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床下の迷宮  作者: へますぽん


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山のあなたへ

木立に入ってしまえば、目的の山は見えなくなってしまう。

地図は東西南北が曖昧で、必ずしも北が上ではないようだし縮尺も一定ではない感じがする。

判るところは詳しく描いて、情報が欠落している地域はワープだ。

そのうえコンパスがない。

ルネサンス三種の神器は火薬、活版印刷、羅針盤だ。

これが伝播してから、軍事も交易も文化も著しい発展を遂げた。中世はそこで終わったのだ。


そのコンパスがない。どこかにあるかもしれないが、ここにはない。

針を磁化させれば良いがコイルと電池がない。

地図が読めないじゃん!


むしゃぁぁっっ!!


苛立ちで奇声をあげると懐の相棒がぷるるるるっ!!と身体をふるわせる。

しまった。耳が良いんだった。ストレスを与えるつもりはなかったんだ。

「ごめん。どっちに行くか判らなくなった」

「そうなん?」


そういうおやじギャグは好みません。とくに山の中などでは不快です。


「まだ、後ろに街道が見えるから。いまのところは遭難じゃないでしょう?」

でもこの曖昧な地図で山に入ったら、遭難以外の展望が見えない。

「街道に沿って藪を進むしかないか」


主様のおかげで脚力と体力があるから悪路だろうと藪、沢、崖、獣は我慢する。

何日くらいここから離れたら噂が消えるだろう。


道を進みたい。

二日目で泣き言が出た。

へたれでけっこうだっ!


「瑞希、その外套を変えればいいんじゃないの?」

「脱いだらバックパックの違和感がすごいんだけど?」

それを覆うために外套をまとっているんだし。



相棒が言いたいのは、農家の背負子のように偽装しろということらしい。

しきりにアレだ。アレ。とはるか遠くを歩く人を示す。

見えんよ。

俵っぽいものを背負っているのか二宮金次郎なのか?サンタ?

とりあえず、草をむしろというかすだれ状に綴ってバックパックを覆う。

相棒と二人がかりで腰をかがめて作るがかなりの労力を要した。


「ここまで頑張ったんだから偽装がうまくゆくといいんだけど」

藪を漕いだほうがラクだったのか、迷うくらいだ。


日よけの布を被り、外套は収納して菰で覆った荷を担いで

山までの分岐点目指して街道を再び歩き始めた。

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