、馬車はじゃんじゃん到来する。

でてゆく人の流れに紛れて、市街地に流入する。


馬車の中で聞いた旅人宿にチェックインする。

慣れない土地は口コミがたよりだ。

そもそも知らない人同士で話題がないから、目的地について話すことくらいしかない。

これまでの経緯から、それ以上は怖くて打ち明けられないし。


採った茸でも売りに行けば当座の宿代になるだろう。

馬車代にもなったし。

あのとき無頼がはしゃいだ意味が実感される。

暗がりで大量に採取できたのは相棒のおかげだ。GJ!


荷物を部屋に預け、茸を売りがてら市の立つ辺りをまわる。

毛皮の扱いのあるところや小動物を商うところもチェックだ。

いかにも冷やかしで暇そうに見えるらしい。

もう目の下に黒い模様をつけていないしリップもローズだから気安く声をかけてくる。

痴漢よけのメイクってほんとに効くな。

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