追っ手 【差し替え】
「豪天号の可愛いところはねー
まず、シッポが生えていることね。
そのシッポの先がふわふわの梵天になっているところは神の愛を感じるくらいかわいいわ。
それからね
耳が最高に愛らしい。
大きな耳がくるくる動くとわたしの心の目がぐるぐる回って倒れちゃう」
毛皮に櫛を入れながら、ほぼ聞く価値のない、意味のない与太をだらだら口から垂れ流す。
可愛いね。大好きだよ。っていう語彙をどれだけ増やせるというのだ?
日が陰り、藪に隠れた相棒特製の巣穴で野営をするといっても
おのおの草と携行食を口にすれば後は眠るだけなんだもん。
だが夕方は人気がなくなって治安が悪くなるから早めに街道から外れておく。
黄昏の街道に複数の馬のひずめの音と嘶きと男の声が響いた。
「おうっ!見てきた!この先の宿場にはいなかった」
「あのミノムシがこの先に行ったのを見たというヤツが手前にいたぞ」
「やっぱり、このあたりのはずなんだ。野営地にはいなかったけど」
苛立ちで語気が荒い男たち。
なんか、ぜったい関わり合いになったらいけない人だ。
「野営出来る場所って他にないのか?」
「水が確保できて、天幕が張れそうなのはさっき見た場所とこの先くらいだろ」
「両方見たじゃないか」
「あー。さっきからなんか食いもんの匂いする」
「おまえ、立ち止まってんのそのせいかっ!」
犬のような嗅覚があるんだろうか。白おにぎりの匂いってそんなに強かった?
そっと物音たてないように、巣穴の奥ににじりさがる。
こわくて身体が強ばる。
街道の脇の草をかき分けるガサガサという音が聞こえる。
「あー!!茸どんぐりの木じゃんっ!」
犬嗅覚の声がまた響く。
「待って!待って!ミノムシ追うよりぜったい金になるってっ!」
「おい!てめぇ。待てよ。どこ行くんだ。こらっ!」
「こっち!ぜったいっ!!!そうだよ、今、夏の旬じゃん」
「ぜったいに今日はついてるって!!」
興奮した声がどんどんと離れていく。
苛立った怒声が突然歓声に変わる。
雄叫びといってもいい。
なぜ歓喜?
すこし向こうの灌木の切れ目で騒いでいる。
ウキャアってどこのサルだろう。ウホウホってゴリラごっこか?
やがて、はしゃぎながら街道に戻っていく声と気配。
何か獲れたんだろう。
狩られたのがわたし達じゃなくて良かった。
「ねえ、豪天号。バックパックを草で偽装するのもダメなんじゃないかしら?
わたし達、ミノムシ呼ばわりされているんじゃない?」
「追い剥ぎに狙われるような貴重品あったっけか?」
「豪天号が貴重生物なのかもよ?」
「それって、おれの伴侶が生息していないってことかよ?」
「少なくともこの界隈では稀少生物あつかいじゃないの?追い剥ぎする程度には」
「茸より劣る価値らしいけどな」
ブラックベルベットのプライドが傷ついたらしい。




